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放火

体育終わり、火照った君はいつも決まって髪の毛を気にしている。

そして私はそんな君にいつも気を取られる。

三限、数学の時間、ボーっとしながら君の後ろ姿に見惚れていたら

君がなんの素振りもなく振り向いて、

なんとなく目が合って、

1000メートル走を駆け抜けた後よりも私の心臓は強く波打った。

ああ、心臓に悪いよ。

汗で湿った君の髪が五月の太陽に照らされては

五月の風に吹かれる。

何なら私もこの風に乗って君のいない隣町まで運んでくれ、

なんて安っぽいセリフをノートに書き留めては消して、

でも君への想いは消しゴムで消えるくらい薄っぺらいものではなくて

水性インクが滲んでしまうようなものに似ている。

無理に消そうとしても逆に広がってしまって、

しまいには破れてしまって落ち込んでしまう時もあるけれど、

結局君の笑顔で、君の声で、君の変な仕草で

繋ぎ止められる。

君の笑顔が見れたらなんだかもうそれだけで幸せで

何もしてしてないのに勝手に人を幸せにする君は

一周回って罪深いと思うなあ。

無邪気に校庭で遊ぶ君も、お弁当頬張る君も、居眠りする君も

どのページを開いてもキラキラしてる。

それでも女の子と話すときはなんだか着飾って、

色鉛筆で自分自身に色付けて

色っぽくなったとか思ってるのかわかんないけれど

逆にかっこ悪いよ。

君は君のままで

私は思いのままに君を好きでいて

それだけで十分だった。

五月も中盤に入り、春風が恋しくなる時期。

知らなかった。

彼女、できたんだね。

おめでとうって言ってあげなきゃいけないんだろうけれど、

私の心はそれを許してくれない。

心に灯り続ける君への想いは

季節外れの梅雨に濡れてもなかなか消えなくて

火は勢いを増して

苦しいよ、心が痛いよ。

火、ちゃんと消してよ。


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