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起こすべき?寝かせてあげる?

中国版Twitter“微博(ウェイボー)”で話題になっているホット検索ワード“热搜(rè sōu)”をもとに、「中国の今」を紹介していきます。

■今回のホット検索ワード「うつ病続出の子どもたち」
旧暦を採用している中国では、春節に合わせて新学期の始まりが毎年異なります。今年は約2週間の春節休み、新学期は2月18日(大学は25日からのところも)でした。そして日本の冬休みに当たるこの時期、学生は大量の宿題が出されます。この宿題が、今中国でうつ病にかかる子どもを増やす原因となっているのでは?と検索されているのです。

去年の8月、中国中央政府は、「小学校低学年の持ち帰り宿題廃止、高学年は60分以内の分量、中学生は90分以内の分量」と通達しました。宿題による子どもへのストレスを軽減するためです。しかし受験競争の激しい中国で、勉強量を減らすのは難しく、多くの学校が例年通り大量の宿題が出たそうです。

(大学入試のための勉強の大変さは以前、
「高考 https://note.mu/tbsnews/n/n892bb16035a6」で紹介した通り。)

■終わらない宿題
「全国中小学生学習圧力調査」によると、中国の小中学生が毎日宿題に費やす時間は平均3時間。これは日本の3倍に当たります。平日3時間の宿題が年9カ月、長期休暇の約300時間が宿題に割く時間となり、18歳までの12年間に費やす時間は1万時間にもなると言います。これは4032回分のコンサート、サッカーの8985試合分に相当します。

しかしどんなに時間がかかっても、親が手伝ってでも宿題を終わらせなければならず、それにより子どもの過労死や自殺までもが起こり、社会問題にもなりました。「長期休暇なんて考えただけでも大変。(子どもの宿題を見るのは)自分の仕事より疲れる」と嘆く親も。

■宿題ロボット
この冬、女子中学生がお年玉で宿題ロボットを買い、二日で宿題を終わらせたというニュースがありました。これは、筆跡を識別・模範して人の代わりに宿題や代筆をしてくれるロボットで、400元(約6630円)から1200元(約2万円)で買えるそうです。宿題をロボットで解決するということに「勉強の意味がない」等の意見が出ましたが、「これで宿題量の問題が見直されるのではないか」と業者は話しています。

実際、宿題の多さが子ども本人だけでなく、家族へまで影響しているとも言います。夜10時前に寝る小学生はほとんどいなく、子どもに付き添いで見ている親までもが寝不足に悩まされているのです。

ロボットではなくとも、流行っているのが宿題お助けアプリ。これは問題文の写真を送ると、すぐに解答が送られてきたり英語の例文が表示される、子どもにとって正にドラえもんのようなアプリです。アプリで解決させないために教師はもっと難しい問題を作り、アプリはアップデートされ…といたちごっこが繰り広げられています。

(作文お助けアプリ  百度より) 

 (人気NO.1の「作業帮」)

■親と子の共同作業
子どもの宿題をチェックするのも大変です。親のチェックが正確でないと、宿題をしたとみなされないからです。宿題アプリを使い、教師からその日の宿題内容や子どもの達成度をチェックさせる学校もあります。

宿題に限らず、小学校からテストの順位が出るため、期末試験の一ヶ月前から家族総出で試験勉強に備えます。北京に住む友人は、朝6時から登校まで、夜は11時まで低学年の子どもの勉強に付き添っていました。その他に習い事で、ピアノとサックス、3つの英語塾と数学塾を掛け持ちしています。
話を聞くだけでも、宿題ロボットへ手を出したくなります。

(「宿題ロボット」光明网より)

■筆記用具にも注意を
もうひとつ、こんなニュースもありました。冬休み最終日、大泣きする小学生の子どもの写真と、「誰が消せるボールペンなんて発明したのよ」という母の嘆きの投稿でした。ある小学生が消せるボールペンを使っていたため、床暖房の上に置いていた宿題の練習帳の文字が消えてしまったのです。もちろん、残りの時間でやり直せる量ではありません。投稿はすぐに拡散され、「どうか彼の先生の目に(この投稿が)止まって許してもらえますように」「冷蔵庫で冷やせば戻るかも」「彼を思うと胸が痛いけど、ほっこりした」といったコメントが寄せられました。これは子どもだけでなく、大人も気を付けるべきとの教訓になったはずです。

(网易号より)

■「起こすべき?寝かせてあげる?」

(搜孤网より)

多くの親は、「勉強だけで幸せになれるとは思えない」と感じています。
しかし休むことなく勉強している周りに後れを取ることへの不安も大きく、立ち止まることもできないのです。

「寝てしまった息子を起こして宿題をさせるべきなのか、そのまま寝かせてあげるべきなのか」と呟いた母親は、保護者の中には不安障害を抱えている人もいると言います。

日本の小学校は担任の教師が全教科を、中国では日本の中学・高校のように各教科につき専門の教師がつくので、一人の教師が受け持つ専門の範囲と量は日中それぞれ比べることができません。中国人は、日本の教師は何でも一人でこなすと驚いています。

■一人っ子政策緩和の効果は?
日本では以前、「中国の一人っ子政策により甘やかされて育ったわがままな子」と紹介されることがありました。しかしそんな彼らは十数年に渡る勉強へのプレッシャーに耐えているのです。2016年に一人っ子政策は緩和されましたが、教育へのプレッシャーで子どもは一人で十分だといい、効果は見られませんでした。

中国のキャンパス内を歩く学生がリラックスして見えるのは、長く険しい時間を乗り越えて来たからなのかもしれません。子どもも親も辛い宿題ですが、常に親子の交流ができる大事なものなのかも知れません・・・。(長い目で見ると)

(記事作成 竹内亮  時沢清美)

竹内亮

ドキュメンタリー監督 番組プロデューサー(株)ワノユメ代表

2005年にディレクターデビュー。以来、NHK「長江 天と地の大紀行」「世界遺産」、テレビ東京「未来世紀ジパング」などで、中国関連のドキュメンタリーを作り続ける。2013年、中国人の妻と共に中国·南京市に移住し、番組制作会社ワノユメを設立。

2015年、中国最大手の動画サイトで、日本文化を紹介するドキュメンタリー紀行番組「我住在这里的理由(私がここに住む理由)」の放送を開始し、3年で総再生回数、5億回を突破。中国最大の映像作品評価サイト「豆辯」にて10点満点中9.3点を獲得。また中国最大のSNS・微博(ウェイボー)で2017、2018年二年連続で「影響力のある十大旅行番組」に選ばれる。

番組を通して日本人と中国人の「庶民の生活」を描き、「面白いリアルな日本・中国」を日中の若い人に伝えていきたいと考えている。