namacheko 19aw シャツジャケットを味わう

namachekoというブランドはご存知だろうか。クルド人であるDilan Lurr,Lezan Lurr という兄妹がやっているブランドだ。繊細かつエレガント、そこに微かに入り込む奇妙なディティールが不思議な感覚をもたらす、どこかアートチックな服が魅力的だ。いずれ別のnoteでブランドについて詳しく考えてみようと思うが、ここではnamachekoの19awのシャツジャケットについて詳しく見てみることにする。

まずは全体像を見てみよう。

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色は綺麗な緑で、センターにヒラヒラとした短いフリンジのようなものがついている。胸のポケット部分には歪な形をしたフラップがついており、裾付近には異常な数のダーツが入っている。全体としては近年の過剰なビッグシルエットと真逆のクラシカルでジャストサイズなシルエットに仕上がっている。

一眼見ただけでも、冒頭で述べたようなブランドの魅力が味わえる服になっていることがわかるだろう。綺麗で洗練されているが奇妙なディティール。まさにnamachekoの真骨頂である。

しかしこの奇妙なディティールは一体なんなのだろうか。詳しく見ていく。

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生地にはデンマークのテキスタイルメーカーであるkvadartのものが使われている。kvadartの生地は高級な家具などに使われるモノで、10年保証がつく。それほど生地に自信を持っているメーカーであり、世界的評価を受ける建築プロジェクトやアートにも用いられるほどである。

余談であるが、kvadartはあのRaf Simonsともコラボしている。namachekoはRaf Simons以来の才能と評されたり、18awからRaf Simonsのヘッドパタンナーが加入したり、初期のRaf Simonsの生産を請け負っていたGysemans Clothing Industryで生産していたりして、何かとRaf Simonsとは縁があるようだ。実際コレクションも少し前のRaf SimonsをDilan流に解釈してモダナイズしたような印象を受ける。特に19ssでそれを強く感じた。Rafのようにここからもっとステップアップして行って欲しい。いや、間違いなくそうなるであろう。将来が楽しみなブランドだ。

ここらで服に話を戻そう。家具などに使われる生地だけあって、このジャケットも洋服だとは思えない質感で、独特な雰囲気を醸し出している。離れて見ると綺麗な緑なのだが、近づくと黒、白、緑の糸がランダムに見えてくる。面白い生地だ。意図されているかどうか定かではないが、20ssでインスピレーションとされたKoyaanisqatsiが思い浮かぶ。いや、ジャケット全体の空気、namachekoの服全てに言えることかもしれない。

このジャケットが発表された19awでは閉塞と解放がシーズンテーマとなっていた。この糸の配置は、色はランダムであるが一つ一つが粒、部屋のように見える。ここが閉塞だとすると、センターのフリンジは解放なのであろうか。また、クルド人にとって緑という色は革命、自由を表す色らしい。このジャケットには色違いも存在するが、そのような意味でも19awにおいては特に、緑を使ったことに意味が込められているだろう。安易な解釈かもしれないが、このまま自分勝手に突っ走ることにする。デザイナーにしか本意はわからないが、明言していないので個人の解釈で好きに味わってみる。

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胸のポケット部分のフラップもとても面白い。フラップをつけ忘れていて、後から慌てて余った生地を貼り付けたようだ。しかし全体のバランスを見た時、むしろこの形によって成り立っているような妙な安定感がある。ここが普通にまっすぐカットされているモノであったなら、悪い意味で浮いていただろう。このヘンテコだが幾何学的形は、数学教師である母親からの影響なのだろうか。またはイスラム教徒であることから来るモノなのであろうか。数学的のようで、民族的な奇妙な形。しかしこのフラップを用いたことによる全体のバランス感。Dilanのセンスには脱帽である。ポケットひとつとってもそこに確かなデザイナーの意思を感じることができる繊細さはもはやアート作品の気品さえ感じる。

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次は裾付近のダーツについてだ。通常ではまずあり得ない数のダーツが入っている。さらに高さも角度も出鱈目のように見える。なぜここにこのような仕様が施されているのだろうか。見た目として、つまり装飾としてのダーツなのか。まあ、それもあるかもしれないが、それだけのためにDilanがわざわざここに何本ものダーツを入れるとは思えない。

その答えはこのジャケットを着たときに初めて分かった。実際に来てみると裾のところに微かに丸みによる立体感が生まれ、シルエットがより洗練されて見えるのだ。これは素晴らしい。namachekoの服は直線的でありながらも、空気感としては尖っているというよりは、洗練されていて柔らかい印象という感じだ。その柔らかさというものは色味もそうだが、直線の中にある丸みから来るものなのかもしれない。ポケット部分のフラップもそうだ。フラップにも曲線を入れることにより、実際に着た時の裾部分の丸みとリンクさせていように感じる。その丸みも過剰に強調されたものではなく、あくまで自然なメンズらしいクラシカルなシルエットの中に収まるものである。体を立体的に捉え、着た時に最も美しい形にデザインされている。ここはなんだか建築的だと感じる。

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袖を見てみよう。ここには深めのタックが入っている。腕まわりは割とゆとりのある作りで丸みを感じさせるのだが、袖は深めのタックを入れることでタイトに仕上がっている。こうすることにより袖が綺麗に収まり、だらしないオーバーサイズという印象は消え失せ、クラシックな印象になっている。袖にも妥協なんてものは見られない。

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スナップボタンはcobraxのものが使用されている。cobraxは現在はririに買収されてはいるのだが、LOUIS VUITTONや DIORなどのラグジュアリーブランドでよく使用されるボタンである。ボタンにすら抜かりは無い。流石である。

一通りこのジャケットを見てきたが、いかがだっただろうか。詳しく見れば見るほど、このジャケットの魅力、Dilanのこだわりが見えてきた。ここまで細部まで計算されてデザインされていることには驚いた。服というよりは一つのアートのようである。素晴らしいこの作品を手にし、実際に着ることができることに感謝せずにはいられない。

初めての投稿で、服の知識も乏しい為、もしかすると見当違いのことも書いてしまったかもしれない。それにまだまだこの服の魅力を全て味わうことができたとは、とてもでは無いが言えないだろう。しかし、この服と改めて向き合うことで愛着も深まり、何より楽しく書くことができたことに意味があったと思う。モノを味わうことで生活が豊かになるというのはやはり一理あったかもしれない。


文章力も壊滅的であったにも関わらずここまで読んでくれた方、本当にありがとうございました。また、モノについて味わっていくような記事を書いていくのでこれからもよろしくお願いします。



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