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正しさの押し付けが、物語をつまらなくするのではないか? という考察

このnote記事は、現在執筆中のテロメニア魔導記4『目覚めし竜の女王』のあとがきの一部を抜粋、簡単に再編集したものです。
(製品版では加筆・修正される可能性があります)

 私は去年、ついに五十を超えてしまい、自分で言うのも変ですが、だんだん説教臭くなってきました。日常会話においても、つい話が長くなってしまい、妻や子供に途中で飽きられてしまう事がよくあります。説教臭い老人にはなりたくないものですが、多くの人がそうであるように、きっと私もそうなってしまうのでしょう。それでも私は、自分の中にある熱い気持ちを人に伝えたい。そして人の話に耳を傾けて、その情熱を感じたい。文字を書くのはもちろんのこと、人前でしっかり喋れて、かつ話を聞ける人間であり続けたい。私は心からそう思っています。それは説教では無く、むしろ若い人から教わりたいという、謙虚な気持ちに他なりません。

 特に創作物においては、説教臭くならないようにしたいと、私は常々考えています。私はよく社会問題をテーマにした物語を書きますが、しかし答えを示すつもりはありません。(そもそも答えなんて私にも分かりませんっ)ことさら創作においては、私個人としての考えを棚上げして、多角的な視点からそれらの問題を見つめることで、読者と一緒に考える姿勢で物語を書きたいと考えています。

 創作物から説教臭さを感じる時、大抵そこに「押し付け」が入っている場合が多いように思います。「押し付け」とは、「正しさ」や「答え」の「押し付け」であり、その問題に対して議論の余地さえ残さない状態のこと。問題の本質から目を背け、理想的な「正しさ」のみを「押し付け」てしまうと、人は逆に拒否反応を示してしまうのではないでしょうか。近年では特に、ハリウッドやディズニーをはじめ、創作物で描かれるこれらの要素が、少し露骨すぎるのではないかと感じます。

 この「押し付け」は本当に厄介で、人間は一度「正しさ」を盲信してしまうと、「自分は正しいのだから、その正しさの為なら何をやっても良い」という考えに陥り易い傾向があります。たとえば「太陽光発電は発電時にCO2を排出しない」という部分を絶対的な「正しさ」と盲信してしまうと、製造時に排出される間接的CO2や森林破壊の問題、発電効率の低下による維持コストの高さとパネル廃棄問題など、太陽光発電が抱えている別の問題に目が向かなくなってしまいます。これはSDGs然り、LGBT然り、ポリティカル・コレクトネス然り。どんなに高尚な理想や素晴らしい目標も、人間は自分の利益と結び付け、正しさの証明にそれらを利用してしまう。結果、本来の高尚な理想から外れてしまい、どんどん胡散臭く、そして説教臭いものに変容していきます。人間には「正しさ」を上手く扱うことが出来ません。議論の余地も無いほどの絶対的な「正しさ」に直面した時にこそ、慎重さが求められると私は思います。

 創作にあたって、私は常に普遍的な美しい物語を書きたいと考えていますが、近年声高に叫ばれている高尚な理想が台頭するより以前に書かれた古い作品の中にこそ、私が目指すべき普遍性と美しさがあるように思います。たとえば『醜いアヒルの子』や『よだかの星』などといった作品は、近年多様性が叫ばれるようになる前から存在していますよね。これらの作品は人間の本質を的確に捉え、臭いものにふたをすること無く、主人公が虐げられる場面も包み隠さず描いた上で、その過程と心情、結果が淡々と描かれます。もちろん作者が考える「正しさ」や「答え」を、読者に「押し付け」たりすることもありません。

 人間、間違えずして成長は有り得ません。自分も含めて誰かが間違えた時にこそ、問題の本質が見えてくるものです。最初から「正しさ」を「押し付け」て、物語の中で起こる問題に対して「こうあるべきだ」という答えありきの描き方では、読者が問題の本質を考える余地さえありません。物語においては、ただ「正しさ」を叫ぶだけでなく、あえて誰かが間違いを犯して、その時の心情と過程、結果を丁寧に描くことこそが、大切なのではないでしょうか。だってこれは物語ですよ? 現実で間違えると大変ですが、物語の中で間違えてもそれは創造の中の出来事で、実際には誰も傷つかないのですから。
 私が書きたいのは、まさにそういった物語。私が考える「正しさ」はもちろんのこと、常識的な「正しさ」も棚上げして、特定の思想を「押し付け」ることなく間違いを犯す。その中で登場人物の考え方とそれに基づいた行動、そして得られた結果を淡々と描くことで、問題の本質を読者と一緒に考えていきたい。いてはそれが、普遍的な美しい物語に繋がると、私はそう考えています。

 さて、説教臭い老人にはなりたくない、と言いながら、また説教臭くなってしまいましたね。読者の皆様におかれましては、こんな私が書く物語を、今後も温かい目で見守って頂ければ幸いです。

テロメニア魔導記4『目覚めし竜の女王』あとがきより抜粋・再編集
(本作の配信は2024年~2025年を予定しています。どうぞお楽しみに!)


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