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空想お散歩紀行 安心できる場所

都会の喧騒から離れるようにその店はあった。
そのカフェは何でもない雑居ビルの一フロアにある。
だが、誰でもそこに行けるわけではない。
そこには否認の術が掛けられているので、一般人は辿り着くことができない。
店に入ることはできるのは、術を認識できる、同じ能力者たちだけだ。
つまりこのカフェは、様々な能力を持った人間たち専用の店だ。
都会の中に彼らのような能力者は意外と多い。
だがそれでも、全体から見れば無視できるほどの数字だ。
彼らは普段は自分が能力者であることを隠して生きている。それを周りに知られても、いいことなど基本的にないからだ。
だが能力者だろうが、非能力者だろうが、自分というものを押し殺して生きるのはしんどい。
だからこそこのような店が必要になるのだ。
ここでは能力者たちは自分を隠すことはしなくていい。
店内では、念動力によってカップやグラスが宙を行き来し、発火能力者が指先から火を
起こしタバコに灯す。サイコメトリー能力者が店内に置かれた様々なアンティーク物を手にして、その思い出を読み取っていた。
透明化能力者が、店内を歩く客とぶつかり平謝りをしている。ぶつかられた方も相手が透明人間であることに疑問など持っていない。
ここは能力者たちが、自分を偽ることなく他人と過ごせる癒しのカフェ。もちろんコーヒーやケーキも絶品だからこそ、能力者たちも集まるのである。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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