マガジンのカバー画像

日記;父母覚書

28
脳内出血で倒れた父と認知症の母。もう亡くなりましたが、日記にしたためていたメモを後悔する事に意味を感じ公開します。
運営しているクリエイター

2024年3月の記事一覧

メキシコ産オパール

メキシコ産オパール

わたしは、そもそも宝石に興味が無い。

唯一、冠婚葬祭用に真珠を持っている程度だ。

本日、母の口から唐突に出た言葉が

「オパール!!わたしのオパールは!?」であった。

父が事の詳細をのたまう。

「日本じゃオーストラリア産が人気あるが、メキシコ産のオパールは赤い。価値在るオパールはメキシコオパールだ。俺がこれに買って来てやったものだ。家にあるか?」

・・・シラナイ。 オパールを検索すれば、

もっとみる
父よ

父よ

くわっ!と、その目を見開き

”お前は!”と、怒声を発せよ

入道雲の如く

大岩の如く

圧倒的な畏怖を

わたしに味あわせよ

 

事の推移

 わたし自身の風邪にて一週間訪れなかった間

 父は隔離室に入れられ点滴を受け

 頬削ぎ落ち目は窪み

 久し振りに会う父は死に行く人の如く

 変貌遂げていた

 お父さん!と声を掛けても眠ったまま

 「何も食べないからです。」介護士が憎憎しげ

もっとみる
父語る/日記より抜粋

父語る/日記より抜粋

拉致問題、首相が本気出しゃ、解決するにきまっとる。

望むだけの金出してやらんか。気の毒に・・親御さんが生きとるうちに、娘返してやらんかい!

しかし・・お前、海辺に住んどらんで良かったのぅ。

ぼやっとしとるから、簡単に拉致されたのぅ。がはは。

やれやれ。

ぼやっとしてると思うのは、昔も今も、おとうさん、貴方だけですってば!

私を一番知らないのが、貴方と母だとは・・あぁ、情けないやら笑える

もっとみる
祖父_日記より抜粋

祖父_日記より抜粋

七夕に逝った祖父へ。

あの日はこの時期にしては稀有な晴天でした。

毎年想うのですが、父の言葉

「オヤジは善人やったから、誰もが忘れん七夕に逝ったのぅ・・」

それだけは確実で、わたしは、祖母や他の愛する方の命日を忘れても

七夕だけは、あなたを思いあなたに感謝し、静かに短冊に願い事を書き下げる時を

過ごします。

今夜も雨。

仏の里に産まれ、同じく近くに生まれ育った祖母と結婚し、

福岡

もっとみる
かっこいいではないか、お父さん

かっこいいではないか、お父さん

それでも母は父を覚えているのだ。
多くを忘れようと、母が口にする「一番大事な人を忘れるわけがなかろうもん」

母の大手術ののち、車椅子で近付いた父が
「おい、オレが誰かわかるか!?」の問いに
即答した母であった。既に三年前・・

認知症という病は、特効薬が無い。が、症状を遅らせることは出来るのだ。それを助ける薬もあるにはあるが、何といっても、周囲の言葉や働きかけ、母の表情を察知し
喜んでいるとわか

もっとみる
覚書:母の誕生日

覚書:母の誕生日

大好きなモンブランを買って、

ついでに、ホワイトデーのラッピングがキュートなお菓子の詰め合わせを持参し、

母の誕生日を祝う。

スプーンを使わずに、手に持ち、あっというまに消えたケーキ。

唇についたクリームを拭う。母はその間も待てないように、新しい箱を開け始める。

あけるというか、破る。

私が小学校の頃だろうか。

「お母さん、何歳になったの?」と訊けば

「35よ、ずっとこれからは、3

もっとみる
覚書:父よ母よ

覚書:父よ母よ

あと二ヶ月で、父、奇跡の生還より丸三年経過する。

脳出血で高次脳機能障害となった父は、リハビリを続けるも未だ歩けない。

当初あった言語障害は回復。

父の入院時より、母の認知症は悪化した。

父母の三年は、私にとっても、新しい三年でありました。

尊大で倣岸不遜が服着て歩いているような、巨躯の父は

その肉体のみ半分になり。伊達男たる父は、全てのスーツ、ネクタイ、手を通すことも着ることも

もっとみる
桃、一枝

桃、一枝

父が倒れる前のこの季節、母を連れ梅や桃、そして桜を観て愉しんだ。

「土産はイラン、梅の一枝でも買って来い。」

留守番を選ぶ父に、そう、母は常に思いっきり沢山買って帰るのだ。

半分以上は彼女自身が食べる為にw

花を愛でると共に、花とのショット、写真をねだる母を幾枚も写し、

花の色に負けじと、紅ひき服装に気を配り

唇はすこし口角上げて、決して、歯は見せずに微笑む人

まだ3年前なのだ、と思

もっとみる
ただそれだけが嬉しくて

ただそれだけが嬉しくて

母は喋ることも忘れつつあるのか、とみに無口になった。

栄養士さんとの面談。三ヶ月更新、状況報告あり。食べる量が減っていますとのこと。

前は80%は食べていたのが、60%、体重も急に5キロ落ちた。

なのに~クダンの医師め!母に間食させるなと?

BMIがどうだってのさ。そもそも、母の身長からして計算ミスでしょ。

母は165センチあったのだ。多少、縮んだにせよ・・背中の湾曲で145センチって計

もっとみる
俺は鬱だー!

俺は鬱だー!

車椅子に乗り、半身麻痺の父は、大声でそう喚く。

脳内出血時の損傷箇所が大きくて、リハビリを頑張るも、結局、歩くこと叶わず。

ただ・・好きこそものの上手なれ。違うかw

生来、口の達者な、いや、饒舌、多弁、父が口を開けば誰もが時に感動で、時に

唇かみ締めて・・去ったという、その性格が幸いしてか

はたまた、言語療法士さんが、とびっきりの(父好みの)

スレンダーな若い美女だった為か、

言葉だ

もっとみる
雛あられ、母が食べた

雛あられ、母が食べた

母が大好きな千鳥屋のカステラと、ふと目に留まった可愛らしい雛あられを買い、

僅かな時間、ホームに寄って戻る。

カステラは、口に含むも吐き出す。嚥下が困難になっているのか?と嘆くも、

突如、袋開き、「うわ~~可愛い、美味しい!」と、雛あられを音立てて食べた母。

色とりどりの小さなあられを無心に笑顔で口に運ぶ母。

ああ、嬉しい!

「ホントにお前は子どもになってしもうたのぅ」と・・苦笑しつつ

もっとみる