かる読み『源氏物語』 【真木柱】 薄幸の少女がなぜ生まれたのか
どうも、流-ながる-です。『源氏物語』をもう一度しっかり読んでみようとチャレンジしています。今回は【真木柱】で初登場した薄幸の少女・真木柱の姫を起点として思ったことをまとめたいと思います。
読んだのは、岩波文庫 黄15-13『源氏物語』四 真木柱になります。【真木柱】だけ読んだ感想と思って頂ければと思います。専門家でもなく古文を読む力もないので、雰囲気読みですね。
玉鬘の物語、再びかわいそうな少女が生まれ終着という虚しさ
「こんなのバッドエンドじゃないか!」と机を叩きたくなる、というのがまずは膨れ上がった感想でした。
いわゆる玉鬘十帖と呼ばれている物語にあたるのが【玉鬘】〜【真木柱】なのですが、苦労人だった玉鬘が最後には結婚して、世間や父親に認知されましたというお話なのに、その最後にあろうことか玉鬘も決して無関係ではないところで、ひとつの家庭が崩壊し薄幸の少女が生まれるとは、とため息をつきたくなりました。うまくいかないものですね。
玉鬘が悪いかというとそうでもないのですが、なんというか居るだけで周囲への影響が強い人間がいるものなんですよね。
真木柱の姫と呼ばれている彼女は、玉鬘と結婚した髭黒の大将の娘になります。父親が母親と離婚し、実家に帰り、女の子であったがために生まれ育った家から強制的に出ていかなければならず、父親とも会えなくなってしまいました。玉鬘が父親に認知してもらい、源氏という養父に大切にされるようになったのとは対照的な境遇になってしまいましたね。
ここで初めて登場した人物なのにも関わらず「真木柱の姫がかわいそうだ! こんなのあんまりだ! この子が何をしたって言うんだ!」と胸が締め付けられました。
家庭が崩壊すると煽りを受けるのは子であるのは普遍
今回のお話はあまりに心苦しいというか、現代人でもよくよくわかる話でありすぎるために、ずしんとした重みのある話でした。この時代の結婚の定義は現在とは違うわけですけども、真木柱の姫視点で考えてみると、親が結婚生活を続けられなくなり離婚、そして母方の実家へ引っ越さないといけなくなったという現代でも起こりうる出来事であります。
彼女にとって生まれ育った家から離れるというものは苦痛以外の何ものでもないでしょう。当時の姫というものは外出は滅多にしませんし、実家が世界のすべてと言いますか、いくら血のつながった祖父が引き取ったのだとしても、その祖父とはあまり交流もないでしょうし、父親への悪口まで耳に入ってくるかもしれないということを想像すると、本当に心苦しいです。
すでに夫婦関係が破綻していた髭黒の大将一家
大人の世界というものは残酷で、髭黒の大将の北の方(妻)について明らかになってくると、「もうこの夫婦は終わりなんだ」と突きつけられます。
大きなきっかけは玉鬘に夫が夢中になってしまったことに違いないのですが、それより前からその兆しはあったということですね。その要因のひとつとして、北の方の病が挙げられていました。この病というのはやっかいである、ということはあるにはあるんですが、この話は後ほど考えてみます。
まずは、わかりやすく夫婦のすれ違いっぷりがありありと書かれていて、髭黒の大将の勘違いが読んでいて痛々しいほどでした。
もうこの【真木柱】の時点で北の方は夫に対して、もはや夫とは思っていない、立場としては夫だけど、もう完全に冷え切った感情で相手をしているというふうに見えました。なのに、髭黒の大将はまだ自分への気持ちがあるという盛大な勘違いをしているといったふうの態度なのです。嫉妬なんてものはもう妻の中にはないというのに、あると思っているみたいな感じですね。北の方に残っている感情は強いて言えば、"嫌悪"という感じがします。
北の方の病のそもそもの原因は夫なのかもしれない
北の方の病については正直はっきりしません。読者視点は一度衝動的に髭黒の大将に灰をかぶせる姿が見られるだけで、難しいなと。しかし彼女の病は玉鬘がきっかけではないことは確実です。数年前からそうだということですね。
髭黒の大将について憶測になりますが、玉鬘を迎えるにあたって北の方の目と鼻の先でその準備をしてしまっているので、少しその点、無神経なところがあると思えます。宮家の出で大切に育てられてきた北の方は長年連れ添ってきた中で、そうした無神経なところにストレスを抱えてきたのでは、と想像しました。あくまで想像なのですが。
玉鬘のところへ行こうとする髭黒の大将の支度を手伝っているところを読んでいても、むしろ嫌悪がすでに強く、『いいからさっさと出て行ってよ、あなたが居るほうがしんどい』と言いたげな感じがいたしました。
もう北の方は髭黒の大将によく見せるための身なりを整えることもしなくなっていた、それほどまでに心身で疲れ切っていたとも思えました。実家に戻った北の方の病がどうなったのかは現時点では不明ですけど、別れることで病が治るのではないかと思わないでもないです。
灰をかぶせた場面はどこかヒステリックです。その対象が髭黒の大将ならば原因は彼にあると思ってしまうのです。どうなんでしょうかね。
どちらにせよ、真木柱の姫ら、子どもたちにとっては何も悪いことをしていないのに、環境が大きく変化してしまうという事態に直面してしまったということなのでしょう。しかもこれ、誰が悪いというわけでもないというのもつらい話ですね。
逆に髭黒の大将と結婚した玉鬘はどうなるんだよ問題
意にそぐわない結婚をしてしまった玉鬘にも終着点が見えてきます。ついに玉鬘は六条院から出ていき、髭黒の大将の妻として世間に認められます。
玉鬘は自分の意志を持った人であることをここでも見せてくるな、となりました。髭黒の大将が夫となったわけですが、自分はそんなつもりはない、不快だということをはっきり態度で示しています。ひたすら髭黒の大将を無視し続けているわけです。髭黒の大将の無神経さというのも早々に見抜き、それに屈することなく無視し続けるという玉鬘に安心するというか、「あなたのそういうところが嫌」と意思表示できるということは、逆に考えれば髭黒の大将に対して我慢はしないということになります。
有り体に言えば、髭黒の大将は玉鬘にベタ惚れ状態です。どうにかして気を引きたいし、自分だけのものにしたいというエゴがあります。しかし玉鬘はその行動に対して冷たく応酬しているので、髭黒の大将もおそらくは言動を改めるという方向性へ向かうのではないだろうか、という希望を持つに至りました。あくまで希望なんですけど、ここではっきりと彼女が意思を示してくれることに安堵しました。
この【真木柱】でひとまずは玉鬘の物語は区切りがつきました。その後の真木柱の姫をはじめとした子どもたちについて気になるところではありますが、この物語に登場した人たちがこの分岐点となる出来事の後、できる限り良い方向に人生が進むことを心底願いました。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
参考文献
岩波文庫 黄15-13『源氏物語』(四)玉鬘ー真木柱