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原宿にあった幻ラーメンのこと

ご存知の方もいらっしゃるかも知れません。
今から二十年ぐらい前まで、原宿のキディランドの裏に「居酒屋まつしま」という古い小さなお店がございました。
通称「幻ラーメン」。
原宿のマリー・アントワネットと言われた女将さんが給仕を務め、ノリのいい旦那さんが厨房で腕を奮っておりました。

女将さんのメイク


このお店の特徴はですね、言えばキリがないんですが、何と言っても女将さんの個性的なメイクでございました。
昔、同じ頃に「横浜メリー」という方がいらっしゃいましたが、同じぐらいのインパクトがございました。
最近で言えば、これは女性に対して大変失礼なんですが、それを承知の上で申し上げるとあの「ジョーカー」でございますね。
わかりやすく言えばそのような事態でございまして、大変に派手なメイクを施しておられました。

止めどないサービス精神

そんな女将さんがいつも店の前で手を叩いて呼び込みをしてるんです。
知らない人が見たら、夜道だったら、まあ、声が出ます。
ですがお人柄はとても穏やかで優しい、我々にとっては原宿のお母さんのような方でした。

ここに「定例会」と称して同じメンバーで集まることが多々ございました。
といっても普段から一緒に働いて一緒に飲んでる仲間なのに定例会も何もないんですが、特別にそのような呼び方で飲む日がございました。

「ようきたね、ようきたね。」っていつもやたら甲高い声で招き入れてくださり、常連である我々に瓶ビールを次から次へと持ってきて「サービス、サービス」なんて言ってくれるんです。

飲んでも飲んでも次から次へと出てくるサービス。
あれはどこまでがサービスだったのか、酩酊するまで飲んでいたわたくし達にはわかりません。
とにかく会計がいつも安かったような気がします。

幻ラーメンの懐の深さ

お通しは、決まってバターピーナッツとおかき、あるいは小皿に乗った缶詰のみかん。
これに続き「幻もやし」「幻焼餃子」など自慢の逸品が出て来ます。

我々も若い頃ですのでじっくりやる、なんてことは知っているつもりでもまだ知りません。
いかに早く酔うか、いかに気持ちよくなるかが目的でございますよ。
宴は乱暴の極み、粗暴の極みでございました。

酔って裸になって騒いでも何も言われません。
隣で三線を弾いていた沖縄の人とパンツ一丁で取っ組み合いになるというような、最後は何故か彼らと仲良く酌み交わしているような、毎回そういう類の宴であります。
にもかかわらず、ご主人も女将さんもいつも楽しそうに、時には我々に混ざって楽しむ時もあり、誠に寛容な態度でもって見守ってくれていました。

最後の締めはいつもお約束の「幻らーめん」。
先程気になってネットで調べましたら不味いなんて書いてる方がいらっしゃいましたが、我々はこのラーメンが大好きでした。
スープも味わい深くて美味かったです。
深酒の後の負担がかかった胃にちょうど良い、深い優しさがありました。

悪魔の酒幻カクテル


わたくしだけが必ずここで「幻カクテル」を飲んでから帰る、そのようなルーティンもございました。
女将さんがシェイカーで作ってくれます。
入れた分量が多すぎて、何故かカクテルグラス二つ使って一杯半になって出てくるんです、余っちゃって。

テイスティングの際に首を傾げていたことがありましたが、そのまま出てきました。
ものすごく甘ったるくてものすごくアルコール度数が高い。
色は毒々しいブルーをしておりました。
これで毎回自分にトドメを刺してから帰る。
そんな思い出の店「居酒屋まつしま」でございます。

居酒屋まつしまが幻になった日


このお店が閉店する日、今でも覚えております。
名残惜しくて寂しくて、みんなで大将を表に引き摺り出して胴上げをしました。

そして其々が形見としてお店の備品を頂いて帰り、このように今でも大切に保管しております。


裏面はこちら。

原宿でこの値段。
安いですよね。

その後の跡地には、ラーメンの人気店「山頭火」さんが営業されています。

ご主人と女将さんへの感謝のお手紙として、ここに記します。

ありがとうございました。

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