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漢字学習の振り返りー外国につながる子どもたちー

今年(2023年)4月から、外国につながる子どもの補習をボランティアで行っている。
この記事では、漢字に焦点を絞って書きたい。


学習者について

東南アジアルーツの子どもで、現在小学4年生。
小1から日本の小学校に通っている。
両親ともに非漢字圏なので、家での漢字学習は難しい。
※学習者(以下A君)の補習授業については、こちらの記事で書いたので、よかったら読んでください。

漢字の習熟度は、初めて顔合わせした小4の4月の時点で、小1の漢字がほとんど書けないレベル。読みもかなり怪しい。
日本人の中学生相手の塾講師の経験はあるが、外国人相手の日本語指導ではA君が初めての担当。
これは大変な子を引き受けてしまった……と内心頭を抱えた。

が、彼は学習意欲の高い子どもで、8ヵ月経った今、漢字に関する課題はかなり解決しつつある。

以下は、私たちが取り組んだ漢字学習の方法やポイントだ。

勉強方法

ちびむすドリルの漢字プリントを使用。
書ける漢字と書けない漢字を把握しつつ、書き取りの練習を行う。

【実施方法】
①小テスト
 →ノーヒントで書く。時間制限なし。ほとんど書けないことが多い。
②書けなかった漢字を答えを見ながら書き取り
 →全て書けたら一度確認。書き写し間違いが散見されるので、しっかりチェック。
③漢字や語彙の確認
 →例文を使ったり、スマホで画像や映像を見せたり、とにかく具体的なイメージが掴めるように。
④指で3回書く
⑤見直しタイム(1~3分)
⑥再テスト
 →書けなかったものは、再度、答えを見ながら書き取りする。最後に私のチェック。

以上を1セットとし、1回の補習授業で1~2セット実施。
ドリルが1周したら、更に再テスト。以下の通り。

⑦1~2ヵ月後に再テスト
⑧書けなかったものを単語帳に記入

つまずくポイント

「漢字が分かる」ということは、「形」「音」「意味」が正しく結び付いている、ということ。
つまり、これらのうち、何が欠けているのかを把握していく必要がある。
以下、A君がつまずいたポイントを整理してみる。

①パーツ(部首)の概念(形・音)

・漢字はパーツ(部首)に分解できること。
・意味を表すパーツ(部首)があること。
・音を表すパーツ(部首)があること。
これらを理解するまでが一苦労だった。
とにかくできるだけたくさんの漢字を見せて、共通点を見つけさせるところからスタート。
そして、「木へん」「火へん」「さんずい」あるいは「青(セイ)などそれぞれの部首に意味や音があることに気づかせる。
最初はトンチンカンなこともあったが、小1の漢字が書けるようになったところで、ようやく理解できた様子。
「学習で大切なのは質か量か」という議論があるが、ある程度の量を積み重ねないと、そもそもこの議論の土俵に立てないのだ……ということを実感。

②音読み・訓読み(音)

これは割と早い段階で解決した。
と言っても、私は何もしていない……。A君が優秀だった……。
漢字の形が認識できると、音もセットで覚えられていた様子。

ただし、「複数の読み方がある」と認識しているが、「どの読み方が音読み/訓読みか」は分かっていなさそう。
日本語母語話者向けの説明では「意味が分かる読み方が訓読み」「中国由来の音が音読み」などと言うが、日本語非母語話者の子どもにその説明は通らないだろう。抽象的な言葉なら、なおさら。
私は割り切って、説明していない。
「音読み/訓読みを答えなさい」と言った問題はまず出ないだろう。少なくとも高校受験では不要(問題文の中で正しく読めれば良い)。
それよりも、読み書きできる漢字を増やすことが喫緊の課題だ。
音読みか訓読みか、は彼の語彙力が上がってからで良いと思う。

③抽象的な意味を持つ漢字(意味)

小2までの漢字は、身近で具体的な意味を持つ漢字が多い。
だから、説明は比較的簡単で、実物を指差したりスマホの画像を見せたりすることで解決。

ところが、小3になると、抽象的な意味を持つ漢字が増えてくる。
「軽い」「深い」などは、まだいい。
実演したり、例文を用意したり、図で示したりすることで、説明できる。

厄介なのは、更に抽象度の高い意味を持つ漢字。
説明していて、私自身もこれってどういう意味だっけ……と不安になってくることもしばしば。

例えば、A君はどうしても「放」が書けない。
放送、放水、放る、放す……。
いずれも小3までで学習する漢字だが、「放」の意味が掴めないらしい。だから書けない。

確かに、「放」の意味を説明して、と言われても困ってしまう。
試しに、コトバンクで調べてみた。

外に向けて出す。はなつ。「放火・放散・放射・放出・放送・放逐・放電・放流/追放」
束縛を解いて自由にする。「放免/開放・解放・釈放」
思うままにする。ほうっておく。「放言・放縦ほうしょう・ほうじゅう・放置・放蕩ほうとう・放任・放漫/豪放・粗放・奔放」
(「抛ほう」の代用字)ほうり投げる。

コトバンク(デジタル大辞泉)より

む、難しい……。

私は「手元にあるものを遠くにやること」と説明し、
「消防車が放水する」
「矢を放つ」
「ボールを放り投げる」
といった例文を挙げた。
例文自体の意味は分かると言うが、腑に落ちていない様子。

ある日突然「ユウレカ!(我発見セリ!)」となることを願って、根気強くやるしかない……。

反省会

子どもに物事を説明するのは非常に難しい。
限られた語彙で、本質を言い表さなければならない。
私にそんな高度な芸当ができるはずもなく、たくさん例文を挙げたり、大人同士の会話で言い慣れた言葉を使ってしまったり。

普段いかにぞんざいに言葉を扱っているか、を突きつけられている。
言葉の使い方は正しくとも、正確な意味を理解せずに使っているのではないか?
その言葉を、子どもに説明できるか?
大人向けの辞書で言葉を引いても、分かった気になっているだけではないか。
今、私に必要なのは、広辞苑の最新版ではなく、小学生向けの国語辞典なのかもしれない。

でも、こうやって言葉に向き合うのは苦ではない。
その点では、日本語教師にまるっきり向いていない、というわけでもなさそうだ。

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