- 運営しているクリエイター
記事一覧
短編小説『悪魔と人間のハーフなので、ハロウィンはドラキュラの仮装をするぞ!』
今日は10月31日。ハロウィン!
堂々といたずらできる日だ!
悪魔と人間のハーフの俺のためのイベントだ!
「ありさ、ハッピーハロウィン! トリックオアトリート!」
俺は放課後、隣のクラスに行った。
ありさは、目を丸くしている。そりゃそうだ。
俺がドラキュラの格好をしているからな!
「どうだ、牙も翼もホンモノだぞ! 迫力あるだろ!」
「史哉、うちの高校が私服OKだからってやりすぎだよ」
「いや、牙と
短編小説『いちゃらぶ初デート』
ついに、この日がきたーっ!
学校が休みの日曜日。俺は駅前にいた。
腕時計を見ると8時30分。待ち合わせの時刻より20分も早く着いてしまった。眠れなかったうえに早起きしちゃったからな。
だって、今日は待ちに待った彼女との初デートなんだよ!
三日前、放課後の教室であいつがいったひとことがきっかけだった。
「テレビでデパートのケーキバイキング特集を見たんだ。イチゴタルトもガトーショコラもすごく大きくて、
短編小説『きみがくれた恋ごころ』
初雪が降った朝、私は手をこすりながら学校へ向かった。
暖かったから積もらなかったけれど、青白い空を見上げると冬が来たんだなと感じる。この早さはさすが北海道だ。まだ11月中旬なのに。
交差点につくと、背の高い男子高校生がガードレールに寄りかかっている。
北島くん――私の彼氏だ。登校する女子高生たちが、北島くんに目を奪われている。声をあげてはしゃぐ子もいた。
「ちょっと、あんなかっこいい子、うちの学校
短編小説『可惜夜に羽ばたいて』
もうすぐ夜がはじまる。
今日集めた心で、香奈は蘇るだろうか。
僕はコートのポケットに入れた小瓶を手でいじりながら、家路を急いだ。小瓶は生温かった。
沸き立てての感情が入っているから、まだ人肌が残っているのだ。
家に着くと、ベッドに横たわる香奈の手首に医師が手を添えていた。脈拍を測っているのだろう。
「間に合いましたか?」
「はい。そろそろ目覚めると思います」
「今日は映画館をはしごしました。泣ける
短編小説『かなえびと』
「この教室、学校でいちばん綺麗ですね。先輩が毎日掃除しているからですよ」
後輩の藤野が、机を拭きながら私に話しかける。彼は廊下側から、私は窓側から机を布巾で拭いている。
「私はかなえびとなんだから、これくらいやらなくちゃ」
藤野はため息をついた。
「ちょっとくらい断っても大丈夫ですよ」
「だめ! 大変なことが起きたらどうするの」
忘れもしない。三年前の八月九日。
私のせいで……この街は……。
「も
短編小説『良き人生を』
100とスタンプされた私の右手を見ると、人はため息をつく。
そんなに生きられるなんてうらやましい。きっとそう思うのだろう。
医学の発達で、人間がそれぞれ何歳まで生きられるかわかった現代。
いまでは、生まれた赤ん坊の右手に、その子が亡くなる年齢のスタンプを医師が押す。スタンプはライフナンバーと呼ばれている。
私、大原真奈のライフナンバーは100。
そして私の大切な人だった矢野良のライフナンバーは、1
短編小説『近くて遠いきみ』
サンタにトナカイ。そしてクリスマスツリー。
イルミネーションが輝くおもちゃ屋のショーウィンドウを覗いた。二十歳なら好みは変わっているよね。子供の頃ならプラモデルで決まりだけど。
いま、私は兄の壱人に贈る誕生日プレゼントを選んでいる。兄といっても血はつながっていない。再婚した親同士の連れ子だ。
街は恋人たちばかりかと思ったら、私と同い年くらいの女の子の集団や男数人で歩く人もいる。
ちょっと安心した。
短編小説『愛は降り積もる』
「いい声ですね」と言われても、僕はうれしくありません。
そんなひねくれ者の僕が読む、朗読会。客はまばらです。
それでも僕は週末になると、朗読会に参加して自分の詩を読んでいます。
彼女の願いだからです。
どんなことがあっても、言葉を伝えていく。
彼女との約束を、僕は守っています。
彼女との出会いは、この朗読会でした。
いつも右端の席に座ってアイスティーを飲んでいたから、どなたか覚えているかもしれま
短編小説『バタートーストとハチミツ入りホットミルク』
やわらかくておおきなベッド。季節の花々が咲く庭。そして――。
美紗子さん。あなたがいるから、ここはいい部屋なんだ。
―――
「勇二くん。勇二くん……」
「ん……」
聴きなれた声で目を覚ます。二十代はとうに過ぎた、ちょっと低めの女性の声だ。
――そうだった。いまの僕は『勇二』だったんだ。
女性――美紗子さんと契約する直前に咄嗟に浮かんだ名前は、まだしっくりこない。
一階に降りて顔を洗っているあい
短編小説『恋の花はあまくとろけて』
あの日の約束は覚えているのは、俺だけなのかな。
「なおちゃん、なおちゃーん」
近所の原っぱで兄貴たちと遊んでいると、おまえはいつもケーキ屋から飛び出してきて俺のあとをついてきた。
「ついてくんなよ。それに何度言ったらわかるんだ。俺の名前は直樹だから」
「なおちゃんがいい! なおちゃんあそぼー」
俺の服を引っ張るおまえは、本当に邪魔だった。おまえがいると兄貴たちがする本気の遊びに加われなかったからだ
短編小説『眼鏡屋の初恋』
ショーウインドウには夕日に照らされた眼鏡が並ぶ。休日返上で僕が磨いたものだ。
どの眼鏡も、たったひとりのだれかと出会う日をこの店で待っている。
「いままで大変だっただろう。これをかければ見やすくなるよ」
目盛りが刻まれた検眼枠をかけた小学生の女の子の頭を撫でた。僕の大切なお客さま。検眼枠の右目にはめ込まれてたダミーレンズを外す。
「さあ、これでどうかな」
女の子は周りを眺める。椅子に座ったまま足を
短編小説『サンタクロースの初恋』
彼氏がいるのに、なんでひとりぼっちのクリスマスを迎えなくちゃいけないの?
家に帰るとだれもいない。親は仕事で、お姉ちゃんは大学のサークル仲間と飲み会。
リビングのテレビで好きなバンドのライブディスクを大音量で流したけれど、さみしいものはさみしい。制服から普段着に着替えると、絨毯に転がった。
「朋也のばか……」
ボーカルが恋人に会えないつらさを歌いあげていて、心にダメージがくる。つきあったばかりの頃
短編小説『白猫のたこ焼き屋さん』
「ココは今日もかわいいねえ。飼い主に似たのかねえ」
「あんたに似たんじゃないわよ。あたしは千春ちゃんの猫になるんだから、美を追求してんのよ」
いま俺は、スマートフォンを構えてシャッターボタンを押しながら会話をしている。
ひとりで。そう、たったひとりでだ。
「ココ。きみと出会ってもう二十日だっけ?」
「二十七日よ。しっかりして、瑛太。明日には千春ちゃんにプロポーズするんでしょ?」
「そうでした、そう
短編小説『一線の向こう』
ほんと臆病になったよ、俺は。
連れが席に立った間、俺はカウンター席で枝豆をつまみながら、背中越しに聞こえる男たちの会話に耳を傾けていた。
後ろに陣取る男たちは会社の健康診断がヤバいといいつつ飲んでいる。ああ、このグダグダした感じがたまらないんだよな。
ここの飲み屋は、個人経営だからチェーン店の居酒屋よりも客層が上だ。
三十六歳の俺がいても全く浮かない。
誘ったあの子には合わないと思うけれど、自分の