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【感想文】風の便り/太宰治

寄せては返す「アラ、いいですねぇ」の波

本書『風の便り』は、後輩作家・木戸と先輩作家・井原による往復書簡が延々と繰り広げられており、そしてその内容はあまりにくだらなく、というか死ぬほどどうでもいい事柄が続出していてこれはもう著者・太宰治の筆が最高潮にノッている秀逸な作品である。はっきり言って、後輩の木戸は先輩の井原をナメている、ナメくさっている。その「ナメ加減」が絶妙だと私は言いたい。というのも、井原は再三に渡り木戸の態度を改めさせようと反省を促すが、木戸は謝罪や反省の雰囲気を漂わせておきながらも基本、井原を茶化す姿勢を貫いているからであり、その例を以下に挙げてみる。

<<驚嘆したのも、たしかな事実でありますが、その表現せられている御意見には、一つも啓発せられるところが無かったというのも事実でありました。いまさら何を言っていやがると思いました。>>

<<あなたを愛しています。私は苦しくなりました。そうして、つくづく、あなたを駄目な、いいひとだと思いました。>>

<<きれいなじいさんでした。>>

<<なんという達者なじいさんだろう>>

上記以外にも、木戸は井原から宿代二十円を借りたり、宿泊先の女中との恋バナをでっちあげたり、『五十円』という表題の小説を書こうと宣言してみたりと縦横無尽のナメっぷりが作中に点在しており、両者の文学論や人生観は木戸でボケさせるためのフリとすら思えてくる。

▼「現代版・風の便り」について:

とまあ本書『風の便り』に関しては前述の感想ぐらいしか思い浮かばないが、この度なんと「現代版・風の便り」ともいえる手紙が見つかった。というわけで、以下にその全文を掲載して感想文の締めくくりとする。なお、以下の手紙は、某テレビ番組男性スタッフと某有名女性タレントにおけるデート企画において、男性スタッフが女性タレントに度重なる非礼な行動を取り続けたため、ついに女性タレントを怒らせてしまったことに対する謝罪の手紙である。

▼男性スタッフから女性タレントへの謝罪の手紙:

この度は、三度に渡りこのような機会を設けて頂き大変恐縮であります。このタレントレベルならキスはOKだろうという私の安易な考えが、あなたを傷つけてしまった事を深く謝罪したいと思います。事の発端は、史子あやこが収録にやって来た際、「とんでもないおサセがやって来た!」と思ってしまった事に始まりがあるのです。そもそもおサセというのは、誰にでも身体を許す女性の事でありまして、そんな女が来たと思ったら「アラ、いいですね」が何度も押し寄せてきてしまいまして五回目の「アラ、いいですね」まで待てなくなってしまい、最初のキスを仕掛ける事になってしまいました。さらに収録中、あなたは、このタレントレベルではあり得ないような いっちょ前のフェロモンを出してきたので僕の中に「年のわりには好き者なんだ」や「なんだこの****!」という思いがよぎり、二度目三度目のキスを仕掛けるという形になってしまいました。今回、私的には、「このタレントレベルでもキスはないんだな」という事が分かった事は大きな勉強となりました。(謝罪の手紙は以上)

といったことを考えながら、次回はがんばるので今回はどうかこれでお願いします。

以上

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