400字の部屋 ♯6 「海外旅行 6」

 壁一面の窓からは向かいの神社の境内にヒョロヒョロした樹木が十本程生えているのが見える。細く淡灰で皺だらけの幹には苔が張り付き枝からは草臥れきった樹木に相応しい小さく細かい葉が無数に付いている。十本程の樹木は必死で光を取込み養分を作るもそれも虚しく最後の刻を迎えているようだったが植物の生存スケールならばこの先数百年は今と同じ形で古の祠を取囲んでいることだろう。Seezは時折樹木を眺めつつ切絵の作業を淡淡と続けた。マレーシアで切絵作家として活動しているSeezは銀座で行われる大規模なArtFesに作品を展示する為、三箇月前から都内の外国人向けのドミトリーに宿泊していた。Seezの作品は人間の顔に植物やら機械やら鉱石やらの装飾を施した様子を切絵で表現したもので蟻の巣程のものから三階建の家屋程のものまで様様なスケールで己の世界観を創っている。Fesは明日。珈琲を啜りSeezは作業に没頭する。

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