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不登校に関する現状の分析と課題の検討等について

米国のある研究によると、幼児教育の利益には労働所得の増加や健康面の改善があるとされる。また同様に、高等教育も安定した仕事に就けるようになるという個人的利益のほか、高等教育を受けた結果、企業活動の活発化やそれに伴う経済成長の要因となる社会的利益も考えられるだろう。さらに昨今、人生100年時代やVUCAにおけるリカレント教育など社会人の学びも注目を集めるようになっている。

教育は、不平等の解消や格差の縮小につながるケイパビリティとなるものである。今後、教育の重要性がますます高まる時代が到来することも予想される。

このような教育の利益なども考えられるが、当記事では不登校などで学校に通えなかった人の学びの場の確保として、夜間中学校の支援を拡充する方針であることが話題となっている。

当文中では不登校に関する現状の分析と課題についての検討等を行うこととしたい。

1. 不登校に関する現状の分析と課題の検討

ここでは、文部科学省から公表されている「平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」をもとに、不登校児童生徒数の推移の確認、いじめ認知件数と不登校児童生徒数の線形単回帰分析などにより不登校に関する現状の分析をした上で、課題等についての検討を行うこととしたい。

 1.1 不登校児童生徒数の推移および都道府県別不登校児童生徒数について

まず、不登校児童生徒数の推移をグラフにしたものが下図である。

小学校では、1997年に不登校児童数が20,000人を超えて以降、おおむね同水準で推移しており、2017年の不登校児童数は35,032人となっている。次に、中学校では、1998年に不登校生徒数が100,000人を超えて以降、おおむね100,000人を超える水準で推移しており、2017年の不登校生徒数は108,999人となっている。

不登校児童生徒数はあまり減少の傾向はみられず、不登校児童生徒に対する対策は課題であることが考えられる。

また、2017年の不登校児童生徒数を都道府県別に色分けした統計地図(コロプレス図)が下図である。

図を確認すると、東北地方や北陸地方の一部、四国、九州地方の一部などで不登校児童生徒数が少なくなっている(色の薄い地域)。

東北地方では、青森県が1,296人、岩手県が1,046人、山形県が1,020人と少なくなっており、特に秋田県では731人と全国でも最も少ない水準となっている。北陸地方では、富山県が914人、福井県が758人と少なくなっている。四国では、徳島県が633人、高知県が917人と少なくなっている。九州地方では、佐賀県が1,023人、宮崎県が1,105人と少なくなっている。

 1.2 いじめの認知(発生)件数と不登校児童生徒数の線形回帰分析等について

続いて、いじめの認知(発生)件数の推移といじめの認知(発生)件数と不登校児童生徒数の線形回帰分析等について、確認することとする。

まず、いじめの認知(発生)件数の推移をグラフにしたものが下図である。

2006年から国私立学校を含めるなどの調査方法の変更もあるが、いじめの認知(発生)件数は増加の傾向がみられる。

次に、いじめの認知(発生)件数と不登校児童生徒数の線形回帰分析を行うこととする。

まず、小学校について、目的変数を不登校児童数、説明変数をいじめの認知(発生)件数として線形回帰分析したものが下図である。

上の図を回帰式で表したものは、以下のとおりである。

y=20600+0.041x (yは不登校児童数、xはいじめの認知(発生)件数)
※P値は0.00051(0.1%水準で有意となっている)

さらに、中学校について、目的変数を不登校生徒数、説明変数をいじめの認知(発生)件数として線形回帰分析したものが下図である。

上の図を回帰式で表したものは、以下のとおりである。

y=82900+0.29x (yは不登校生徒数、xはいじめの認知(発生)件数)
※P値は0.0965(10%水準で有意となっている)

線形回帰分析を行った小学校と中学校のそれぞれの図を見ると、回帰直線の傾きは小学校の図が大きく見えるが、回帰式を確認すると、説明変数x(いじめの認知(発生)件数)の係数の値は中学校の方が大きくなっている(小学校は0.041、中学校は0.29)。このことから、いじめの認知(発生)件数の増加による不登校生徒児童数の増加は、中学校の方が大きくなることが分かる。また、小学校と中学校でいじめ対策を実施した場合、不登校児童生徒数の減少は中学校の方が効果が大きい可能性もあると考えることもできる。

また、不登校児童生徒数を学年別に表したものが下図である。

不登校児童生徒数は、学年が上がるごとに増加していることが分かる。このことから、不登校への対策は早い段階から実施することが求められるだろう。

 1.3 不登校に関する現状の分析と課題等について

上では不登校児童数といじめの認知(発生)件数との関係により分析したが、不登校の要因となるものはいじめ以外にも考えられる。たとえば、授業の理解が出来ず、学習の遅れにより不登校となる児童生徒の存在なども考えられるだろう。

しかし、上で確認したように、不登校児童数は学年が上がるごとに増加しているため、早期段階での対応を検討する必要もある。それでは、不登校児童生徒に対する対応としては、どのようなものが考えられるだろうか。

たとえば、平成17年7月6日付17文科初第437号「不登校児童生徒が自宅においてIT等を活用した学習活動を行った場合の指導要録上の出欠の取扱い等について」では、一定の要件を満たす場合に指導要録上の出席扱いとすることができることが定められている。

現在ではITの活用等により、学習の方法や学習の場は増えている。夜間中学校の支援拡充だけでなく、ITを活用した学習方法を広く認めていくこともよいと思われる。たとえば、スタディサプリのようなアプリの活用による学習について、一定の基準を満たしている場合に、出席扱いとすることなども検討に値するだろう。上で見た文部科学省の通達の弾力的な運用の拡大等を図ることもひとつの方法として考えられる。

2. まとめ

大量生産・大量消費の画一的な社会から多様性が認められる社会が求められている。働き方、教育、生き方、それぞれの人が生活しやすい寛容さも大切だろう。ゼロかイチかではなく、ゼロでもイチでなくてもよい方がきっと多様になっていく。包括的な仕組みを整えるとともに、ゼロでもイチでもない代替的な在り方も認められる社会へ。

令和の美しい調和と寛容な精神を。


【参考文献】
文部科学省(2018)「平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」

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