リモートワーク時代の「新しい『企業文化』様式」
スコラ・コンサルトの滝口です。普段は企業風土やチームワークの実態調査をしながら、情報発信や社内のITなどにもかかわる“なんでも屋”です。
春ごろからリモートワークを余儀なくされて以降、ウェブ会議システムなどのITツールやオンラインでのコミュニケーションのコツに関する情報を目にする機会が増えました。サイボウズとスコラのコラボチームでも、「オンラインざつだん」を数回開催し、リモートワークの実態や困りごとについて参加者と意見交換をしました。
そういった話をもとにしながら、今回はツールやコツとは違う切り口として、企業文化の側面からリモートワークに適応する道すじを考えてみます。ツールやコツのような即効性はないかもしれませんが、自社の文化を見つめるヒントとしてお読みください。
以前からあった問題がリモートワークで露呈
リモートワークでは、こういうことで困ったという話を聞きます。
🌸ウェブ会議でも相変わらず偉い人がたくさんしゃべる。なかには、偉い人から退出するのが慣例という会社もある。
🌸ウェブ会議上では本音が言いにくいので、事前の根回しが必要だったり、その場で言えない本音はあとで仲間と愚痴る。
🌸リモートワークでは、上司は「部下がさぼっているのではないか」、部下は「さぼっていると上司に思われているのではないか」という相互不信に。監視を強化してしまう会社もある。
🌸ウェブ会議は表情が見えにくいのでやりにくい。雰囲気を読みながら阿吽の呼吸で進めるという、これまでの得意技が通じない。
一方、メリットも聞かれます。
🌸ウェブ会議だと平等に話せる感じがする(特に、役職が下の人や自分だけ遠隔から参加することが多かった人にとって)。比較的ITに長けている若年層は、リモートワークのメリットを感じている。一方、マネジメント層は指示命令の伝わりにくさを感じている。
🌸リモートワークでは、長時間在席することで忠誠心を見せるのではなく、仕事の結果を見る傾向になった。集中して仕事ができ生産性はむしろ上がっている。ただし、「どうやって評価するのだろう?」と上司も部下も困っている。
🌸ウェブ会議では目的を明確にすることや、一人ひとり意見をしっかりもつことが大事になっている。意見が良ければ立場に関係なく認められるので、これまでとは違う人が活躍する現象も起こっている。一方で、言語化されにくいことを切り捨てていないだろうかという心配も聞かれる。
なかば強制的にオンラインに移行したことで、問題とメリットが一気に噴き出してきた感じです。しかし、よく見ると新しい問題という感じがしません。会議の生産性、上司・部下の関係性、時間管理ではない評価の仕方。これらは日本企業が以前から放置してきたマネジメントの問題です。
リモートワークで生じる問題の中には、ツールやコツといった技術で解決できることもありますが、前から気づいていたのに放っておかれたというタイプの問題には、根深い文化的な要因が関係しています。
ある会社はオンライン化の流れをチャンスと捉えて、リモートワークのメリットに目を向け、ツールもうまく活用しながら変化していく。別の会社はもともと存在していたマネジメントの問題を増幅してしまい、リモートワークの問題点に目が向いてしまう。こういう違いが生まれる根本の部分では企業文化が影響しているのです。
オンライン化のチャンスを活かせない日本企業の文化
エリン・メイヤー氏の著書「異文化理解力」には文化を理解するための指標が登場します。それを参考にすると、日本企業の特徴はこうなります。
決断の仕方は合意志向
●合意志向 :グループ全員の合意の上決断する。
●トップダウン:個人(主に上司)が決断する。
上司・部下の関係は階層主義的
●階層主義的:上司は部下を強く導く旗振り役。肩書が重要。組織は多層的で固定的。序列に沿ってコミュニケーションが行われる。
●平等主義的:上司は平等な人々の中でのまとめ役。フラットな組織で、序列を飛び越えてコミュニケーションが行われる。
コミュニケーションのとり方はハイコンテクスト
●ハイコンテクスト:繊細で含みがある、行間で伝えて受け取るコミュニケーション。はっきり口にせずほのめかして伝える。
●ローコンテクスト:シンプルで明確、額面通りに伝えて受け取るコミュニケーション。明確にするために繰り返しも歓迎される。
タスクベースというよりは人間関係ベースで信頼を構築
●関係ベース :信頼は、食事をしたり酒を飲んだりして築かれる。長い時間をかけて深いところや周りの人のことも知って信頼する。
●タスクベース:信頼は、ビジネスに関連する「いい仕事」をすることで築かれる。その人の仕事に満足することで信頼する。
(「異文化理解力」をもとに作成)
こういった文化的特性が良い方向に働くこともありますが、「序列を意識したハイコンテクストなコミュニケーションスタイルで、その場の空気や人間関係を気にしながら決断する文化」は、そのままだとオンラインとの相性は悪いでしょう。また、各自で判断して仕事を進められる裁量を増やし、タスク自体の評価にも目を向けていかないとリモートワークは機能しにくくなります。
これらの指標を縦軸と横軸にとり、各国をマッピングしてみたところ、興味深いことがわかりました。
(「異文化理解力」をもとに作成)
「リード」の指標(≒上司と部下の関係)を縦軸にとり、「決断」を横軸にとりました。右上に配置されている国は「上司と部下などメンバー同士の関係が平等で、合意による意思決定をめざす文化」であることを意味します。一方、左下なら、「階層がはっきりしていてリーダーがトップダウンで決定をくだす文化」です。
好き嫌いはあるかもしれませんが、左下か右下だと文化の組み合わせとしては相性が良さそうです。また、ほとんどの国は左下から右上にほぼ直線上に並んでいます。ところが、日本だけは右下にポツンと位置しています。
次に、縦軸をコミュニケーション指標に替えました。
(「異文化理解力」をもとに作成)
アメリカの位置が変わりスウェーデンのデータがないですが、左下から右上におおむね直線状に並んでいます。(なお、図にはしていませんが、信頼の指標(関係ベースvs.タスクベース)も、リード、コミュニケーションの指標と似た傾向です。)
決断指標も本来はリード、コミュニケーションと似た傾向があるため、たいてい各国は直線状に並ぶのですが、日本の位置は欧米だけでなく他のアジアの国と比べてもだいぶ外れており、文化の組み合わせが独特です。
このねじれの原因は、合意志向の決断スタイルにあります。リードとの組み合わせでいえば、階層主義なのに合意志向になっているのです。つまり、日本企業には、序列を重視しつつ全員が合意できる決定を目指す傾向があります。
合意志向を活かした「新しい『企業文化』様式」の可能性
合意志向は悪く働くと、空気を読んで忖度し責任の所在が不明になる日本的調整文化を助長するので注意が必要です。しかし、合意志向自体は本来悪いものではなく良い面もあります。メンバー同士で共感度の高い合意ができたときには大きなエネルギーになりますし、議論しながら一人では思いつけないアイデアが創発することもあります。
そこで、合意志向を活かしながら階層主義とハイコンテクストなコミュニケーションスタイルをもう少し緩和する(上方シフト)する方策はないか考えてみました。
🌸合意志向が不具合のある仕組みに陥っているものは見直す
🌸階層意識が弱まる仕掛けを施して定着させていく
🌸もう少しローコンテクストなコミュニケーションも可能にしていく
まずできることとして、合意を求めるあまりに稟議の仕組みが「スタンプラリー」と称されるほど決済者が多いプロセスになっていたら、簡素化したほうが良いでしょう。ただし、長年続いてきた仕組みに無駄を感じていても「やめよう」とモノ申せない雰囲気がそもそもあるのかもしれませんが。
一番のカギは、序列意識を弱める仕掛けを入れて定着させていくことだと思います。「上司も部下も関係ない平等な関係で話そうよ」と意識するだけでそれができれば世話ないのですが、染みついたコミュニケーションスタイルをいきなり変えるのは難しいです。そこで関係性の構造だけ変えてみましょう。
まずは少人数で丁寧に話し合い、安心感を築くことから始める。状況によっては上司抜きの話し合いの場を設けて忌憚ない意見を交わす。そこから徐々に、人数が増えても上司がいても意見を言える状態にしていく。リアルの場でもウェブ会議でもこういう点に留意してはいかがでしょうか。違和感を表に出せたり、秘めた思いを言えたりするような安心のベースが築ければ、質の高い合意形成につながります。
最後に、すぐに変えるのは難しいかもしれないローコンテクスト文化について。確かに、リモートワークでは誤解の少ないやりとり、ローコンテクストが求められやすいです。ただし、むやみにローコンテクスト文化を促進すると、人間関係を気にせずタスクの話をズバズバ言い合う文化になりかねません。日本の場合は、持ち前のハイコンテクストの良さを活かして、言葉にならないような気持ちにも気を配りながら、安心できる関係を築いた上で、タスクの話や深刻な話ができればよいのではないでしょうか。そして、話される事柄の意味や目的、背景を少しずつでいいので明らかにしていく。そういった「ややローコンテクスト」なやりとりができれば、もともと持っている合意志向が良い方向に働くと思います。
オンライン化の流れは今後も加速していくのかもしれません。目の前の問題の対応に追われてしまう時もあると思いますが、いったん立ち止まって、「そもそも自分たちの会社はどんな文化だろうか」と話し合ってみてはいかがでしょうか?今後私たちコラボチームも、皆さまと話し合う機会をつくっていきたいと考えています。