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プロジェクトの初期など、粗くても良いので事業の初期仮説を考える時に、何をどの程度の粒度で情報収集するか

コンサル案件にアサインされ、クライアントの事業の基礎情報をすぐにキャッチアップしたり、提案活動のためにクライアントの事業課題の仮説を短期間で立てないといけないことがある。一般的には、デスクトップリサーチや、ユーザーへのヒアリング、BtoC商品の場合は店舗来訪などもして、「ざっくり情報収集をして、自分なりにプロジェクトのテーマや仮説をスピーディーに立てる」ということをやることが多い。ここでちょっと悩むのが「プロジェクト初期にはどんな情報をどこまで把握すれば良いのか」という点である。それは「プロジェクトテーマによる」ではあるのだが、とはいっても、ある程度どんなプロジェクトでも最低限、事業について情報収集しておくと良い観点はあると思っている。

この記事では、プロジェクトの初期や営業や提案の段階で、クライアントの事業を粗くてもいいのでスピーディーに理解し、仮説を考えないといけないときに、最低限どんな情報収集をすると良いのか、筆者の考えを共有をしてみたい。


「情報収集」の厄介なところ


まず、問題意識の共有からである。個人的な経験から、情報収集には、2つ問題があると思っている。


問題① 細かく調べすぎてタイムアップになりがち

会社や事業の情報収集で最も厄介なのは「細かく調べればきりがない」という点である。丁寧にひとつひとつ調べていて、途中で気になったこともついでに深堀りをしていたら、気づいたらタイムアップになってしまいました、、、というケースが筆者は多かった。これは、細かい部分が気になるという性格によるところもあるが、調べることの全体像が整理できておらず、手さぐり状態で情報収集してしまったことが大きかったのではないかと思ってる。


問題② 細かく調べても結局バリューにつなげられない

調べるスピードが上がり、仮に細かく調べられたとする。しかしながら、特にプロジェクトの初期フェーズでは、情報の細かさや深さでクライアントに価値を出すのはわりと無謀(難易度がめちゃくちゃ高い)だと思っている。なぜならば、何年間も何十年間もその業界で仕事している方に業界知識や情報そのものでバリューを出すためには、相応の労力と工夫が必要になるためである。感覚としては、初期に集めた情報が自分なりに深かったとしても、それはクライアントにとっての「当たり前」であること多いので、バリューが出せないこともある。一方で、ある程度のざっくりした情報であっても、それをうまく編集したり、解釈したりすることで、クライアントの事業への影響を考察する方が、「客観的でフラットな意見」として、気づきを与えやすかったりする。

以上の2つの問題は、「プロジェクトの初期に何をどの程度まで調べれば良いのか(それらの情報を加工してある程度のvalueを出すことができるか)」の指針を持つことができれば、ある程度防げると思っている。なぜならば、最低限集める情報の全体像が頭にあれば、途中で脱線することもないし、細部に時間をかけすぎる可能性も低くなるからである。それによって、プロジェクトに必要な論点整理や仮説出しの「思考」に時間を割くことが大事である。

もちろん、指針があったとしても、実際に情報をどこまで広く深く集めるかは、プロジェクトのテーマや、その時にとれる時間、興味によってバラバラである。しかし、「こんな情報は見ること多いな」という大まかな内容をシェアすることで、何かしら役に立つこともあると思ったので、簡単にまとめてみたい。

何をどの粒度まで調べるのか

プロジェクトが始まり、初期仮説を考える際は、下記の紹介する観点を「ざっくりでも良いので他人に自分の言葉で説明できるようになるくらいまで」調べるというのが1つの感覚的な目安になる。はじめから「何を調べれば良いかな・・」と考えるのは、かなり非効率なので、「3C」や「4P」など、事業をある程度網羅することができ、また誰もが知っているフレームワークをベースに情報整理をすることがやはり一番早い。ただし「顧客」「自社」「競合」では、観点としては粗いので、筆者はもう一段それらをブレークダウンし、問いを整理してる。その問いに対して、他人に説明するイメージで情報収集をする。ちなみに、3Cと4Pはどんなシーンでも使える、超汎用性の高いフレームワークなので、変に自分で時間をかけてフレームをゼロから作るより、素直に3Cや4Pの観点で情報整理するのが手っとり早く有効だと感じている。この記事では3Cを中心に紹介する。


Customer(市場・顧客)


【マクロ視点(市場)】


1. 市場規模は現在どれくらいの規模で、直近どう推移しているか?そこから見える市場のフェーズは?

2. 市場を「商品カテゴリ別」「チャネル別」等で1つ具体的にセグメント分類した時に、最も構成比が大きいセグメントと、近年変化がみられるセグメントは?

3. 市場が伸びてる・縮んでいる背景にあるドライバーは例えば何があるか?(技術革新、規制など)


【ミクロ視点(顧客)】

4. ある代表的な顧客(主語が市場だと粗いため一人が良い)の商品の購買要因(商品の比較・検討軸、カテゴリ重視点)は主に何か?

5. 例えば、どんなプロセスで購買に至るのか?


Company(自社)



6. 事業ドメインと売上構成比推移は?
どんな種類の商品・サービスを展開しており、その構成比は近年どう推移しているか?各事業の社内での役割は何か?

7. 主要事業のビジネスモデルは?
※有名なビジネスモデルキャンバスの要素を、それぞれ調べてざっと整理する。特に何が他の会社よりユニークか?という視点で整理すると、特徴が把握しやすい。

・主な顧客層と具体的なニーズは?

・提供している価値やベネフィットは?

・提供する場所・チャネルは?

・支払い方法やタイミングは?

・取引継続の仕組みは?

・主要な業務活動(4Pなど)は?

・主なリソース・強みは?

・コスト構造は?

8. 今後の成長戦略・経営方針・意思は?
※何をテーマに、どの領域で成長することを目指しているのかを把握する。決算資料や中計資料に加えて、トップや事業部トップのインタビュー記事などを参考にすることが多い。例えば、「新卒採用強化」という重点テーマを掲げている場合は、ビジネスモデルがある程度仕組みとして確立されていて、これを拡大しようとしてるんだ、などと推察できる。

Competitor(競合)


競合とは「同じ市場において、自社と同じ価値を顧客に提供している他企業のこと」であるが、「どの程度までを同じと捉えるか」「どんな観点で同じと捉えるのか」が大切である。満たす顧客ニーズもサービス・商品の物理的な形態も同じ競合を「直接競合」と呼び、ニーズは同じだが満たすサービス・商品の物理形態が異なる競合を「間接競合」と呼ぶことが多い。


9.  直接競合はどこ?
上記の定義から分かるように、まずは「自社が提供している価値」が定義されないと、競合は定義できない。したがって、まずは「提供価値が何か」を理解した後に競合を整理することになる。提供価値が基本的に1つということはないと思うので、いくつかの提供価値ごとに、このあたりが競合かな、という商品をまずは少なくとも5つくらいピックアップできれば初期段階では十分だと思われる。これは時間がどのくらい許すかにもよるが、競合商品が、どんな言葉をつかって誰向けに商品を展開しているのかは整理しておくと良い。理想はビジネスモデルキャンパスの全項目を競合についても思考することだが、その時間があることは現実的にはほぼないため、少なくとも「顧客」と「提供価値」と「チャネル」の3つは抑えておくと良い。

10. 潜在競合はどこ?
満たすニーズは大きく捉えると同じだが、提供する形態が異なるような競合を考える。例えば、クライアントの事業がスマホゲーム会社であり、顧客ニーズが「少し空いた時間をつぶせること」と想定した時に、どのような潜在競合があり得るかを考えてみる。すると、スマホゲームだけでなく、ニュースアプリ、書籍、ネットフリックス、音楽アプリ、など、たくさんの「暇つぶしサービス」がピックアップされる。このように、洗い出すと、大局的な視点に立つことができ、「他のスマホゲームにどう勝つか」ではなく、「他のサービスからスマホゲームに使う時間をどう増やすか」という視点に立つことができ、違う視点から自社の課題を考えることができるようになる。


項目としては以上である。3Cの観点に沿って、上記をざっと把握できていれば、どのプロジェクトであっても、論点(考えるべきこと)や仮説の方向性を大きく外す確率は下げられる。

何を一番最初に調べるのか

上で紹介した10個の項目を調べる順番はぶっちゃけ「自由」ではあるのだが、個人的には「8. ビジネスモデル」から把握すると、情報収集の効率があげられ、考察でのバリューも出しやすいと感じている。「8.ビジネスモデル」で紹介した1つ1つの項目が「頭の中でビジュアルイメージが湧く」「自分の言葉で他の人に説明できるまで」理解するというのが1つの基準になる。

なぜ、ビジネスモデルから把握するのを推奨するかというと、他の情報の「解釈」が格段にしやすくなるからである。ここでいう「解釈」というのは、ある何かしらの情報が、その会社や事業が今後取り組むべき課題や今後のアクションにどう影響するのか、を考察したものである。

例えば、ビジネスモデルを細かく理解していなくても、市場規模やセグメント別市場規模をある程度把握することはできる。しかし、例えばある化粧品事業について、「市場規模は約2兆円で近年微増傾向。特に、ECの購入率は年平均5%増えている。」という情報を仮に把握できたとして、それ以上、解釈するのは案外難しかったりする。「あっこれくらいなんだ。下がってはいないんだな」くらいで思考が終わる感じだろう。一方で、例えば、まずビジネスモデルから理解し、下記のような情報を市場規模を知る前に把握できていると、その解釈がしやすくなる。

【顧客の情報】
・ここ数年の主な顧客層は40代以上の女性が中心のようだな。でも、CMで登用してるタレントさん見るに、近年は20-30代も取り込もうとしているし、新規顧客の獲得も考えていそうだな。

→この情報を知っていれば、上記の市場規模に関する情報を見た時に、「市場規模は微増傾向とあるけど、年代別で見ると20代の市場は減っているのでは? だとすると、近年のTVCM等のプロモーションは、ターゲットを若者に少し偏らせすぎでは?」など、今後のアクションに影響しそうな思考ができるようになる。

【チャネルの情報】
・自社では直営店舗とECでどちらでも売ってるが、ECがメイン(6-8割くらいの売上構成比かな?・・・) 最近は店舗数の拡大もしているんだな。

→この情報を知っていれば、「ECの市場が伸びているのは追い風だな」などと考え、市場の情報が「中立」なものから、「ポジティブなもの」と捉えることが、可能になる。

このように、まずはクライアントのビジネスモデルを具体的に理解し、その後、市場や競合情報も集めるという順番が良い。一方で、まずPEST分析からやって、SWOTして、、、みたいに、最上流から考えるケースもあるとは思うが、事業を考える上では、抽象度が高すぎて、あんまりうまくいかない気がしてる。

今回は以上である。あとは「どう調べるのか」もあるのだが「何を把握するか」に比べれば、ツールの話はそんなに大事ではないかもしれない。(もちろん、効率に情報にアプローチできるツールはつねに模索・導入すべき) 。少しでも参考になれば幸いである。



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