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真っ赤な口紅が似合う私になるまで。


真っ赤な口紅を初めて手にした18歳。
色が強すぎて似合わないと感じた。
けれどもこの赤が似合う女になりたくて、メイクを勉強し始めた。

アイメイクをして、使ったことのないチークを頬にさっと塗ってみた。
真っ赤な口紅を塗って改めて自分の姿を見たが、どうしても似合わないと感じてしまった。

他人からはいつも『美人』や『綺麗』だと言われ続けてきた。
スタイルがいいや、整っているとか…そういう言葉を沢山もらってきたが、自分の中で納得をしたことがない。
その言葉を受け入れるくらいの自信も容量もなかった。

この真っ赤な口紅が似合う女になりたかった。
他人の褒め言葉なんかいらない。
自分で自分を褒めたかった。
自分自身が自信を持ってこの口紅を付けたかった。

『いつか似合うようになるよ』と言う言葉は、10代の自分にはすぐに納得することができなかった。

20歳の時、高校生の時から付き合っていた彼と別れた。

別れを切り出したのは私。

他人からしてみればそんなことでと思われるかもしれないが、当時の若かった私には許せないことだった。
『好きだけど別れる』良く聞く言葉だ。
そして、『好きなのに何で別れるの?意味が分からない。』とテンプレートのようによく言われた。

カップルにはそれぞれの形がある。
考え方も異なれば、同じ形式のカップルなんていない。

『何で?』と言う言葉に必ずしもわかりやすく説明できるわけではない。



別れて数日後に、久しぶりに真っ赤な口紅を手に取った。
ため息が増えていた私の顔は美人とは到底言えなかった。
泣きはらした顔。不細工すぎてため息が出た。

顔を洗ってメイクを始めた。
気分は乗らない。
疲れた顔に、最後の仕上げで真っ赤な口紅を塗った。

塗り終わって軽く指でトントンと口紅の色を馴染ませた。

メイクを終えた自分の顔に言葉が出なかった。
そこには美しいと思える自分が鏡に映っていた。

あの衝撃は今でも忘れない。

『いつか似合うようになるよ』その言葉を思い出した。

あぁ。この真っ赤な口紅は本気の恋をして、別れを経験して必死で前を向いて進むことを決めた女が付ける色なんだと思った。
いつか似合うようになるよと教えてくれたその女性も、辛い恋を経験してきたのだろう。
妙に納得した自分が鏡の前に立っていた。

涙を流す私はもうそこには居なかった。
真っ赤な口紅が似合うようになった一人の女だった。

私のポーチの中は口紅の種類が沢山ある。
ピンクやオレンジ、黒もある。
当時持っていた真っ赤な口紅は4代目になった。





真っ赤な口紅が似合うきっかけをくれた当時の恋人と別れて8年が経った頃、私は結婚をした。
神様のいたずらか、相手はその彼だ。

別れてから7年が経過していたが、何か引き寄せたのかまた彼と一緒に時間を歩む事を決めた。
再びお付き合いを始めて1年4ヶ月後、今後の人生をと共に歩むことを決めた。

当時別れる原因となった『たばこ』を彼は私と再び付き合うと決めた瞬間ぱったり辞めた。
あんなにヘビースモーカーだったのにまた私を手放すのは嫌だと言ってぐしゃっと握りつぶして捨てたのだ。
彼のたばこを吸う姿も、たばこのにおいが付いた服を洗濯することも今はもうない。

離れていた時間、当たり前だがお互い年を取った。
そして考え方も変わったし、似合う服だって変わった。
私の化粧が変わったように。

当時別れた原因がたばこ?え???って思ったでしょう?
私にとってたばこは大きな問題だった。
たばこ以外何も文句なしだった彼。
けれどそれを帳消しにしてしまうくらいたばこが駄目だった。
咳が止まらなくなったり、吐き気を催したり体質的に駄目だったのだ。

当時の彼は私の前で吸わなければいいだろうと隠れてたばこを吸っていた。
けれど染みついたたばこの臭いは汗に混じって体臭となっていることをヘビースモーカーの人たちは気づいていない。
たまに香水を付けている人がいるが、そのたばこの体臭と香水が混じったとき本気で吐いてしまうくらい強烈な臭いであることを当事者達は知らない。
すれ違うだけでその強烈さは分かる。
しかしながらヘビースモーカーの人たちに『あんた体臭ヤバいよ』なんて言えるわけがない。


彼は今、全くたばこを吸っていない。目の前でたばこを吸っている人がいても吸いたいとも思わず、上司に誘われても頑なに吸わなくなったのだ。服に臭いが付いて私が嫌な思いをするのではないかと心配になるらしい。
彼の身体からたばこの香りがする事はなくなった。


私たちは俗に言う復縁カップルだ。
学生に頃からお互いを知っている分、昔からの癖や、お互いの両親の顔も知っている。
結婚するという話になったとき、義両親はとても喜んでくれた。
『貴方なら安心できる』と。

今では真っ赤な口紅が似合うきっかけを作った彼の横で、真っ赤な口紅を塗っている。
今までどんな男性に言われても嬉しいと思わなかった『綺麗だね』という言葉も、彼の口から発せられると心の底から嬉しいと思う。
どんな男性からの『幸せにします』という言葉も受け入れなかった私が、彼からの言葉だとすんなり受け入れられた。

彼は私の顔で結婚を決めたわけでも、スタイルで決めたわけでもない。
『心からの信用』で私を選んでくれた。
それが伝わったから私は彼を受け入れた。

彼のおかげで、他人からの褒め言葉も『いやいや…そんなことないよ』と否定するのではなく『ありがとう』と返せるようになった。


真っ赤な口紅が似合う私になるまで沢山の時間と努力を重ねたけれど、結局似合うために必要だったのは恋だったんだなと感じた。


女の子が可愛くなるきっかけは恋だ。
そして、美しさを増すきっかけは失恋だ。

私は今も夫になった彼に恋をしている。
昔みたいにドキドキするとか、何から何まで新鮮に感じるとかそういうことはもうないけれど一歩一歩一緒に歩んで行けていることをとても幸せに思う。


今日も私は、真っ赤な口紅を塗りながら幸せを噛みしめるんだ。

女の子3


HAKU

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