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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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2023年12月の記事一覧

『ノラや』(内田百閒・中公文庫)

『ノラや』(内田百閒・中公文庫)

知ったのは、猫の雑誌だった。猫についての文学三品として挙げられていたのだ。
 
私は内田百閒の作品を、たぶん読んだことがない。「たぶん」というのは、昔どこでも読んでいない、と言える自信がないからだ。ただ、幻想的な作風については聞くところがある。
 
それが、本書ではどうか。まずは家に突如やってきた猫への、メロメロな愛情に始まる。ノラと名づける。そのノラが、3月だか、突如庭から消えてしまう。さあ、こ

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『聖書的説教とは?』(渡辺善太・日本基督教団出版局)

『聖書的説教とは?』(渡辺善太・日本基督教団出版局)

加藤常昭先生のお薦めであった。1968年発行の本である。探すと入手可能だった。半世紀以上前の本である。届いた本は日焼けしていたが、線引きなどなく、気持ちよく読めた。
 
渡辺善太(ぜんだ)は、牧師も務めたことがあるが、印象としては説教者である。神学校で教えることも長かったと思う。とにかく「説教」について極めようと努めた方である。本書には、その説教への熱い思いがふんだんにこめられている。
 
自分の

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『書物としての新約聖書』(田川健三・勁草書房)

『書物としての新約聖書』(田川健三・勁草書房)

いつか読みたいと思っていた。ただ、手が出なかった。最近では8000円+税である。分量があることは厭わないが、先立つものがとにかくない。古書も決して安くはならない。価格がどうなのかを、ずっと見守っていた。ここでは明かすが、私はこの度、これを1400円で手に入れたのである。送料込みで1500円を少し超えるだけの価格提示に対して、少しばかりポイントを使ったのだ。それも、線一つ引かれていない、カバーと天に

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『わが主よ、わが神よ』(竹森満佐一・ヨルダン社)

『わが主よ、わが神よ』(竹森満佐一・ヨルダン社)

発行年は、実は2冊の分冊版の発行時である。手許にあるものは、1977年に一巻本となったものである。450頁を超える厚みのあるものになったが、これは1冊になってよかったのではないか、と私は思う。かつてはかなり高価な感覚があったのかもしれない。
 
発行から半世紀を経てようやくお会いできた。伝説の本である。2016年に新装復刊しているが、私は旧いほうで入手した。説教に生涯を賭けた加藤常昭氏が「日本説教

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『八色ヨハネ先生』(三宅威仁・文芸社)

『八色ヨハネ先生』(三宅威仁・文芸社)

同志社大学神学部元教授・八色ヨハネ先生は去る十一月一日に、独り暮らしをしていた大阪市西成区のアパートで死亡しているのが発見された。享年八十八。
 
物語は、この2行から始まる。その扉に「本作はフィクションであり、登場人物や出来事は作者による創作である」と記されているが、「同志社大学神学部」は設定場面であるから、創作ではないということなのだろう。著者は、その同志社大学大学院神学部(研究科)教授である

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