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泣き続ける。ずっとずっと

 引っ越しの話で思い出した。

 いつも引っ越しの日は朝から猫たちを近所の動物病院に預け、引っ越し先で猫たちを迎える準備を整えてから連れに行く。

 2回前の引っ越しの時もそうだった。夕方、迎えに行き、タクシーを呼んでもらった。
 タクシーのドライバーさんに行先を告げると、高速に乗るかどうか訊かれた。早い方がいいので高速でとお願いした。

 「ずいぶん遠くからいらしたのですね。ご病気ですか?」
走り出してからそう訊かれた。引っ越しだと答えると、なるほどと頷いた後にこう続けて来られた。

 「あの病院はいい病院らしいですね。遠くから来られる方も多くて、私もよくお送りするんですよ」
 中年のドライバーさんの声は穏やかだけれど、どことなく陰っていた。

 それとなく促しながら話を聞いていくと、2年前に犬を亡くしたこと。その犬は前々から病気だったこと。当時診てもらっていた病院の診断に今一つ納得し切れないものを感じながらも、専門家がそう言うのだからと奥さんと頷き合って病院を変えなかったこと。ゆっくりと話してくれた。

 「さっきの病院を知ったのは犬が亡くなった後でしてね。お客さんたちの話を聞く度に後悔するんです。ダメ元でもいいから、他の病院でも診て貰えばよかった。どうしてそうしてやらなかったんだろうって」

 「すみません」と呟きながら、ドライバーさんは赤信号の間に涙を拭いていた。「2年経っても泣いてしまうなんて、犬を亡くすまで想像もしてみませんでした」

 その時はまだニコちゃんも元気で、私は猫を亡くしたことがなかった。引っ越しの報告で姉に電話をした時、そのドライバーさんの話をして、「2年経っても泣いてしまうなんて、よっぽど愛していたんだね」そう言ったのを覚えている。

 そして、ニコちゃんが亡くなってから3年経っても、泣いてしまう。これからもずっと30年経っても泣いてしまう気がする。

 あれから4年近く経つけれど、あのドライバーさんも、今も泣いているのだろうな。ずっとずっと、これからもずっと。

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