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顧客を無視する組織力学

 冗談抜きで涙が出そうな相談を受けた。とある日本を代表する大手企業の新規事業室(マーケティングと兼務)の担当者によると、上が顧客を無視して「自分たちがやりたいこと」に突き進み現場は苦労に苦労を重ねているという。

 背景を伺うと、社長や役員が何を思ったのか「SDGsをテーマにした新規事業を作るように」と突如として号令を出したらしい。それを受けR&Dチームが再生プラスチックを使ったプロダクトを試作設計。

 そして新規事業室が顧客開発(インタビューやテスト販売など)を進めたものの、結果は散々。「安っぽいですね」「強度が足りません」「高過ぎじゃないですか」といった声のオンパレード。

 それをレポートに纏めて報告するものの、新規事業室の室長は本気で受け取ってくれず。そして更には「残念ながら上の方針は何を言っても変わらない。それがうちだ。時間をかけて製品も作ってしまったから、頑張って売り先を見つけてきてくれ」と諦めの台詞まで。

 それを聞いて現場のモチベーションは急低下。渋々ペルソナを再設計して他の方々にプロダクトをぶつけるものの、良いフィードバックは全く得られない。エコでいいですね!高くても買います!と言ってくれる方は稀。

 R&Dチームに再設計を提案しても「自分たちはSDGsで何か作れと言われ、上に試作品を見せてokを貰ったんです。それで進めるようにと言われているので、今更それを覆してくださいなんて言えないですよ…」と冷めたお返事。

 このまま突き進むと恐らく発売中止になる、もしくは発売後に短期で製造中止に至るだろうなぁ…と悲しい気持ちになりつつも、このご相談からはアイデアをカタチにする際のプロセスの大切さを改めて感じさせてくれたので、ここにメモを書き残しておきたい。



 プロセスの大切さの一つ目は、チームに関係各位を揃えること。SDGsの新規事業を、という号令が下った時にR&Dチームだけでアイデアを練るのではなく、マーケを兼務する新規事業室のメンバーを入れ込むべきだった。「こんなのが出来上がったから売り先を探してきてー!」というボールを渡された側は相当に辛い。

プ ロセスの大切さの二つ目は、顧客の声から始めること。もちろん試作設計も重要だけれども、試作設計品に対して上からGOが降りてしまうと、出来上がったものを何とかして売ろうとしてしまう。だからこそ、声を拾う→試作設計する→と進めていかなければにっちもさっちもいかなくなる。

プ ロセスの大切さの三つ目は、上が正解との前提を捨てること。役員や社長が決定したから正しいという組織になってしまうと、プロダクトの改善が進まない。だからこそ「アイデアの正解と不正解の拠り所は顧客にある」と新規事業をキックオフする前に擦り合わせが必要。



 開発チームだけで試作設計しないこと。顧客検証後に試作設計に進むこと。正解は顧客が持っていると認識を統一すること。社内で新規事業をチャレンジしようとされている皆様の一助となりますように。

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