凄腕PRマンのここが凄い! 戦争広告代理店
田端大学の課題図書「戦争広告代理店」。
内容について簡単に触れると、
「情報を制する国が勝つ」とはどういうことか。この本は、1990年代に起こったボスニア紛争の時に行われた凄まじい広報戦略の裏側についてドキュメンタリー的に解説。 ボスニア紛争の勝敗を決したのは実はアメリカの凄腕PRマン(ジム・ハーフ)の情報操作によるものだったという話。国際世論を作り、誘導する情報戦の実態を圧倒的な迫力で描かれている。(センシティブな内容も多いですが、映画化されたらそれなりに興行収入伸びそうです)
そこで本を通して「凄腕PRマン、ジム・ハーフのここが凄い!」ポイントを
僕なりの視点でまとめてみました。
その前にそもそもPRとは、
「Public Relations」の略。PR企業のビジネスとは、さまざまな手段を用いて人々にうったえ、顧客を支持する世論を作り上げることです。
1:研究熱心=情報は最大の武器
ジム・ハーフはクロアチアと契約をかわした時に、現地に何度も足を運び、紛争の現状はもちろん、バルカンの文化、歴史についても研究者顔負けの知識を身につけ、プロのPR技術を駆使してクロアチア独立戦争がいかに正当なものか、セルビア人がいかに汚い連中であるかをアピールしていた。
PRマンの基本のキではありますが、細大漏らさず情報のファイリングは徹底する必要があります。
実務に落とすと、クライアントに関するニュースやソーシャルウォッチはともかく、企業の歴史やブランドが目指すべきマインドに精通し、日々アップデートされる商品理解などくまなく知り尽くすことでスタートに立つことができると思います。現場の生の声を拾い上げ自分の言葉で咀嚼することも必要です。クライアントの担当者以上に、クライアントを知ることで信頼感のアップにも繋がります。
2:嘘をついてはいけない。虚偽、倫理、モラル問題には敏感に。
皆様もご覧になったことがあるのではないでしょうか?ナイラ証言です。
詳しくは以下にて。
嘘の証言によって湾岸戦争を巻き起こし、アメリカは戦争によって多額の利益を得ました。この虚偽による情報操作によって、PR会社のイメージも「金のためには真偽を問わずなんでもする奴ら」と失墜しました。そういう印象をPR会社に持たれている以上、「無から有を生む」でっち上げ工作をジム・ハーフは一度たりともしておりません。そうした安易なやり方には大きなリスクがあることを知り尽くしているのです。
これをまた実務に落とすと、情報発信をする際の裏どりは完璧にやる必要があります。その上で、その事実をうまく生かしてどう情報発信をするかがPRマンの腕の見せどころとなります。
この写真を見てどう思いますか??
これは「有刺鉄線の奥に痩せた男性が立っているだけ」の写真ですが、
戦争時の「強制収容所」という言葉と共にニューヨークタイムズ等、全世界で報道されました。写真の事実を生かし情報コントロールをすることで1枚の写真がストーリーを帯びて世界に広がっていきます。
結果、一般大衆に対するこの写真の影響力は甚大であり、またそれは、ムスリム人に対する強制収容所を作った、と申し立てられたセルビア人に対する強い反感を引き起こしたのです。
1枚の写真が人々の想像力を帯びていわば"勝手に解釈される"ストーリーを生み出していく。情報の真意とは?鳥肌が立ちますね。
3:人脈/報道記者への気遣い
情報の送り先として各社を動かせるキーパーソンを何人把握しているかがPR企業の腕の見せ所。またそのリストは頻繁な人事異動に合わせて常に更新されていなければならない。
日本では全国規模で考えるとキー局、全国紙(新聞)が圧倒的な影響力をまだまだ持っているため、各局や新聞社のキーパーソンと繋がっておくことは非常に重要であり、情報のインプットはこまめにかつ丁寧にする必要があります。(日本であれば海外への情報発信を見据え、多言語を流暢にこなす人脈を抱えることも他社と差をつけられるポイントです。)丁寧さという点でいうと例えば、開催会場を一つとっても忙しい報道グループであれば取材の合間に寄れるよう都内近郊で場所を設定すべきだし、訪れた時に記者の方々がノンストレスで記事を書いてくれる段取りを組む必要があります。
ジム・ハーフもこう述べています。
あらゆる面で気をつかい、記者の皆さんが不自由なく仕事ができるよう取り計らうことが最も大切なことなのです。例えば、公式ステートメントの内容をプリントアウトした紙や、記者会見をする当事者の経歴、その他手元に渡せる情報は全て印刷して記者の皆さんに渡せるように段取っておく。こういったものがなければ記者会見の発言を録音したテープを聞き直さなければ正確な記事は書けない。記者も人間である以上、そうした面倒くささが取材や来場の妨げになることもある。
4:情報の拡大再生産
「ボスニアファックス通信」(※戦地ボスニアの情報が5つ程度の見出しで簡潔な記事としてまとめられている)には、サラエボから直接送られてくる情報だけでなく、アメリカの有名新聞やテレビネットワークの報道で有利なものがあると巧みに編集して掲載した。その「ファックス通信」を他のメディアに流して、さらに大きな情報の流れを作ることを狙いとした。ファックスを受け取ったメディアが興味をそそられれば、その情報をもとに戦地へ取材に動くこともあった。
「ボスニアファックス通信」は数百のメディアや国を動かす国会議員、環境団体などへアプローチを実現させるいわばローラー作戦です。
小規模なメディアから小さな情報の波を作り、最終的には影響力の強大なメディアをしっかり囲うことがジムの目的です。より影響力が見込めるジャーナリストに対しては、「単独インタビュー」を設定し特別感を演出。このようにすることでジャーナリストが上司に対して「これは公開の記者会見でなく、単独インタビューです。」とアピールでき、結果記事として採用されたり、扱いが大きくなる可能性が高くなります。
また取材協力に応じてくれたジャーナリストに対して、いつもお礼の手紙を書くといったきめ細かい気遣いも忘れません。こうした小さな努力を一つ一つ積み重ね、メディア全体を動かす大きな波を引き起こすことがジムハーフの真骨頂なのです。
少々古いしきたりと思われるかもですが、お茶の間で人気のニュース番組には特別な取材時間を設けて協力を仰ぐ、またお互いにwinwinの関係となるようなビジネスを作る(例えば昇進を匂わせる交渉術)ことはPRマンの交渉テクニックの1つとして持つべきスキルと言えるのではないでしょうか。
5:キャッチコピー
被害者側のテレビでの発言は、皮肉なことに「慣れ」→「飽き」へと転化してしまいます。そこでジムハーフが求めたのは、心の奥底へ触れるキャッチコピーでした。
私たちの仕事は一言で言えば「メッセージのマーケティング」です。マクドナルドはハンバーガーを世界にマーケティングしています。それと同じように私たちはメッセージをマーケティングしているんです。ボスニア政府との仕事では、セルビア(本作品の中でボスニアの敵対国。いわば悪役です)の大統領がいかに残虐な行為に及んでいるか、それがマーケティングすべきメッセージでした。マーケティングには効果的なキャッチコピーがつきものです。それが「民族浄化」というコピーでした。
"民族浄化"というこの一つの言葉で、人々はボスニアで何が起きていたかを理解することができます。「セルビア人がどこどこの村にやってきて、銃を突きつけ、30分以内に家を出て行けとモスレム人(ボスニアサイド)に命令し、彼らをトラックに乗せて・・・」と延々説明する代わりに、一言”ethnic cleansing(民族浄化)”と言えば全部伝わるんですよ、とジムハーフは語ります。まさにキャッチコピーの勝利です。
キャッチーコピーの影響力という視点でいうと、少し角度は異なりますが、性的被害を訴える「#Mee to」。きっかけは、女優のアリッサ・ミラノさん。被害を受けたことのある女性たちに「Me Too(私も)」と声を上げるよう、Twitterで呼びかけました。
Me too。友人が提案しました。「セクハラや性的暴行を受けてきた全ての女性たちが『私も。』と投稿すれば、人々に問題の深刻さを知ってもらえるかもしれません」
※#Me tooについて詳しく知りたい方はこちら
このように一つの強力なキャッチコピーが広がり、それを目にした人々がキャッチコピーを通して問題の本質を自分ごと化して考えるようになります。人の奥底の琴線に触れるワンメッセージは、世界を超えて人々の意識を変化させる強大なパワーを持つことが可能です。つまり「伝えたい情報を一言でいうと?」に対する考え抜かれたアンサーを用意する必要があります。
いかがでしたでしょうか。少々言葉足らずの点もありましたが、
凄腕PRマン、ジム・ハーフのここが凄い!をまとめると、
1:研究熱心=情報は最大の武器
2:嘘をついてはいけない。虚偽、倫理、モラル問題には敏感に。
3:人脈/報道記者への気遣い
4:情報の拡大再生産
5:キャッチコピー
最後にこのお面を提示して締めたいと思います。
全く同じお面でも光の当て方によってその姿は全く異なります。世に流れている報道ニュースは、裏で敏腕PRマンの働きにより情報操作されて我々の元に届いているかもしれません。全ての情報を鵜呑みにせず、疑いを持って接することで情報の真意を探求するのも面白いと思います。
PRを志す方、またはPRを本業として取り組まれている方へ少しでもお役に立てれば光栄です。反面、まだまだ勉強不足の点もあるため本noteを通して「もっとこうでしょ!」という点はコメントいただけると嬉しいです。
引き続き定期的にnoteを更新していければと思います。
ここまで読んでくださりありがとうございました!!
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