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補習授業の振り返りー外国につながる子どもたちー

今年(2023年)4月から、外国につながるの子どもの補習をボランティアで行っている。
やってみたこと、見えてきた課題を自分なりにまとめてみたい。


子どもについて

東南アジアルーツの子どもで、現在小学4年生。両親とも外国人。
学習者(以下A君)は大人しいが活発なタイプで、学校自体は楽しいそう。
日本の小学校には小1から通っている。
シャイだけど、話好き。学校であったことや給食の話をしてくれる。
それに、体を動かすことが好きで、かけっこも速い。とてもいい子だ。

小学校内に国際教室(※)があるそうで、たまに行っているとのこと。
日常会話は問題ないけど、授業内容が難しくて困っている。
生活言語能力(BICS)は高いが、学習言語能力(CALP)が低い、という典型的なパターン。

※国際教室:日本語指導が必要な児童生徒のフォローをする教室。児童生徒は通常クラスに在籍しながら、必要に応じて「取り出し授業」として国際教室へ行き、個別指導や補充的な指導を受ける。

保護者の要望

①漢字が全然できないので、読み書きできるようにしてほしい
②算数は得意だが文章題でつまずいてしまうので、解けるようにしてほしい

①について
確かに、小4の4月時点で小1の漢字も書けなかったので、相当まずい状況だったと思う(四、月、青、村など本当に基本的なものが書けなかったのだ……)。
この要望に関しては、課題は残るものの、概ね応えられていると思う。
別の記事で詳細を書くつもりだ。

②について
保護者は「漢字が分からないから文章題ができない」と言っていた。
先述の①のような状況だったので、保護者の言い分に納得し、「漢字ができるようになれば解決するかな」と思っていたが、そう単純な話ではなかった。
小3の算数のテストを見せてもらい、解き直しをしていく過程で分かったことは、そもそも教科内容の理解が不十分だということ。つまり、文章題の漢字云々以前のところでつまずいていたのだ。

例えば、割り算。
1桁÷1桁 できる
2桁÷1桁 できる
3桁÷1桁 できる
2桁÷2桁 できない
3桁÷2桁 できない
「商」の意味 分からない

1桁÷1桁の計算のような、基礎中の基礎は見よう見まねでできている。
でも、2桁÷2桁みたいに、少し応用が入ると一気にできなくなる。
文章題は、数字だけ拾って、大きい数÷小さい数で式を立ててみる。
基礎の問題はそれでマルがもらえる。
でも、計算に必要ない、いわばダミーの数字があると、もう分からない。
どの数字を使うか、一か八かの賭けになってしまう。

A君の目標は、文章題が解けるようになること。
それに対して、現時点で必要なことは、
・計算の手順の理解
・算数用語の理解
その上で、
・問題文の理解
というステップになる。
結局、授業内容と教科書の理解ができるようになることが必要なのだ。

生活言語能力(BICS)と学習言語能力(CALP)のギャップ。
確かに知識としては知っていた。が、本当の意味で理解したのはこのときだった。

勉強方法①(1学期)

①漢字

別記事で詳しく書くので、もしよろしければそちらを。

→書きました!(2023.12.3更新)

②教科書の音読

小4の4月時点では漢字がほぼ読めず、文章内の意味のまとまりも取れていなかったので、きめ細かく行うことにした。
【実施方法①】
まず私が読み上げて、A君自身にルビを振らせる。
そして、1段落毎に、私→A君の順で音読、を繰り返す。

1, 2ヵ月もすると、読める漢字が増え、音読のコツも分かってきたので、方法を少し変えた。
【実施方法②】
まずA君自身にルビを振らせ、分からないものだけ教える。
ある程度まとまった分量を、私→A君の順で音読、を繰り返す。

1学期(4月~7月)の間はこの方法で教科書の音読を行った。
完全に手探りだったが、つっかえずに読めるようになっていったので、間違ってはいなかったと思う。

③学校の宿題(漢字・計算)

一緒に学校のプリントに取り組む。
【漢字(小4)】
最初はかなり苦労していたが、小1からの漢字の復習が進み、部首の概念が理解できたあたりで加速度的に習得が進んだ。
【計算】
基礎はほぼ問題なし。応用は手順を見せて理解してもらう。
今のところはこの方法で大丈夫だが、果たしていつまで通じるか……。

④算数の解き直し(小3)

保護者の要望の項で書いた通り、文章題以前に、計算問題でつまずいている分野は、教科書を使ってつまずいたところまで遡って復習。
計算自体は理解している分野は、文章題をひとつひとつ一緒に読み上げて意味を確認しながら解き直し。
A君は理解力が高く、特に計算問題の手順は飲み込みが早い。
それだけに、言葉の問題でつまずいているのが本当にもったいないと感じている。

鬼門!夏休みの宿題

3ヵ月ほど一緒に勉強して、少しずつ仲良くなってきた。
A君のやる気は続いているし、復習も順調だし。
やれやれ良かった良かった、とホッとしていた7月下旬。

ええ、油断していましたとも。
小学生の夏休みの宿題の大変さを。

自由研究

小3まではアサガオの観察的な、「これをやってきなさい」という分かりやすいものだったらしい。だから、なんとかなった。
が、立派な小学4年生。いきなり「自由研究」ときたもんだ。

「何をすればいいか分からない」

日本人の親子でも頭を抱える難題が、当然のように私のところへ回ってくる。
結局、ネットを駆使して、まずは世の親子が何に取り組んでいるのか情報収集。それを基にA君と話し合って、お題を決定。保護者の協力を得ながら少しずつ進めてなんとか形にした。
ただ、自由研究の意義や意図がA君に伝わらず、個人的には不完全燃焼。でも、国籍バックグラウンド関係なく、小4ならこんなものか、と思うことにした。
反省会は別記事でする、かもしれない。

→反省会、しました!(2023.12.10 更新)

勉強方法②(2学期)

基本的には、1学期の方法を踏襲。ただ、A君の学力が上がってきているので、必要に応じて多少の変更を加えた。

①漢字

別記事に。(2023.12.3更新。勉強方法①のリンク先と同じ)

②教科書などの音読

実は、夏休みの間、教科書以外の文章の音読にも挑戦していた。
A君の反応も良かったので、音読は教科書とそれ以外の文章の二本立てで続けることに。

お世話になっている本はこちら↓
「レベル別日本語多読ライブラリー にほんご よむよむ文庫」

「走れメロス」「坊ちゃん」など、いずれ教科書で出会う小説を中心に選定。
Level 4(中級・N2~N3・ルビあり)に取り組んでいる。
初見の小説を理解しつつ概ねすらすら読めているので、Level 5(中上級・N1~N2・小2までのルビなし)に挑戦したいと思っているところ。

最近の音読の課題は、助詞を含めたときのアクセント
例えば、
・日が燃えている
・火が燃えている
この2つを同じアクセントで読み上げてしまう、といった問題があるので、逐一指摘して修正中。
夏休みは読み上げるので精一杯だったことを考えると、かなりレベルが上がったなあと感慨深い。そして日本語の奥深さにゾッとする。漢字が読めるようになって、めでたしめでたし、ではないのだ……。

③学校の宿題(漢字・計算)

1学期と同じ。最近は家でやってくることも。

④算数の復習

小4のこの時期は、図形。
平行四辺形、台形、ひし形・・・

どんな勉強をやったか、覚えているだろうか?

私は忘れていた。
で、教科書を見たら、とにかく言葉による説明が多い。
垂直、平行、頂点、対角線・・・

思い出した。
これらが理解できていないと、中学校の図形の証明で詰む。
いや、その前に小5で合同な図形がある。詰む。

もはや算数ではなく、日本語の問題
私は算数や理科が昔から苦手だが、そんなことは言っていられない。
なにより、A君は理系っぽいのだ。才能を潰すわけにはいかない。

ということで、最近は算数の教科書を使った日本語の勉強の時間が増えてきている。

学校の先生に褒められた!

雑談中、A君が学校の先生に褒められた話をしてくれた。
「最近、漢字の読み書きができるようになったね!」と。
それを聞いて、学校の先生がA君の頑張りをちゃんと見てくださっているんだ、と心強く思った。

また、保護者の方からも「最近、特に漢字の学力が上がったと先生が言っていた」と報告が。うれしい。

もちろん、漢字ができるようになれば各教科の勉強ができるようになるわけではない。
依然として、学習言語能力(CALP)の壁は厳然と存在している。
それでも、目に見える成果として「分かる漢字が増えた」というのは学習者本人の心の支えになるだろう。

課題

①学習言語能力(CALP)の向上

この8ヵ月で漢字の読み書き能力は飛躍的に向上した。喜ばしいことだ。
ただ、「じゃあ、学習言語能力(CALP)も同じくらい伸びたか?」と問われると、答えは「いいえ」だ。
テストの点数は、残念ながら漢字以外はあまり伸びていない。
通常、学習言語能力(CALP)の獲得には5~7年かかる、という。
だから、すぐに伸びないのは仕方がない。が、そうは言ってもA君本人が授業やテストで困っている以上、何もしないわけにはいかない。

そこで、対策をいくつか考えてみた。
・教科ごとに特有の言い回しを覚える(算数なら、「垂直」「平行」など)
・あらかじめテストの類題を解いておき、テスト問題特有の表現に慣れておく

「問題文を読むのに時間がかかってしまい、解く時間が足りなくなってしまう」
A君の課題だ。そして、おそらく同じような課題を感じている日本人の子どももいるに違いない。
学校のテストだって検定試験だって、高得点を取るコツは、過去問や類題をたくさん解いておくこと。

次のテストに向けて挑戦してみたい。

②どこまでサポートするか

ボランティアなので、できる限りのサポートしかできない。
で、その「できる限り」という曖昧な表現が何を指すのかを考えると、深い沼にはまってしまう。

公立小学校は学力差が激しい。
上位層は、中学受験を目指すような子たち。
下位層は、そもそも授業中椅子に座ってられないような子たちを含む。
その中間の、ボリュームゾーンの子どもたちは、やがて高校受験に挑み、進路が、将来が、様々に分かれていく。

高校受験を見据えたサポートを
外国につながる子どもの指導者養成講座で印象に残った言葉だ。
今のままだと、A君が、同じ学年の日本人と、同じ土俵で戦うのはかなり厳しい。
特に、首都圏なので学習塾や通信教育など学校+αの勉強をしている子どもが本当に多い。
外国につながる子ども向けの学習塾はなかなかないだろうし、A君みたいな子どもたちはどうしているのだろうか。
やる気がある子だから学力を伸ばしてあげたいが、いちボランティアでは限界がある。
それでも、どこまでサポートできるか、は考え続けていきたい。

以上、長々と書いたが、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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