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甲斐荘楠音の映画衣装を見に行く

 東京ステーションギャラリーに、「甲斐荘楠音かいのしょうただおとの全貌━━絵画、演劇、映画を越境する個性」を見に行ってきました。

 甲斐荘楠音(1894~1978)は日本画家で、「大正画壇の鬼才」とか「京都画壇の異才」とか評された人です。代表作「横櫛」は岩井志麻子さんの小説「ぼっけえ、きょうてえ」の表紙といえば「ああ、あれか」と思う方も多いことでしょう。美しいというか、なまなましくて妖気が漂っていてちょっとコワイ…。

 今回の展覧会で私がぜひ見たかったのは、絵画もさることながら、彼が関わった時代劇映画の衣装でした。特に、東映で市川右太衛門が主演した「旗本退屈男」のシリーズ。これを生で見たかったのです。

 甲斐荘は多くの時代劇映画の衣装の考証を手掛けています。中でも「旗本退屈男」は20本も作られたそうですが、主人公の早乙女主水之介の衣装はとても映画1本の為に作られたとは思えない贅沢できらびやかで、しかも斬新なデザインなのです。主役の衣装代だけで、他の出演者の衣装代を賄えたほどだったそうです。

残念ながら、会場内は撮影禁止なので、チラシをご覧ください


 そしてこの衣装には独自の工夫がされています。身ごろと袖の間に三角形の布が挟まれているのです。なので、身ごろの肩幅が少し広くなっていて、袖も斜めについています。こうすることで、激しい立ち回りの時に、腕を上げやすくなるのだそうです。このことは、帰宅してから図録の解説を読んでようやく気付きました。目立たないのは衣装の模様が縫い目の所できちんとあっているからです。

右の女装しているのが甲斐荘楠音
越境する個性

 「旗本退屈男」といえば、私が中学生の時、テレビ時代劇に突如ハマり、その頃大川橋蔵の「銭形平次」や、中村梅之助の「伝七捕物帳」などと同時期に見ていたのがこれでした。
 おそらく市川右太衛門が最後に演じた早乙女主水之介だったと思います。当時右太衛門はすでに60をとっくに超えていたでしょう。白塗りにきんきらの衣装で「天下御免の向こう傷!」「人呼んで旗本退屈男!」と見えを切り、「ムハハハ」と不敵に笑うその姿は、正直グロテスクだな(失礼な中学生だな)と思いましたが、ひとたび剣を振るうや、さすが殺陣の名人。華麗に「諸刃流青眼崩し」をきめるその姿。正しいチャンバラはやっぱファンタジーだよねーと、大満足なのでした。

 このテレビシリーズの衣装も、多分映画で作られたものを転用しているのではないかと思います。右太衛門は、これらの衣装を東映に大事に保管するように言い残しています。だから、今でも見ることができる!ありがたいことです。

 衣装は他にも、大友柳太朗の「丹下左膳」や、大川橋蔵の「新吾十番勝負」片岡千恵蔵の「忠臣蔵」。そして忘れてはいけない、溝口健二監督でアカデミー賞衣装デザイン賞にノミネートされた「雨月物語」の衣装もありました。

 ああ、これをあの大スターが着たのだなぁ。

                           (文中敬称略)

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