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花ちゃんち

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花ちゃんち

花ちゃんち

「寒くなったね」

「そうだね」

朝の道で交わした会話。

本当に寒くなった。 手袋をしていないと指先がかじかんで感覚がなくなってつらい。

昨日の夜、「明日行くね」って電話があった。

嬉しかった。

やっと歩けるようになった、娘の子供が久しぶりにやってくる。

毎日忙しいからそんなに考えているわけじゃないけれど会えるのは嬉しいな。

はじめてのことじゃないけど、女の子は可愛い。

息子の子供

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スイカと風鈴

スイカと風鈴

花子が娘とやってきた。

大きくなった。
やってくる度そう思う。

花子は娘に買ってもらった花火セットの大きな袋を大切そうに両手に抱えて嬉しそうな顔をしてうちに来た。

昨日息子と太郎がいつもの八百屋で買って来たスイカがちょうどよく冷えていたから、小さな三角の形に切って長方形のお盆に載せて嫁が持ってきてくれた。

白い小皿と塩の小瓶もテーブルの上に載っている。
その横に緩く絞ったお手拭きタオルも用

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熱いお茶

熱いお茶

うたたねをしてしまった。
このところずっと気が張っていたから疲れていたんだと思う。

花子は主人の実家に泊まりに行っている。
みつさんがいなくなってしまってさみしい気持ちになっているのは私だけではないみたい。

みつさんの持っていた陽だまりのようなあたたかさを小さな花子が補えるならいいような気もするけど、それだけでもないのかもしれない。

なんとなく不安な気持ちが湧いてきて悲しい。
生きるって、な

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陽だまりのような人

陽だまりのような人

みつさんが亡くなった。
そのことでこんなに心が揺れてしまうなんて考えもしなかった。

私にとっては本当に大きな存在だったんだ。

若い頃や子どもの頃は大人の人はつよくて大きくてゆるぎないもののように考えていたけれど、実際に自分が大人になってみると、自分とはなんと心許ないものなのだろうと思うことばかりなのだった。

小さな子どもを持ってからその気持ちはどんどん膨らんでいくばかりで心配や不安な気持ちば

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しずかに暮れていく夕べ(マラソン17日目)

しずかに暮れていく夕べ(マラソン17日目)

「おばあちゃん、どうしてお手々もお顔もしわしわなの?」
花子の言葉にどきんとする.

花子にとってのひいばあちゃんのみつさんはにっこりと笑ってこう言った。
「ふふふ、そうねぇ、ばあちゃんねいろんなことがあった時気をもみすぎちゃったの。だからねこんななっちゃったのかな?
花ちゃんは気をもまないようにして歳をとってね」

「きをもむって?」
花子はよくわからないようで、きょとんとしている。

まだ歩き

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今だけの永遠

今だけの永遠

「お母さん、あかちゃん元気かな?」

「元気だと思うよ」

私の大きなおなかに耳をあてて、太郎は目を閉じている。

さらさらとした髪の毛からシャンプーの香りがしている。

青いパジャマを着せられて布団に入れと言われているのに私のそばから離れない。

もうじき出産する予定なのだけれど、まだその兆候は出ていない。

静かな夜のこんな時間が今あるということを、ほんの少し前までは考えもできなくて。

つわ

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木枯らしが吹いていた

木枯らしが吹いていた

「ありがとうございます」

「いいえ、こんなことしかできなくてごめんね」

「いや、本当に助かります、申し訳ないです」

保育園の帰りに太郎と一緒に近所の八百屋に寄るのが習慣になっていた。

何かしら果物と、足りなくなった野菜を買って帰って夕飯を作る。

昨日から寝られずに疲れが取れずにぼんやりとしていた。

顔色が悪いと父に心配されたけど、保育園のお迎えと八百屋での買い物はしないわけにはいかない

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青切りのみかんの季節

青切りのみかんの季節

「おかあさん、大丈夫?」
太郎が心配そうな顔で私に聞く。

このところかなり苦しい日々が続いていた。

お腹はそんなに大きくなっていないけど気持ちの悪さはひどくなるばかりで普通の生活ができない。

つわりというものがこんなにつらいものだとは実際に経験してみるまで知らなかった。

太郎の時はこんなことはなかったのにどうして今回これほどむごいことになってしまったのか私にはわからない。

起き上がること

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