空想お散歩紀行 新人の初挫折
こんなことになるとは。
もっと上手く行くと思っていた。実際途中までは上手く行っていた。
だけど、途中からは予想外の展開ばかりが続き、それに追われ、何も対応できないままズルズルと行ってしまった。
これが社会か。今まで自分の人生は順調だと思っていた。自分の思ったことは思い通りに行っていたし、友人や教師からも認められた存在だった。
でも所詮はそれは学生の世界だったのだ。
そこは社会の中の小さな小さな部分でしかなかったのだ。
本当にプライドが折れそうだ。「怨霊」としてのプライドが。
霊獄界で呪いを学び、一流企業に入った。
人間界で呪いを振りまき、人間たちを恐怖に沈めて、出世街道まっしぐら、なはずだった。
今回、新人として初めて任された仕事。
人間界の普通の学校に怪異を起こすというもの。
普通の呪いを使うやつだったら、誰もいない音楽室のピアノを鳴らすとか、理科室の人体模型を動かすとか、ハッキリ言ってしょうもないことをやっているだろう。
だけど、自分は違う。社会怨霊として最初の一歩目から他とは違うことを見せつけてやると意気込んでいた。
使ったのはループの術法だ。
学校を全体を結界として、対象とした人間が死ぬ度に発動し、また最初からやり直しを強制する。
これと、いくつもの呪霊を使い、何度も何度も恐怖をリピートさせる。
この呪いを掛けたのは一人の男子学生だ。
そいつを学校に閉じ込め、恐怖の時間の幕開けとなった。
最初は、困惑、動揺、そして恐怖。死んだのにまた最初に戻される。それによる新たな困惑、動揺、そして恐怖。この繰り返しが、どこまでも恐怖を無限に増幅させていく・・・はずだった。
だが、何度目からだろうか。
明らかに恐怖の度合が減っていった。
そこからはむしろ自分の方が困惑してしまっていた。
混乱する頭で何とか考えて分かったのは、自分で仕掛けたループが原因だということだ。
何度も繰り返したことで、どこでどのタイミングで呪霊が出てくるか、完全に把握されてしまっていたのだ。
これでは恐怖なんて湧くはずがない。ネタが割れた手品みたいなものだ。
最後の方は、男子学生は表情一つ変えずに霊によるトラップを躱していった。
自分の方は、結局それに対処することができずに、呪いを突破されてしまった。
せっかく任された最初の仕事を失敗に終わらせてしまった。
自分は井の中の蛙であることを思い知らされた。
その日、会社の先輩に飲みに連れて行ってもらった。先輩は特に怒るようなことはせず、全て分かっていたような口ぶりで慰めてくれた。
社会とは想像もできないほど、深淵な場所だと知った日だった。
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