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小学四年生の四行の詩に打ちのめされた。

雨のしずくに
景色が映っている
しずくのなかに
別の世界がある

これは、大江健三郎の初めて活字になった文章であり、詩である。

小学校四年のころに書いたらしい。圧巻である。

この詩は、柿の木の葉にたまったしずくを見て思いついたそうだ。

ここには文学の最大のテーマと創作のすべてが詰まっている。

文学とは、自らの心が作り出した想念が、現実に映り込む景色を書くことだと思っている。

実際、この詩で見つけたふたつの世界の、「別の世界」を小説で半世紀にも渡って小説で書いてきたと大江は語る。

僕は大江作品は、それほど多く読んでいるわけではない。

それでも、大江文学で現れる「別の世界」に息づく異様な人物、イメージはまさに冒頭の詩で見れる世界観の延長線上であると思う。

大江健三郎の長い長い神話の世界を、文字通り一粒の水滴に凝縮したのがこの詩ではないか。

再び、引用する。

雨のしずくに
景色が映っている
しずくのなかに
別の世界がある

文学とは何か、創作することは何か、世界とは何か。のちのノーベル賞作家は幼い頃にたったの四行で現してしまった。

私は昔、小学校五年生の時に文集に「きみ」という詩を書いて、なかなか上手く書けたぞとほくそ笑んでいた。自分の書くものに自信を無くすと、今でも読み返すくらい会心の作のつもりだった。

しかし、こんな文学性の塊と言える四行を読むと、自分の詩などハナタレ小僧の言葉遊びでしかないことを突き付けられる。

多くの長編を書き続けた文壇のスターは、九~十歳の頃から途轍もなかった。片鱗どころか、すでに開花していたのだ。

もっと大江作品を読みたい。そう思わされる至高の四行だった。

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