本の感想「サラバ」西加奈子
上下巻の長編を読み終えて...
久しぶりに読書を継続して、書くことを続けている。毎日継続してみて、やはり読書の楽しさと、読むことで広がる世界観に包まれている。きっかけにすごく感謝している。
「サラバ」とは
西加奈子さんの長編小説で2015年に発売された作品だ。主人公は圷歩という30代の男性、関西出身のフリーライター、イランで生まれ、エジプトで幼少期を過ごし、なんでも器用にこなせるタイプだし、容姿に恵まれていた恩恵に与り苦労をせずとも、仕事も恋愛も順風満帆な人生を歩んできた。
対して、姉の貴子は容姿もパッとせず、性格は自己中心的で横暴で、周囲を困らせる事も多かった。そんな対照的な2人の姉弟、両親、家族の35年位を描いている。「サラバ」とはエジプト時代の現地の幼なじみと共通語として使っていた合言葉だ。「サラバ」
日本の武士の言葉を真似て決めた合言葉、幼き日の歩とエジプト人の幼なじみにはこの言葉を口にする度に勇気が湧いた。
そんな主人公の歩は、幼少期からとことん自分というものを持っていない。受け身の人生、否定される事を恐れ、目立つ事を嫌う。姉の貴子は正反対。時に部屋いっぱいに巻貝の絵を描き続けたり、大人になると路上で巻貝の中に入り、通行人に観察される、巻貝アートをやってみたり、宗教にハマったりする。そんな姉を弟は忌み嫌っていた。
「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」
嫌っていた姉より、輝きに溢れた人生を歩んでいたと思っていたが、年を重ね容姿が醜くなると、周囲が気になり出し家に引きこもるようになる主人公。そして、そんな弟に姉の貴子が言った言葉は
「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」
姉は何も考えずに支離滅裂な事をしていた訳ではなかった。主人公の歩と違い、もがき苦しみながらも自分が信じれるものを見つけたのだ、そんな話だった。
大切なことは
信じるものを持っているか?という姉の問いかけに歩は怒りや嫉妬心を露わにする。信じるものを自分の中に見出すとはどんな事だろう。この作品では、流され続けてきた主人公の心の醜さが一際目立つ。
主人公は言わば幼い頃から、可愛らしさと聞き分けの良さを兼ね備えたお利口さんな子だった。
私は考えた。
全て結果を気にしたり、相手の顔色を気にするお利口さんは本当にいい事なんだろうか。相手を思いやる事とは全く別な話である。
かつて、私も親や周囲に嫌われまいとお利口さんにしてきた節があった。
その癖が今でも抜けない時があるのだけど、受け身である事は時に大切な人や家族を傷つけているような気がしたのだ。
素直に嬉しい、ありがとうの感謝に溢れる気持ちや、迷惑をかけたくなと思っている事も伝えてもいいんだよなあ、そう思っていいのだと思った。
変わるきっかけを探し続けてもいい
この物語で姉の貴子はヨガによって変わった。
自分自身を信じて足を大地に乗せ、力強く立ってみる。私もヨガによって、運動能力だけでなく呼吸を通しての心の成長を感じている。
私の信じるものは自分だ、そう毎日感じてから心が安定している。そんな中で得られた心境、そして能動的になれた時の心が弾む躍動感はなんだろう。
「サラバ」には新しく一歩を踏み出すための全てが詰め込まれ、そして家族の愛の形が込められていた。
西さんの作品ではいつでも描かれた人物達の苦悩がこぼす事なくイキイキと書かれ、ウサギと亀のような逆転劇があるから大好きだ。
そして誰かが決めず、自分で選んでいくことの大切さも心に沁みた。
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