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初期状態が密林のしいたけ栽培キット

時折、何かを育てたい欲に駆られる。
父性に満ち溢れる太い男が私だ。

ゴーヤカーテンに挑戦したり、メダカを飼ったり。
そうだ、鉄フライパンや革製品を味わい深くなるまで育てるのも好きだ。

そんな私は今日も父性を発揮し、贅肉をハウス栽培している。
ひたすらに籠城して(ちゃんと仕事してる)、肉を温めている。

しかし一向に収穫される気配がない。育ちすぎた胡瓜のように大味となり、廃棄されていくのだろうか。

そんなことを考えながら、時折思い出したようにウォーキングに繰り出しては肉塊に風を通してやるのだ。


そんな肉トークはさて置いておこう。

育てたい欲の話だ。

溢れ出る父性を抑え切ることなどできず、次は「きのこ」を家系図に加えることにした。

菌類を家族として迎え入れるのは初めてである。

数ヶ月前にたまたまホームセンターで「しいたけ栽培キット」的なものを発見し、どうもムズムズと気になっていたのである。

原木を模した円柱の土台に毎日霧吹きで水を吹き、直射日光の当たらない場所で栽培すれば1週間から10日ほどで収穫ができるという。

今までで最も手のかからない良い子なのではと思い、ワンオペでもいけるだろと読んだ私は迎え入れることを決める。

ちょうど年末年始、息子と1週間共に過ごすことになっていたので、その間に開封から収穫までできないかと企んだ。


意気揚々と購入した(擬人表現終了)「しいたけ栽培キット」だが、どうも様子がおかしい。

パッケージを開けると、袋に土台が封入されていた。

袋は白く曇っており、内容物ははっきりとは見えない。
だが、目の錯覚だろうか。何やら慣れ親しんだ集合体が見える。

案の定、触り心地も凸凹しており、ロールした時のキャンプマットのようである。

まさかとは思い、おそるおそる袋を割いてみた。

「きのこ」だ。「きのこ」の密林だ。
もはや土台の地肌は全く見えず、小ぶりなキノピーがひしめいている。

その姿はグロテスクなブッシュドノエルのようだった。

まさかこんなラスボスチックな強い個体を安住の地に招き入れてしまうとは。

すでに育ったものを家族に迎え入れるつもりはなかった。(なぜか擬人表現復活)

一から育て上げ、自由な子育てでのびのびと個性を磨いて欲しかったのだが、それはもうすでにエッジ効きまくりのパンクロックな個体だった。しかも一人ではなく、集合体だ。パンクバンドだ。

狼狽する。
4歳の息子もはじめての苦虫顔だ。


パッケージをみると「きのこの芽が出ている場合は取り除いてから栽培をスタートしてください」と記載されている。

きのこの芽だと・・・。
これは完全にきのこの壁紙である。ぐるりと一周脱がすというのか・・・。

そうせざるを得ず、ポロポロと剥がしていく。
土台ときのこは一体化しており、土台も削れていくようだ。

綺麗にトリミングされた土台は毛刈り後の羊のように青白く、寒そうだった。
それと引き換えにシンクにはきのこの残骸。驚くべき量である。これを集めたら完全にもう1土台できるだろう。

果たしてここから育つのだろうか。

あれから約2週間。
今なお育てているが、謎に円柱の上部に2個巨大なしいたけが出現した。

あとは下部に小ぶりなものがぽつりぽつりと。

中央部、展開図にすると長方形の部分にはまるで育っていない。

そこはまさしく、きのこの壁紙を1層剥がした部分だ。

そこに菌はあるんか。大地真央の声が聴こえた。

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