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【365日のわたしたち。】 2022年4月1日(金)

「まだ花飾りつけてない人、こっちも空いてますよ〜!」

そう言って声を張ると、数人の新入生がゾロゾロと私の担当の列に並び始めた。

「ご入学おめでとうございます」

「ありがとうございまぁす」

お祝いの言葉をかけながら、彼らの胸ポケットに安全ピンで花飾りを留めていく。

彼らの校章や名札はピカピカで、今から新しい学校生活が始まるんだな、ということを全身で主張している。

着慣れていない制服はシワもテカリもなく、それがより一層、彼らにフレッシュさな印象を与えているのだろう。

中には、兄弟のお下がりであろう、少し色褪せた制服を着ている子もいたけれど、それはそれでなんだかその子の一部を垣間見た気がして、興味深いな、と思った。


飾りをつけてもらい、栞をもらった新入生たちはゾロゾロと体育館へ移動していく。

生徒会長である私も、この後、壇上で新入生たちに挨拶をさせてもらう予定だ。


学校生活は楽しいことばかりじゃない。

特に私がいた2年間は、コロナのおかげでほとんど登校できなかった時期があったり、部活の大会も中止されたりと、夢に見た高校生活ってこんなはずじゃなかったのに...と、振り返って絶望することもある。

友達の顔も、そういえば顔半分はほとんど見たことがないから、久しぶりにマスクを取った顔を見たりすると「...こんな顔してたんだ!」と驚くこともある。

せっかく高校に入ってお弁当生活になったのに、席は移動しちゃダメ、前を向いて黙って食べること、なんてルールもある。

もしかしたら、新入生の中にも私と同じように、こんな高校生活に絶望を感じる子がいるかもしれない。


そんなことを思うと、

彼らの思いを少しでも晴らしてあげたい、

希望を抱かせてあげたい、

というお節介な気持ちが湧き上がってきたから、不思議だ。


これが「昇華」というものなのだろうか。



挨拶原稿は、何日も何日もかけて作り上げた。

国語の先生にも何度か見てもらい、より良い表現はないか、伝わりにくいところはないかなど、できる限りを尽くした。


私が今日読み上げるこの文章は、彼らの学校生活の中でふとした瞬間に思い出され、少しでも前向きな気持ちや勇気を与えてくれるものになったら良いな、と願いながらしたためたものだ。

その願いが、少しでも新入生に伝わってくれたら、と願う気持ちと一緒に、彼らの耳を通って左から右へ流れ出ていってしまうのだろうなという諦めのような気持ちも押し寄せてくる。


ただもう、できる準備は全てやったのだ。

あと私にできることは、丁寧に、伝わることを願いながら、この文章を読み上げるだけ。



「次は、生徒会長から新入生の皆さんに、お祝いの言葉と挨拶がございます。」



少し冷たくなった指先と、バクバクと脈打つ振動と共に、私は壇上へ上がる階段へ足をかけた。





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