美術館にて

光の通り道を
子どもが走っていく
緑の風がやさしく包んで
母さんが手を広げて
待っている
どこか遠くを見つめるような
忘れてしまっていた
ひとつの絵が
美術館の回廊に
飾ってあった
素直なままの
光の中
やさしい笑顔たち
回廊の遥か先で
小さく……なっていく

──そっちじゃないよ
──反対側

子どもの声が
後ろから聞こえる
振り向けば
その子が目の前を
光の通り道を走っていく
やさしい風が後に続いて
遠い影の向こうに
女の人がいたような……

──お父さん、遅いね

まだ諦めるのは早いか……
わかった、わかったよ
頑張るから……きっと
そこにたどり着くから……
待っててくれよ

その絵を後にして
僕はまた歩き出した