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現代舞浜まわりかた問題

「まわりかた」なんて言うけれど、昔のディズニーはまだ良かった。ファストパス取ってればなんとかなった節がある。

本当にディズニーランドのまわりかたが試されるのはむしろ現代。2020年代であるといえよう。

というのも、SNSで散々いわれている通り、近年の舞浜には優先入場券システムが乱立しているからである。
スタンバイパス、エントリー受付、ディズニープレミアアクセス、40周年記念プライオリティパス、モバイルオーダー、そして「ファンタジースプリングマジック」という新たなチケットの登場……。
「ファストパス」と「抽選」だけで済んだ時代に比べると、ゲームバランスはかなり高度に見えるし、同時に崩壊してすら見える。

この記事では、そんな時代におけるパークの「効率のよいまわりかた」について書く。ただし、今回ばかりはいつもと違う。
そもそも今の時代において「効率のよいまわりかた」は存在するのだろうか?


Pay to Winは真実か

私が懇意にしていただいているディズニーオタクのひとりであるじはんきさんの、4年前の記事。

要約すると、「ディズニーランドにおけるファストパスの意味は大きい。平等で、無料で、いつからでも逆転できる」というもの。

この記事によれば、ファストパスの最大の意義として「インパ前にプランBを組んでいなかった場合でも即席でプランBを組める、というデカすぎるメリットが存在していた」ことが挙げられている。そして、それが「『崩れた時のプランの立て直しがしやすい』という、大型テーマパークでは唯一無二の魅力」に繋がっているというのが彼の主張の要旨である。

これはけっこうマジだったと思う。
少し到着が出遅れた際、ファストパスの取り方を工夫することで、開園時に最前列に並んでいた人に多少は追いつける……そういう人生逆転ゲームがあふれていたのだ(ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…)。

現在はどのように変わったかと言えば、パーク内で最も人気の高い、いわゆる「覇権アトラクション」のファストパスが「ディズニー・プレミア・アクセス」として有料化した。
いちおう、「40周年記念プライオリティパス」という名称でファストパスはこっそりと存続しているが、一度すべてのアトラクションでファストパスが根絶やしにされた後で、新たに生まれたのがこれらの制度だ。

コロナ以前の舞浜ゲームは「積み勝負」だった

ファストパスの原則は「なるべく早く」「なるべく多く」取ることだった。
例えば「0枚目のファストパス」を取得するテクなどがそうだ。8時開園の日、「モンスターズ・インク“ライド&ゴーシーク!”」などの覇権アトラクのファストパスを取得するとだいたい11:00〜12:00のような時間になって、次の取得可能ターンは発券から2時間後の10時になってしまう。だから敢えて「ホーンテッドマンション」や「スター・ツアーズ」なんかを取得し、8:55〜9:55なんかをキャッチすることで、次の取得可能ターンである8時55分には、覇権アトラクの閉園間際のファストパスに間に合わせる……なんてことができた。ここでいう「ホーンテッドマンション」「スター・ツアーズ」は、セオリー上の1枚目よりも前に取っているから0枚目にあたる。

じはんきさんは、ファストパスをソシャゲの「マジックカード」に例えている。
とするならば、これまでのゲームの必勝法は、マジックカードファストパスを使用してモンスターカードアトラクション召喚コストカット待ち時間短縮をかけまくり、フィールド上に強力なモンスターを並べまくることだった。
だから、中級モンスターホーンテッドマンションを序盤に無理やり組み込みつつ上級モンスター覇権アトラクションを待つ戦法がかなり強力だったのだ。

コロナ以後の舞浜ゲームは「ジグソーパズル」

一方、現在は「ディズニー・プレミア・アクセス」に1500円から2500円あたりを支払って、時間指定を行うのが常だ。
私は、「ディズニー・プレミア・アクセス」とディズニー・ファストパスとの最大の違いは、前者は時間指定できるということだと考えている。

このプレミアアクセス、一応は取得から1時間後またはその利用時間になったら次のプレミアアクセスを再購入できるらしい。しかし、私はそのルールをこの記事を書くにあたり初めて知った。
なぜなら、パーク内でこのルールを気にするタイミングがないからだ。

あるベーシックな1日を考えてみよう。
東京ディズニーシーの2024年現在の覇権アトラクション「ソアリン:ファンタスティック・フライト」の場合でさえ、平均的な美しい休日の場合、開園の30〜15分前にパークに到着していれば、簡単にプレミアアクセスが手に入る。「トイ・ストーリー・マニア!」も午前中は残っていると思うし、「センター・オブ・ジ・アース」や「タワー・オブ・テラー」は午後3時頃まで残っている。
したがって、8時半に入園したとして購入時に気にすることは、次の発券時間を手前倒しにするために9時のチケットが残っていないかを確認することではなく、自分が「ソアリン」に乗るべき理想の時間はいつかである。急がなくてもプレミアアクセスは無くならないからね。

また、別のパターンも考えてみよう。
仮にある壊れた混雑度の土曜日に、「トイ・ストーリー・マニア!」のプレミアアクセスが飛ぶように売れたとする。
その日は逆に、「ソアリン」のプレミアアクセスの入場時間をケチケチ気にしたくらいでは、どのみち「トイ・ストーリー・マニア!」のプレミアアクセスなんて取れねえじゃねえか、という1日なのだ。

そもそも、ファストパス対応アトラクションは各パークにだいたい5〜10箇所ほど存在した一方、プレミアアクセスはせいぜい5箇所に留まっている。1日を5で割るか10で割るかというのは約2倍の余裕の開きがあるわけで、そのぶん心の余裕が生まれるというものなのである。

これに伴って、元ファストパスこと「40周年記念プライオリティパス」の対応アトラクションは、いわゆる「非覇権アトラクション」であるということになっている。
東京ディズニーシーの場合、1枚目のファストパスは「トイ・ストーリー・マニア!」と相場が決まっていたが、2枚目が「センター・オブ・ジ・アース」「タワー・オブ・テラー」「インディ・ジョーンズ・アドベンチャーに分かれていた。プライオリティパスは、この2枚目から試合がスタートするようなイメージで、極端な消費スピードの変化はないように思われる。
だから、好きなアトラクションから取っていけばいい。

更に追い打ちをかけるのが「ディズニー・モバイルオーダー」の存在。これもまた指定の時間に料理を受け取りに行くもので、時間指定できるという点では「ディズニー・プレミア・アクセス」と共通点を持っている。

ここで私が言いたいのは、新たな制度の登場により、東京ディズニーリゾートというゲームが重大な「ルール変更」をしたということだ。
それは、「カードゲーム」から「パズルゲーム」への変化である。
プレミアアクセスが登場したことでアトラクション同士のパワーバランスが崩壊し、積みゲーとしての難易度は圧倒的に低下した。一部の参加者が定額の参加費を支払うことで、パーク全体の難易度を下げているのだ。その代わり、新しく「時間指定」という要素が加わった。
「ファストパスをとにかく発券する」という量のゲームから、「1日の中で、このタイミングにこのアトラクションに乗ることが理想」というバランスのゲームに変化しているのだ。

ファンタジースプリングスのPay to Win

さて、こうした前提にツイストを加えるのが、6月6日から正式オープンする「ファンタジースプリングス」。
設置された4つのアトラクションのうち、「フェアリー・ティンカーベルのビジーバギー」を除けば、どれも回転率が非常にいい。しかし、オープン当初はやはり大混雑が見込まれるだろう。

これらを体験するには、各アトラクションの「スタンバイパス」「ディズニー・プレミア・アクセス」のどちらかが必要。前者は無料で、後者は有料だ。
どちらを購入するか、どのアトラクションを購入するかの駆け引きはもちろん発生するだろう。

しかし、ここでも本質は変わらないと私は予想する。
「どの時間にファンタジースプリングスに入るのが理想的か」でこのスタンバイパスやプレミアアクセスの時間を決めてよいはずである。なぜなら、「すべてのアトラクションのスタンバイパスを取得できる」という状況はおそらく今から1年ほど実現し得ないからである。

ファンタジースプリングスを軸に物事を捉え直すのであれば、東京ディズニーシー・ファンタジースプリングスホテル宿泊者および一部のバケーションパッケージ購入者に限定して販売している「1デーパスポート:ファンタジースプリングス・マジック」は、Pay to Winの格好の例である。
このチケットを持っていれば、ファンタジースプリングスへの入場時間の制限がなく、かつ各施設を待ち時間なしでいつでも楽しめる。

おそらくこのチケットの魅力は「いつでも、どのアトラクションでも、何度でも」ファンタジースプリングスのアトラクションを楽しめる点……である以上に、時間のパズルゲームから降りられる点だと思う。
本来であれば入園直後に最優先で乗車時間を決定しなければいけないファンタジースプリングスのアトラクションについて、実際にはいつ乗ろうかと考える必要がなくなるのである。

このことは「バケーションパッケージ」も同様である。入園直後に売れ行きを見ながら時間指定をかけなければいけないプレミアアクセスやプライオリティパスに対して、「バケーションパッケージ」はパーク入園前から時間指定をかけられるという魅力がある。もちろん、それによってプレミアアクセスと時間がバッティングする……という可能性も発生するため、やはり一長一短ではあるのだが、「バケーションパッケージ」はパズルゲームにありがちな「タイム追加系アイテム」=時間調整を入園前から行える課金アイテムなのだ。

すべてのアトラクションをレストランとして捉えよう

つまり、これからの時代、すべてのアトラクションはレストランと同じ扱いになっていくのだと思う。
カップルでディズニーランドに来て、「実は今夜、ブルーバイユーレストランを予約してあるんだよ」なんつって、1日のピークを作り出すような感覚を、アトラクションに対しても適用してしまえば良い。
「朝イチでソアリンに乗りたい!」「昼間にスプラッシュ・マウンテンに行きたい!」「夜のタワー・オブ・テラーが怖い!」などなど、自分だけのアトラクションの「ベストタイミング」を決めることができるのが今後のパークなのではなかろうか。
そして、そうしたパズルゲームから降りることができるアイテムが効力を持つようになるのではないだろうか。

以前の記事では、ファストパスがアプリ上で取得できるようになった意義について書いた。

「チケット」ではなく「予約情報」でもなく、「予約情報と紐づいたチケット」を構築し、ゲストに普及させる上で、ファストパスは重要だったというのがその趣旨だ。
今思えばこれは、「パズルゲーム」時代の事前準備だったのだ。パークチケットとは今やテトリスの盤面、あるいはジェンガの山である。そこにさまざまな予定を抜き差しして消化していくことで、ディズニーパークでの1日が作られていくのだ。

アプリ上に現れた「盤面」

東京ディズニーリゾートを運営する株式会社オリエンタルランドは現在、ゲストに対して多様な選択肢を提供することを目標にこうした優先入場システムを乱立させている。
時間指定という軸が加わったいま、ゲストが主体的に目的意識を持って楽しむことが求められるといえるだろう。それがパークにとって良いことか否かは、また別のお話……。

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