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『何がジェーンに起ったか?』:1962、アメリカ

 1917年、幼いジェーン・ハドソンは「ベイビー・ジェーン」の芸名で子役スターとして活動し、舞台で歌や踊りを披露していた。ジェーンは圧倒的な人気を誇っており、父のレイは彼女をモデルにした人形も発売していた。出番を終えたジェーンは、ファンの前で「あんな汚いホテルには泊まらない」「アイスクリームを買って」とレイに不満をぶつけた。
 レイはファンの目があるため、仕方なく承知した。するとジェーンは、姉のブランチにもアイスを買うよう要求した。ブランチが「私はいいわ」と遠慮すると、レイは「ひねくれた子だ」と不愉快そうに告げた。ブランチが一人で泣いていると、母のコーラは「今にきっと、お前も注目を集めるわ。その時はパパとジェーンに優しくしてあげてね」と告げる。母が「忘れないで」と言うと、彼女は「死んでも忘れない」と憎しみを込めて口にした。

 1935年、ジェーンは映画女優として活動していたが、その大根芝居は監督やプロデューサーを呆れさせていた。それだけでなく、ジェーンはアル中で問題ばかり起こしていた。一方、ブランチは女優として高い評価を受け、映画会社のトップスターとなっていた。
 そんな彼女が「自分と同等に妹を起用する」という条件で契約を結んでいるため、会社側としても厄介者のジェーンを切ることが出来ないのだった。プロデューサーのマーティー・マクドナルドはエージェントのベン・ゴールデンに、ブランチの契約を切るようブランチに頼んでほしいと告げる。そんなある日、ブランチ邸の前で自動車の衝突事故が発生した。

 現在。ベイツ夫人はブランチが主演した昔の映画をテレビで鑑賞し、娘のライザに彼女の素晴らしさを話す。ブランチは隣の家にジェーンと2人で住んでいるのだが、母娘は姿を見たことが無かった。
 ライザは友人から聞いた話として、「ジェーンは頭がおかしい。わざと事故を起こし、姉を車椅子生活にした。」という噂を語る。ベイツ夫人は花束をブランチに渡したいと考え、隣の家を訪れた。しかしジェーンは「姉は出て来ない」と冷たく告げ、彼女を追い払った。

 ブランチは2階で暮らしており、ジェーンが身の回りの世話をしていた。しかしジェーンは朝食を運ぶ時も荒っぽい態度を取り、悪態や嫌味を並べ立てる。家政婦のエルヴァイラはブランチと2人になり、彼女へのファンレターをジェーンが捨てていることを教えた。さらに彼女はジェーンが酒を飲んでいること、病気になっていることを話す。
 6週間後には家を売却することが決まっていたが、まだブランチはジェーンに打ち明けていなかった。エルヴァイラはジェーンをシェルビー医師に任せるべきだと進言するが、ブランチは迷っていた。だが、最終的には妹を施設へ預けることを決断した。

 ジェーンがブランチの部屋へ来て、掃除をしていたら鳥が駕籠から逃げたと冷淡に言う。エルヴァイラは「わざとやった」と怒りの口調で指摘するが、ジェーンは平然とした態度で否定した。
 彼女は酒を注文しようと電話を掛けるが、ブランチが酒店に頼んで断るよう指示していた。そこでジェーンは姉の声色を使い、芝居をして酒を注文した。エルヴァイラが去った後、彼女は受話器を外して放置した。そのため、ブランチがジェルビーに連絡しようとしても繋がらなかった。

 ジェーンはブランチにブザーで呼び出されると、罵詈雑言を吐き捨てた。ブランチはジェーンに「お金が無い」と嘘をつき、屋敷を売る必要性を語る。しかしジェーンは盗み聞きで事情を知っており、ブランチを激しく非難した。
 ジェーンは部屋から電話機を取り外し、昼食の皿を置いて去った。その皿には、ブランチの飼っていた鳥が調理されて乗っていた。ジェーンが外出した隙に、ブランチは1階へ行こうとするが無理だった。彼女は庭いじりをしているベイツ夫人に助けを求めようとするが、気付いてもらえなかった。

 ジェーンは新聞社へ行き、情報交換欄に広告を掲載するよう頼んだ。担当した社員から申し込み者の名前を問われると、「知らないの?ベイビー・ジェーンよ」と彼女は得意げに言う。社員は「なるほど」と口にするが、ジェーンのことなど全く知らなかった。
 ブランチはシェルビーへの連絡を要請する手紙を作成して丸め、窓からベイツ邸に向かって投げ込んだ。しかし車でジェーンが帰宅し、ベイツ夫人が気付かない内に手紙を拾ってしまった。

 ジェーンはブランチの部屋に夕食を運び、「家は売らせないわよ。パパが私に買ったのよ」と言う。ブランチは「思い違いよ。私が2人のために買ったの」と指摘するが、ジェーンは「大嘘よ。ベイビー・ジェーンが買った家よ。アンタはここから出られないわよ」と不敵に笑う。
 ブランチが「私は何年も車椅子に釘付け。私がこんな不自由な体でなかったら」と悔しそうに言うと、彼女は「でもアンタは永久に車椅子」と勝ち誇る。ジェーンは拾った手紙を渡し、「誰が医者なんか」と吐き捨てて部屋を去った。

 ジェーンが新聞に掲載してもらった広告は、「有名スターの舞台・クラブ出演のため、伴奏ピアニスト求む」という内容だった。その広告に目を留めたのは、エドウィン・フラッグという貧しいピアニストだった。
 彼は母のディリアが関節炎で医者から半年の静養を指示されており、早急にまとまった金が必要だった。ディリアはエドウィンに頼まれ、秘書を装ってジェーンに電話を掛けた。会う約束を取り付けたディリアは、満足そうな様子を見せた。

 翌朝、ジェーンはブランチに食事を与えず、「子供の頃、アンタは私に食べさせてもらってた。今も私がいなきゃ食べていけない」と言い放つ。エルヴァイラが来ると、ジェーンは「昨日は気分が悪くて不機嫌だったわ」と告げる。
 彼女は「お詫びに今日は掃除しておいたから帰っていいわ」と言い、15ドルを渡して追い払った。彼女はネズミの死骸を食事の皿に乗せて運び、ブランチに悲鳴を上げさせた。午後になってエドウィンが訪ねて来ると、ジェーンは「家族に病人がいて芸能界から引退していたが、カムバックする」と説明した。

 ジェーンが「昔の舞台を復活させて、テレビやナイトクラブに出るわ」と話すと、エドウィンは「成功間違いなしです」と持ち上げた。ジェーンは嬉しそうな表情を浮かべ、昔の切り抜きを見せる。ブザーが鳴ったので、彼女は苛立った様子でブランチの部屋に行く。
 彼女は「すぐ邪魔するわね」と声を荒らげ、ブザーを取り外して部屋を去った。エドウィンはベイビー・ジェーンの得意曲『パパに手紙を』の楽譜を見つけ、ピアノで演奏した。それを聴いたジェーンは、楽しそうに歌い踊った。

 ジェーンは「家まで送るわ」と言い、エドウィンを車に乗せて家を出た。その隙にブランチはジェーンの寝室へ忍び込み、菓子を見つけて空腹を満たした。ブランチはジェーンの手帳を調べ、衣装の店に立ち寄る予定を確認した。ブランチは何と1階へ降り、シェルビーに電話を掛けて「妹の精神が乱れています。すぐに来て下さい」と要請する。
 帰宅したジェーンは、その様子を目撃した。ブランチはジェーンに気付き、慌てて釈明する。ジェーンはブランチを何度も蹴り付け、シェルビーに電話を掛けた。彼女はブランチに成り済まし、「妹は別の医者に診せるので、来なくて結構です」と述べた…。

 製作&監督はロバート・アルドリッチ、原作はヘンリー・ファレル、脚本はルーカス・ヘラー、製作総指揮はケネス・ハイマン、撮影はアーネスト・ホーラー、編集はマイケル・ルシアーノ、美術はウィリアム・グラスゴー、衣装はノーマ・コッチ、振付はアレックス・ロメロ、音楽はデヴォール(フランク・デ・ヴォール)。

 出演はベティー・デイヴィス、ジョーン・クロフォード、ヴィクター・ブオノ、ウェズリー・アディー、ジュリー・アラリド、アン・バートン、マージョリー・ベネット、バート・フリード、アンナ・リー、メイディー・ノーマン、デイヴ・ウィルコック、ウィリアム・アルドリッチ、ラス・コンウェイ、マキシン・クーパー、ロバート・コーンスウェイト、マイケル・フォックス、ジーナ・ギレスピー、B・D・メリル他。

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 ヘンリー・ファレルの小説を基にした作品。製作&監督は『ガン・ファイター』『ソドムとゴモラ』のロバート・アルドリッチ。脚本は、これが3作目となるルーカス・ヘラー。後に『飛べ!フェニックス』や『特攻大作戦』など5作でアルドリッチと組むことになる。
 ジェーンをベティー・デイヴィス、ブランチをジョーン・クロフォード、エドウィンをヴィクター・ブオノ、マーティーをウェズリー・アディー、子役時代のジェーンをジュリー・アラリド、コーラをアン・バートン、ディリアをマージョリー・ベネット、ベンをバート・フリード、ベイツ夫人をアンナ・リー、エルヴァイラをメイディー・ノーマンが演じている。ベイツ夫人の娘を演じているのはベディー・デイヴィスの娘のバーバラで、これが唯一の親子共演だ。

 ジョーン・クロフォードは1930年代に、MGMのトップスターとなった。一時は「稼げない女優」というイメージが強くなったが、1945年には『ミルドレッド・ピアース』でアカデミー主演女優賞を獲得する。
 しかし1955年にペプシコ社の社長を務めるアルフレッド・スティールと4度目の結婚をした後、次第に女優としての仕事仕事が減っていく。夫の死後も状況は変わらず、1960年代に入るとテレビの仕事しか来なくなっていた。

 一方、ベティー・デイヴィスは1930年代に『青春の抗議』と『黒蘭の女』で2度もアカデミー主演女優賞を獲得し、1938年から1942年まで5年連続でオスカー候補となった。1950年には『イヴの総て』でカンヌ国際映画祭女優賞を獲得し、健在ぶりを見せ付けた。
 しかし、それ以降は仕事が一気に減少し、1960年代に入るとジョーン・クロフォードと同じく厳しい状況に陥っていた。そんな2人が初共演し、久々のヒットとなったのが本作品だ。

 先にオファーを受けたジョーン・クロフォードがベティー・デイヴィスを推薦し、この共演が実現した。ただし、この2人は共演する前から互いを快く思っておらず、撮影中も険悪な状態が続いた。
 そしてクランクアップ後は公然と互いの悪口を言い合うようになり、その関係性は死ぬまで改善されなかった。実のところ、映画そのものよりも、そういうゴシップの方が面白かったりする。

 冒頭、ベイビー・ジェーンが舞台で歌や踊りを披露している時、それを袖から見ているブランチは面白くなさそうな表情で凝視している。妹の活躍を素直に喜んだり称賛したり出来ず、「なぜ彼女ばかりが」「絶対に私の方が」という感情を抱え込んでいる。
 最初の段階で、ブランチのジェーンに対する嫉妬心や憎しみや姉妹の関係性は明確に提示されている。しかし、では本作品が「ブランチがジェーンへの恨みを晴らす復讐劇」として進んでいくのかというと、そうではない。

 ジェーンは幼いのに大人気のスターになってしまったことで、すっかり性格が歪んでいる。父に対して、横柄な態度で文句ばかり付ける。父から注意されても、まるで反省の色を見せず「お金を稼いでいるのは私よ」と主張する。そんなワガママを父が認めてしまうので、彼女はますます増長する。
 ただし、生意気で傲慢なジェーンだが、アイスを買ってもらえるようになると「ブランチにも買ってね」と告げる。決して姉を邪険にしたり、馬鹿にしたりしているわけではない。そこにあるのは確実に、姉に対する思慕や愛の感情だ。

 しかしブランチの方は引け目があるので、素直に喜んだり感謝したり出来ずに「私はいいわ」と遠慮する。それに対して父が「ひねくれた子だ」と不愉快そうに言うので、彼女のジェーンに対する歪んだ嫉妬心はますます強くなってしまう。
 ブランチが一人で泣いていると、コーラが声を掛ける。母の「今にきっと、お前も注目を集めるわ。その時はパパとジェーンに優しくしてあげてね。忘れないで」という言葉に対する「死んでも忘れない」という発言は、憎しみに満ちている。

 1935年に移ると、ブランチは大スターになり、ジェーンは大根芝居で落ちぶれている。それは過去の恨みや憎しみを晴らす絶好のチャンスのはずだが、ブランチはジェーンを攻撃していない。それどころか、「自分と同等に起用する」という条件を映画会社に飲ませている。
 だからジェーンはアル中になっても、トラブルばかり起こしても、仕事にあぶれることは無い。そしてブランチは映画会社の人間から、「いい人」として評価されている。それがブランチの優しさじゃないことは明白だが、「その裏に実は」という思惑が語られることも無い。その時点で彼女が明確な形で復讐に出ていないのは、進行の都合だ。それについては後述する。

 現在のシーンになると、ブランチは綺麗に化粧を施して見た目を整え、上品な老女になっている。発せられる言葉は丁寧だし、穏やかで優しい態度を取っている。一方のジェーンは見た目が妖怪のように変貌しており、言葉も行動も全てが荒っぽい。やたらとカリカリしているし、横柄で傲慢だ。
 ジェーンは昔の映画についてブランチに嫌味を浴びせ、お蔵入りになった主演作に関しても自分が大根だったせいだとは全く思っていない。それどころか、自分の方が姉よりも優れた女優だと本気で思っている。

 ジェーンは隣人が花束をブランチに持って来ても追い払い、それをブランチに渡そうともしない。ブランチへのファンレターも、勝手に捨てている。
 しかしブランチはエルヴァイラから医者に任せるよう勧められても、ジェーンについて「お前は少女時代の妹を知らないのよ。可愛いだけでなく、生き生きと輝いていたわ」と擁護するような言葉を口にする。ジェーンの嫌がらせが続いているのに、抗議したりすることもなく我慢している。

 ジェーンが精神的に危ない状態なのは確かであり、ブランチへの攻撃的な言動が多いのも確かだ。ジェーンは受話器を外して外部との連絡を妨害したり、飼っている鳥を抹殺して食事に出したりする。
 さすがに監禁状態に置かれると、ブランチもシェルビーと連絡を取って助けを求めようとする。しかし、それまでは嫌味や皮肉を浴びても反発せず、嫌がらせを受けても我慢している。それは「妹思いだから」とか「優しい性格だから」ということではない。

 現在のシーンになると、ジェーンが精神的におかしい状態に陥っていることが早い段階で見える。彼女は気持ちが大スターだった幼女時代に戻っており、記憶が捻じ曲げられている。
 カムバックを目論む時も「老齢の自分」という意識が無いので、昔の歌や昔の衣装でステージに立つことを本気で考えている。それだけでも充分にヤバい老女なのだが、ブランチに対する攻撃性も強くなっていく。嫌味を言ったり手紙を隠したりするだけでは飽き足らず、監禁状態に持ち込む。

 復帰を考えているジェーンにとって、それを邪魔しようとするブランチは憎むべき敵だ。だからシェルビーに連絡しようとすると、平気で暴力を振るい、ベッドに拘束する。実の姉であろうが、そんなことは関係ない。そしてエルヴァイラがブランチを救おうとすると、冷徹に殺害する。
 現在のシーンは時間が進むにつれて、どんどんサイコ・スリラーとしての恐怖と狂気が高まっていく。その質を高めるのに最も貢献しているのは、間違いなくベティー・デイヴィスの怪演だ。アカデミー賞で主演女優賞にノミネートされたのも納得の演技だが、受賞したのは『奇跡の人』のアン・バンクロフトだった。

 現在のシーンでは善悪がハッキリと分かれていて、「ジェーンが卑劣な悪人、ブランチが哀れな善人」という構図になっている。しかし実のところ、そんなに単純な関係性ではない。終盤に入ると「なぜブランチがジェーンの嫌がらせに耐えていたのか」という疑問に対する答えが明らかになる。それに伴って、前述した関係性の裏に隠された事実も判明する。
 完全ネタバレだが、自動車事故はジェーンが嫉妬心で起こしたわけではなく、ブランチの仕業だった。彼女がジェーンを始末しようと目論んだのだが、失敗して自分が大怪我を負ったのだ。しかしジェーンは泥酔していて覚えておらず、だから自分が姉に怪我をさせたと思い込んでしまったのだ。それがきっかけでジェーンが醜くなったという負い目もあって、ブランチは嫌がらせを我慢したり、施設に入れることを迷ったりしていたのだ。

 前述した「1935年になってもブランチはジェーンへの恨みを晴らしていない」という状況は、「自動車事故の真相が終盤になって明らかになる」という構成を成立させるために必要だったのだ。そこで「いい人」という評価にしておかないと、ドンデン返しの効果が無くなってしまうからだ。
 ただし、そのせいで「あれだけ露骨に憎しみを見せていたにも関わらず、なぜか絶好の機会なのに恨みを晴らさない」という不自然さが生じてしまったことは否めない。

 話が進むにつれ、ジェーンはどんどん幼児化していく。エルヴァイラを殺してしまった頃には、すっかりベイビー・ジェーンの頃に戻っている。彼女は怯えた様子を見せるが、それは大人としての反応ではなく、幼い女の子としての反応だ。
 警察からの電話でエルヴァイラの捜索依頼が出ていることを知ると、拘束したブランチに「どうすればいいの?」と相談している。もはやブランチに暴力を振るったり監禁したりしていることに対する真っ当な感覚など、すっかり消え失せている。

 ジェーンはブランチに、「楽しい暮らしが夢だったのに、エルヴァイラのせいであんなことを。あの時と同じ。私がアンタに怪我させたと言われ、警官に叩かれた。自分の姉に、そんなことした覚えは無いのに。みんなが私を嘘つきだと責めた」と漏らす。
 その時までは、酒に溺れてトラブルメーカーになっていたものの、まだ醜く歪み切ってはいなかった。そこでブランチがついた嘘が、完全にジェーンは変貌してしまったのだ。ブランチの告白で真相を知り、ようやくジェーンは姉への憎しみから解放される。遅すぎた和解と共に、終わりの時は近付いて来るのである。

(観賞日:2017年10月12日)

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