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酒好きになり店を出したら人に騙され人に救われた話⑭

大学4年の冬

卒業すると、なかなか実家に帰れないだろうなと思い

長崎に帰省した時、両親からの言葉に耳を疑った。

18年間一緒に住んでいたばあちゃんが入院していたのだ。

それも、余命が残り少ないということも同時に聞かされた。

両親は伝えると”動揺するだろう”という気持ちもあり

伝えてくれないでいたのだ。

すぐ病院へ向かう

今日、亡くなる訳ではないが

”一刻も早くばあちゃんに会いたい”

この気持ちだけで必死に病院に向かった。

病院へ着くと、親戚のおばちゃんも病室にいた。

おばちゃんからするとばあちゃんが母親にあたる

「しょうちゃん、久しぶりやね」

おばちゃんがいつもと同じような口調で優しく話しかけてくれた

そして、ばあちゃんの耳元でささやく

「ばあちゃん、正太が来てくれたよ」

その優しい口調と一緒に

ばあちゃんの手を優しくさすっていた。

でも、ばあちゃんからは返事はない。

もう、ほとんど話すことができない状況だったのだ。

悲しい気持ちを抑えてばあちゃんに近づく

「ただいま、帰ってきたよ」

泣くのを堪え、絞り出すかのように声を出した。

静かな病室の中にばあちゃんの呼吸する音だけが

やけに大きく聞こえていた。

大学に入るまでの18年間

ずっと一緒に暮らしたばあちゃんとの別れが近づいている

しかも、今は福岡にいるため

もう生きてる時に会うことはできないのかもしれない。

そう思うと、涙が溢れ出てきた。

一方的に思い出に浸りながら会話を続けて

1時間くらいが過ぎただろう

「帰ろうか。」

おばちゃんが優しく促してくれて

帰路に着こうとした時だった

病室を出るタイミングで弱々しいが

懐かしく優しい声が耳からスッと入ってきた。

「正太、ありがとね」

その温かく優しい声が聞こえた瞬間

堪えていた涙が溢れ出した。

もう一度、病室のばあちゃんの横に行き、声をかける

「また会おうね!」

涙を拭い去りながら声をかけたのも

しっかり聞こえていたのだろうか。

その答えはわからないが

これがばあちゃんとの最後の会話だった。

悲しい気持ちを堪えて福岡に戻った。

東北で大震災が起き、まだ1週間しか経っておらず

日本中が混乱している中

3月17日

大学の卒業式を明後日に迎えていた。

そんな時に普段ならかかってくると嬉しい着信が

その時ばかりは見たくもない着信画面だった。

母親からの電話だ。

意を決して電話に出る

「正太、ばあちゃんが危篤やけ帰っておいで」

「わかった・・・」

多分そのくらいの会話だけだったろう。

すぐさま、長崎へ帰る準備に入った。

しっかり帰りを待ってくれたのだろう。

なんとか、生きている間に戻ることができた。

その数時間後、ばあちゃんは安らかに息を引き取った。

大学生になってから

「正太が大学卒業までは生きないかんね」

これが口癖だったばあちゃんの葬式も何かの縁なのだろう。

大学の卒業式の日と葬式が同日だった。



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