見出し画像

就活失敗して頭に来たので独立したが就活の方が楽すぎて草ww⑦

「もうチラシを配るのはやめよう」


諦めるというよりは、


このまま続ける事が 
むしろマイナスだと気づいた。


仕事をしていく上で、
誰もが気にも留めない事。


“どうやって顧客を獲得するのか?”


大きい企業であれば、
営業企画部やマーケティング部があり、


効果的かつ効率よく、
顧客を発見するだろう。


だが、よちよち歩きの
零細企業すらにもなれず、


個人事業主にすら登録もしていない
スズメたちにとって、


この問いは、過去に経験した
どんな試験問題よりも難しく、
そして骨身に染みる問題だった。


「俺たちもお客さんを増やすために、
 チラシのポスティングをしようぜ!」


尾崎はいつものベンチで、
ノリノリな様子で伝える。


「ポスティング??」


最初に聞いた時は、
あれだけ受験に向けて英語を取り組んだのに、
全く、日本語の意味が伝わらなかった。


「俺たちがやっていることを
 まずは”伝える”ことが重要じゃん!」


「まずは、俺たちが”何者”なのか、
そして、”何をしてくれる人”なのかを伝えよう!」


「そこで、とりべにお願い事があるんよね?
 聞いてくれる?」


そう言って、タバコに火をつける。


毎回でないが、割と重要な話を終えたら、
すぐにタバコを付けていた気がする。


「ええよ!何したらええの?」


会話のテンポを落とさずに、
尾崎に返した。


「映像制作の”チラシ”を作って、
 一緒に投函したいんよね!」


スパーっと煙を吐き出しながら、
尾崎は言った。


「OK!ほな簡単に作ってみよっかね!」


そして、その日の夜、
とある人から頂いた
イラストソフトを扱いながら、


丁寧にレイアウトと
文章や見出しを書く。


この作業を通じて、
まだ見ないお客様に出会って、


良い仕事をして、
お金を稼いで、

美味い飯を食いながら
ハイボールを飲む!


「ウッキウキやな!w」


そんなことが脳内を駆け巡りながら、
ニヤニヤしつつ、サクサク手を動かして
チラシは完成したのだ。


そして、翌日に
尾崎にチラシを見せる。


「良いじゃん!
 それじゃあ1000枚印刷して
 早速配ろうぜ!」


「せ、1000件!?
 そんなに印刷すんの?」


予想と違い、面食らって
すかさず尾崎に聞き直した。


「そりゃそうよ!ポスティングの成約率って
 1%とかくらいやから、100枚ちゃ言わずに
1000件くらい配るのが普通やね」


「はぇーそうなんや!
 おけ!ほんじゃ印刷して、どう配る?」


「地区別に配っていこう!
 街全体を区画で区切って、
 企業やお店をされてるところに投函していこう」


今思えば、端的にいうと、
ビジネスの”ビ”すら理解していなかったのだろう。


ただ、ひたすらに今まで、
何気なく通っていた街を


一生懸命に原チャで行ったり来たりしながら、
ほんの一握りの”見込み客”を追っていたのだ。


そして、ポスティングを始めて、

数日が立ったところで、


お互いがポスティングに疲れて、
サボっていたことが分かってしまった。


ビラを配るくらいじゃ、
見向きもされないと思い、


徐々に、チラシの投函から
 直接手渡し型のいわゆる
 ”飛び込み営業”をしていた。


“飛び込み営業”をした人は分かると思うが、
お客様の為になると思っていても、


結局のところ、
お客様には、”得体の知れないガキ”にしか
思われていないのだ。


「ごめんくださーい」 

「・・・・」


「お店のPRの調査で、 伺っていることがあるのですか・・・」


「はっ?ウチは間に合ってるよ!怒」


「お店の認知度を上げる為に、
 映像というツールを活かしてみませんか?」


「そんなもんウチにはいらねーよ」


色んな聞き方や切り口で話すも、
本筋の会話に行くことはなく、


「仕事の邪魔だ、帰れ」と
辛辣に言われたこともあった。


そうしたことを続けていると、
心を病んでしまう。

一時期は、断られた後に
新たなお店のドアをノックすると 少し手が震えたり、


断られた後に、また新たな
次のポスティング場所に向かおうとすると
吐き気を催すこともあった。


そんなことを、尾崎とシェアをした時に、
穏やかに返事をした。


「もうチラシを配るのはやめよう」


「目的は、チラシを配ることじゃないし、
 お客様と出会うことだからさ。


嫌なことしてまで、仕事して
 結果でないことをずっと続けるとか、
 独立や仕事する意味ないもんな」


「無理に付き合わせて、ごめんね」


その言葉を聞いた時に、
安堵する気持ちと
結果を出せなかった悔しさとの
両方が駆け巡った。


「また次の戦略を考えよう!」


尾崎は、缶コーヒーを奢ってくれて、
いつものベンチでタバコをふかす。


落ち着きはしたが、
いつもよりタバコが不味く感じた。


「世界には、たくさん仕事があるのに、
なぜ俺らには”仕事”が回ってこないのか?」


その疑問に対する答えが
出たのは、そう遠くない日だった。

そして、後日尾崎が意気揚々と
連絡をしてきたのだ。

「とりべ!!ネットで映像の
 ご相談が入ってきたよ!!!
 今すぐメール見てみて!」


そうして、まだドメインに他社の会社名の
入ったチンケなメールアドレス宛に


未読の“1”が光って見える。 

「おぉ!な、なんだ!?」


面食らいながらも、
その未読1件を開封する。


そこには、こう書いてあった。


「今度の5月17日にセミナーをするのですが、
 特典映像を作りたいので、”撮影”をお願いできますか?   武中より 」 


なぜか営業もチラシすら届いてもない人から、
 “ご依頼”が届く。


「すげええぇぇ!なんでやろ!?
 よし、話そうぜ!」


暗いトンネルの先に一筋の光とは
よく言ったものだ。


青空が澄み渡り、
いつものベンチの木陰スペースに行く。


そして、スズメたちは、
いつもの場所に集まった。


続く・・・



この記事が参加している募集

自己紹介

スキしてみて

最後まで読んでいただきありがとうございました。記事が気に入ったらシェアやいいねをしてもらえると嬉しいです。