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【性別適合手術と妻へのプロポーズ13】バラの花束を抱えた彼女はこう答えました。「一晩考える」。

このnoteでは、LGBTQ当事者として、福祉の現場に立つ者として、「生」「性」そして「私らしさ」について思いを綴ります。自己紹介はこちらからご覧ください。
自分は男性だと思いながらも、一体何者かわからずに生きてきた私。戸籍も男性として生きていくと決め、性別適合手術を受け、心惹かれた彼女と交際を重ねました。今回はいよいよ彼女へのプロポーズのストーリーをお届けします。(本シリーズのマガジンはこちらか。)

2014年、31歳になった年、私は性別適合手術を受け、子宮と卵巣を摘出しました。性別適合手術を受けることで、戸籍上の性別を女性から男性に変更することが可能になりますし、男性になれば、私は男性として女性と結婚をすることができます。

身体は女性だけれど、男性の心をもって生まれた私にとって、男性として好きな女性と結婚することは、夢でありましたし、当然の権利でもありました。ただ、そのためには、手術と戸籍の性別変更は避けて通れなかったのです。

2014年6月、性別適合手術が終わってすぐに家庭裁判所に行きました。申請手続き上の不備は思い当たらず、変更が認められるのは時間の問題だと考えた私は、彼女にプロポーズしました。

彼女と出会って約2年、そして初めてのセックスから1年半がたっていました。本当にたくさんの時間を一緒に過ごしました。だから、プロポーズを受け容れてもらえる自信が全くなかったわけではありません。少なくとも、女性から男性になったことを理由には断られることはないだろうと思っていました。

また、彼女はずっと「私は子どもはつくらない」と言っていましたので、私が精子をつくる機能を持っていないことを理由に結婚を断られることもないだろうと思っていました。

唯一の心配は、彼女がそれほど結婚願望を持っていなかったことです。結婚して家庭をつくりたいと切望していた私とは彼女は違いました。

プロポーズは、8月、場所は神戸を選びました。私も彼女も共にファンだったインディーズバンドのライブに泊まりがけで行くことになり、このチャンスを生かすことにしました。

私は男友達に「神戸に彼女と泊まりに行ってそこでプロポーズする。どこかいいホテルないか?」と相談しました。全室がオーシャンビューのスイートルームというホテルを見つけた私は、早速ホテルに電話して「彼女にプロポーズするので、33本のバラを束ねた花束を用意してほしい」と頼みしました。33本のバラの花束には、3回生まれ変わっても3回ともあなたを愛します、という意味があるそうです。これまでも、また性別が変わっても、そして来世もあなたを愛すという気持ちを伝えようと思ったのです。

ライブ当日、大いに盛り上がった私たちは、疲れきってホテルに到着しました。しかし私には、出迎えたホテルのスタッフ全員が、「プロポーズ、うまくいきますように!」と笑顔で応援してくれているように思えました。

コンシェルジュは、私たちを部屋の前まで案内すると、うやうやしく挨拶をしてその場を立ち去りました。部屋のドアを開けるとバラの花束があるはずですから、プロポーズの瞬間に居合わせないようにと配慮したのでしょう。

花束を見つけたら、彼女にサプライズのプロポーズだ……私はどきどきしながらゆっくりとドアを開けました。部屋の中はまっくらですから、明かりをつけなければいけません。が、ドアを開けるとすぐにありそうなスイッチがいくら探しても見つかりません。コンシェルジュに聞けばよかった!と焦る私を押しのけるように、彼女は窓からの薄明かりを頼りにさっさと奥に進んでいきました。

やっとの思いでスイッチを見つけ、部屋を明るくすることができました。ソファに置かれている花束が私の視界に飛び込んできましたが、彼女はすでに花束のある場所を通り過ぎて隣の部屋にいました。部屋を開けた瞬間、花束が彼女を迎える、という私のサプライズは見事に失敗しました。

しかたなく私は、彼女に「すみません、ちょっとこっちにきてもらえますか?」と声をかけました。彼女をソファに座らせ、そして、花束を渡し、「結婚してください」とプロポーズしたのです。

勘のよい彼女は、プロポーズの段取りがスムーズではなかったことを察し、笑いました。彼女は花束を抱えて「あなたの気持ちはわかりました」と言いました。そして「でも、ライブで疲れたし、おなかも空いたから、ちょっと一晩考える」。私はひと言、「はい」と返しました。

「一晩考える」という彼女の返事は、期待通りのものではありませんでしたが、一方で、やっぱりなという気持ちもありました。彼女に夢中で彼女と絶対に結婚したいと思っていた私と対照的に、彼女は私に対して、好きで好きでどうしようもないという態度ではありませんでしたから。

晩ご飯を食べているときも、話題はライブのことが中心でしたが、彼女は思い出したように、「こんなホテルに泊まろうっていうから、きっとプロポーズだろうと思っていたよ」と笑いながら話しました。そんな彼女を見ながら、「一晩寝たらよい返事をもらえるかもしれないな」と私は期待しました。

翌朝、目が覚めた私は、隣で眠る彼女に「一晩たったよ」と声をかけました。彼女はこちらに顔を向け、「結婚したら、私、仕事やめていいの?」と聞きました。私は「いいよ、いいよ。仕事しなくても、好きなことをやればいいよ」と答えました。彼女は私をじっと見て言いました。「わかった。じゃあ、結婚してもいいよ」

私はベッドの上で「よっしゃー!」と喜びの声を上げました。

こうして私のプロポーズは成功し、私は彼女と夫婦になりました。すでに結婚生活は8年目を迎えています。

このシリーズでは、性別適合手術、そして彼女との結婚を「私」の視点で振り返りました。次回は、彼女のそのままの言葉をみなさんにご紹介したいと思います。異性愛者である彼女は、トランスジェンダーの私との結婚をどう考えたのか。今、私との夫婦関係をどんなふうに捉えているのか、彼女のそのままの言葉をお伝えします。

次回は9月14日に投稿する予定です。

【これまでのストーリーはこちらからご覧ください!】


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