第Ⅲ回 アリストテレス 「幸福は自分で考える」
アリストテレスはプラトンの弟子で、西洋哲学上、最多ともいえる著作を残した博学の士であり、学術貢献度の面でも肩を並べるものはいません。
アリストテレスは、幸福な人生とは何かという問題についてこう主張しています。
「幸福な人生とは、外に求めるものでも運に頼るものでもなく、自分自身で決めるものである」
1.「幸福にしてくれるもの」を手に入れれば本当に幸福になれるのか
私たちは自分が欲していた外在的な事物を手に入れたとき、明らかに幸せだと感じます。ということは自分を幸せにしてくれるものを追求し続ければ、本当に幸福な人生が手に入るということなのでしょうか?
一般市民の幸福のアイテムとしてよくあげられるのは結婚。ここで大事なのは幸福を手に入れるポイントは結婚でも、結婚相手を選ぶことでもなく、結婚した二人がどのような関係を築けるかです。
結婚したから幸せになれたのではなく、相手と良好な関係を築いたから幸せになれたのだといえます。
やはりアリストテレスの言うように、幸福になるポイントは、外在的な事物を手に入れることではなく、あなたがどういう人間で、あなたの選んだ人といかに良好な関係を築けるかにかかっています。
2.物質的に豊かな暮らしは幸せなのか
結婚は幸福だという文化的伝統に加え、この社会には金銭こそが幸福の鍵だと思っている人も数多く存在します。しかし本当にそうなのでしょうか。
多くの人は十分な金が手に入れば、その先幸福で楽しい人生が送れるという思い込みから金儲けを人生の再重要事項と位置付けています。
しかし、金持ちはもれなく幸福だということにはなりません。個人が幸福か否かを決定づける要素はまだまだたくさんあり、富はその中の小さな要素に過ぎないのです。
3.友情は金銭以上に幸せにしてくれる
ここで注意すべきなのは衣食住を満たすある程度の金銭は必要だということです。しかし、それを満たすことが出来ればそれ以上の金銭がもたらす幸福には限りがあると言われています。
アリストテレスは金銭が幸福を追求するうえでプラスの役割を演じることを否定しているわけではありません。彼は金銭を外在的な善としました。
「私たちが何かよい事業を行おうとする時、もし金銭がなければ、不可能ではないにしても困難である」
とも言っています。しかし、ささやかな幸福を軽視して盲目的に金銭を追求するのは本末転倒です。
彼は、幸福な人生を手に入れたければ、多額の金銭よりも人付き合いの能力のほうがよほど助けになると考えました。大勢の友人がいて、互いに行き来し、助け合い、気にかけ、雑談できれば幸福で楽しい気分を味わうことが出来るのです。
4.幸福をもたらすのは自分の能力と素質
何かを手に入れさえすれば人生はバラ色になるわけではありません。それは束の間の快楽でしかありません。
私たちは、人や物に頼っても幸せにはなれないのです。そうなると私たちに幸福をもたらしてくれるのは、自分の能力と内在的な性質だけということになります。この観点は、実は現代の幸福学の研究とも合致しています。
そこで、快楽と喜びをはっきり区別する必要があります。喜びとは、静態的かつ持続的な快楽であり、そういう種類の快楽こそが幸福感につながっています。
しかし私たちは日頃から欲望に任せた快楽を追求することに慣れているため、自分では幸福を追求しているつもりでも、実際はどんどん幸福からかけ離れていってしまいます。
5.快楽を追求するより喜びを追求する
快楽は二種類に分けることが出来ます。一つは幸福をもたらすもの、もう一つは不幸をもたらすものです。見分けるには、先ほども述べた通り、幸福は長時間持続する感情なのです。
逆に長くじっくりと味わうことのできる快感も多くあります。いまはそれほど楽しくなくても時間が経つうち自信につながることがよくあります。
しかもいつ思い返しても喜びに満ちた感覚に浸ることが出来ます。そういう事柄がたくさん積み重なれば、もはや幸せになれない、なんてことはありえません。
6.「優れた性質」が私たちを幸福へと導く
アリストテレスは優れた性質(アレテー)を備えていれば、喜びを幸福につなげていく事が出来ると考えました。
たとえば、「寛容」の心。寛容の心には、他人の身勝手に対する怒りを収めて取り除く作用があり、気持ちを軽くしてくれます。
その人を変えることはできないけれど、少なくとも自分の幸福が壊されることはありません。そういう内在的な性質は私たちをスムーズに幸福へと導いてくれます。
「寛容」になるには、まずは意志をもつことです。意志をもつということはすなわち寛容という幸福の道を知っているということであり、幸福のために進んで他人の悪行を許そうとします。
内在的な性質を鍛えることさえ出来れば、これからはもう幸福な人生を他人の邪魔される心配はなくなるのです。
また「寛容」になることで、人との衝突が減り、コミュニケーションが円滑になります。そして過去の自分を許すことが出来ます。他人に寛容になることを学ぶと同時に、自分にも寛容になることを学ぶべきです。
寛容の心という優れた性質を一つ備えるだけで、いくつもの不愉快な気分を軽減でき、多くの幸福がもたらされます。
つまり私たちは、優れた性質を多様に備えることで、もっと簡単に幸福な人生を獲得することが出来るのです。
7.優れた性質を身に着けるには実践し、習慣にすること
優れた性質を養う方法は「実践し、習慣にする」ことがアリストテレスの答えです。
たとえば「寛容」の場合は、寛容になれるチャンスが来たらなるべくそれを実践し、心の中の感覚を切り替えようと努めます。そして、うわべだけでなく、心の底から湧き上がる寛容を試すことがポイントです。
身近なところでいうと「早多き」、他にも「勇気」、「知恵」、「公平」、「善良さ」、「誠実」、などもすべて人生を幸福へと導いてくれる優れた性質です。
そしてそれらを養おうという意思を持つだけでも、人生は幸福に向かって進み始めます。そういう日々が続けば、優れた性質の数々はより深みを増し、私たちはより幸福になれるのです。
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