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職場環境とストレスの定量化

 「仕事を通して発生するストレスの影響とその定量化」に関するお話です。

 TechDoctor のデータサイエンティストの杉尾です。
 「ストレスのような広義で非物質的な概念を定量化したい」といったモチベーションの方々に、少しでも価値のある情報をお届けすることができれば幸いです。

 冒頭に失礼いたします。弊社へのお問い合わせはコチラになります。
「こんなことはできないか?」、「こういうサービスまたは研究をしたいんだけどサポートしてくれないか?」など、何なりとお申し付けください。


1. 深刻化するストレスの問題

 「ストレス」という言葉は誰しもが知っていると思います。人は何かしらの活動する上で常に刺激を受けます。それがストレスにもなりうるものです。職場や労働環境による「うつ」の原因が慢性的なストレスである、といったことをニュースなどで耳にしたことがある人も多いでしょう。そこで、近年企業での「ストレスマネジメント」や「メンタルヘルス対策」が重要視されてきています。ストレスの軽減にはコミュニケーションをとることも効果的であるようで、チームとしてコミュニケーションを積極的に取るようにしている組織や介護組織のような仕事量の多いような組織では労働者がストレスをセルフケアできるような組織づくりを目指すなどの対策がされています。[1,2]

2. ストレスの原因と影響

 ストレスとは具体的にはどのようなものなのかは非常に不透明で全容が掴めないものです。では、どのような事柄がストレスにつながる可能性があり、またどのような影響があるのでしょうか?

 ストレスの原因となりうるものをストレッサーと呼ばれています。ストレッサーは大きく分けて以下の3種類に分類されます。[3]

心身的ストレッサー
「ウォーキング」や「座位でいる」などの行動が元になって精神的に影響を及ぼすような行動のことを指します。

物理的ストレッサー
「光の強さ」や「環境温度」などの物理的な要因のことを指します。

精神的ストレッサー
「人間関係」や「経済的な問題」、「職場での問題」などによる刺激のことを指します。私たちが普段「ストレス」と言っているのは主に精神的ストレッサーと同じものになりますね。

 ストレスを捉えるとき、よく幸せな状態の対照として考えられることが多く、そのため脳内ホルモンと関連があるように考えられることもあります。例えば、幸せに関連するホルモンとしてはセロトニンなどが挙げられ、太陽の光を浴びることが効果的であるとされています。つまり、太陽の光を浴びずに過ごすことは幸せでなくなるだけでなく、ストレスをためていることにもなってしまうということが参考文献[4]で述べられています。一方で、ある程度のストレスは「刺激」という言葉に置き換えることができ、逆にwell-beingや幸せ幸福度いい影響をもたらすこともあるようです。例えば、参考文献[5]では、204名の大学生を対象に質問紙による調査を実施し、作業中でのストレスは終了後の「達成感」に関係があるようだと報告しています。

 ストレスの影響としては、うつ病を引き起こしてしまうことや、自殺の要因になってしまうことがあることは想像に難くないでしょう。実際の研究では、職場での「自分の役割・職務の不透明さ」や「職場での人間関係における葛藤」に関して上司や同僚からの支援がない場合、仕事における緊張感上昇や職務満足度の低下、抑うつ症状が現れることが報告されています。[6]

3. 職場でのストレスの影響

多くの人の人生にとって、仕事に費やす時間は大きいでしょう。そして、そこで発生するコミュニーケーションや職場環境は我々の人格、生き方に大きな影響を与えます。筆者自身も無邪気に生きていた学生時代と比べると、いろんなものが変化してしまったものです。それ故に、その環境や人間関係の良好な構築に意識を向けていくことは大事だと思います。

 では、職場でのストレスがどのような影響を与えるのか、見ていきましょう。

 まず、職場でのストレスは、仕事の生産性を下げることが知られています。参考文献[7]によると、ストレスを軽減するようにマインドフルネスに基づいた介入を組織に対して行ったところ、マインドフルネス特性の高さと仕事・作業でのパフォーマンスや生産性の向上が関連していることが報告されています。
さらに、職場でのストレスと職員の創造性が関連しているとされています。参考文献[8]では、職場においてどの程度気晴らしができるかといったことや仕事への満足度、主観的な職場でのストレス値が職場での創造性の高さに影響があることを報告しています。

4. ストレスの計測法

 上記でストレスに関する研究事例を紹介させていただきました。では、それらで定量的に評価されているストレスは、どのように計測しているでしょうか。それらに関して詳細を見てみましょう。

基本的には質問紙での計測が専らです。例えば、ストレス自己評価尺度や精神健康調査、職業性簡易ストレス調査票などが挙げられます。[9]

 一方で、生体データとストレスを結びつけるための研究も行われつつあります。例えば、唾液に含まれる免疫成分に注目して唾液を摂取して成分を分析することでストレス度合いを計測することを試みる研究や脳波や心拍数変動、加速度脈波などとストレスの関係を探る研究があります。[1, 3, 9 - 11]
参考文献[10]では男女の被験者37人のデスクワークしている成人に対して、作業中に心電図を計測し、アンケートを用いてストレス度合いを計測してそれぞれを比較したところ、それぞれの指標の間で関係があることが認められた、と報告されています。
参考文献[11]では、成人の男女20名に単純作業を行わせて、作業中での緊張の度合いやストレスの度合いと呼吸や心拍数との関係を検討しており、安静時と比較することでストレス・緊張が生体データと関係があることを報告しています。

 これらのような先行研究からもストレスと生体的な反応に影響するような関係があり、ストレスの度合いを探究するために生体データに注目することが有用であることが確認できます。

5. 今後の記事に関して

 今回の記事では、ストレス(特に職場でのストレス)とその定量化方法に関してまとめました。
 次回以降は、

・リモートワーク下における仕事とストレス
・質問紙によるストレスの計測方法
・ストレスとそのバイオマーカー
・うつ病と心拍変動

に関して話を掘り下げて、記述していこうと思います。

 今後も、継続的にこの領域に関してキャッチアップした上で、発信をしていきたいと思います。ご興味を持っていただけたならば、「スキ」していただけると中の人が喜びます。


参考文献

[1] [https://solution.lmi.ne.jp/column/archives/7711](https://solution.lmi.ne.jp/column/archives/7711)
[2] [https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/61/61_5.pdf](https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/61/61_5.pdf)
[3] N. Atsunori and Y. Masaki, "Evaluation of Human Stress using Salivary Amylase," Japanese Society of Biofeedback Research, vol.38, No.1, pp.3-9, 2011
[4] 小西正良, 吉田愛実, "セロトニン分泌に影響を及ぼす生活習慣と環境," Journal of Osaka Kawasaki Rehabilitation University, vol.5, pp.11-20, 2011
[5] 宇佐美尋子, "ストレスプロセスにおける主観的幸福感の機能-主観的幸福感と反応型および事前対応型ストレス対処との関連-," 聖徳大学研究紀要, pp. 15-20, 2014
[6] 荒記俊一, 川上憲人, "職場ストレスの系以降管理: 総説," 産業医学, pp.88-97, 1993
[7] D. J. Good, C. J. Lyddy, T. M. Glomb, J. E. Bono, K. W. Brown, M. K. Duffy, R. A. Baer, J. A. Brewer and S. W. Lazar, "Contemplating mindfulness at work an integrative review," Journal of Management, vol.42, pp. 114-142, 2015
[8] D. Stokols, C. Clitheroe and M. Zmuidzinas, "Qualities of Work Environments That Promote Perceived Support for Creativity," Creativity Research Journal, vol.14, pp.137-147, 2010
[9] 田中喜秀, 脇田慎一, "ストレスと疲労のバイオマーカー," 日薬理誌, vol.137, pp.185-188, 2011
[10] 高橋圭太, 井上浩, "心拍変動によるVDT作業者のストレス・疲労の定量的検討," 秋田大学資源学部研究報告, 30号, 2009
[11] 下野太海, 大須賀美恵子, 寺下裕美, "心拍・呼吸・血圧を用いた緊張・短調作業ストレスの評価手法の検討," 人間工学, vol.34, No.3, pp.107-115, 1998

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