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【僕と和也】

「おーい、大丈夫か」

僕にめがけて、色褪せた松ぼっくりが当たった。

「平気平気、このぐらい」

いつも通り、トランペットのような甲高い音を発しながら僕は静かにその場を後にした。 

「そういえばさ、俺達最近ついてなくね」

連れ人の和也は、おもむろに口を開きまだ霜がついている小石をひょいっと蹴ってみせた

僕は顔色ひとつ変えずに、こう言った

「僕は今のこのままで十分だよ、このままがいいんだ」

和也は呆気にとられ少し呼吸を乱したが、すぐさまビー玉のような透き通った瞳で僕をしっかり捉え、こう返した

「どういうことだい。こーくんがそう思うなら、別にそれで構わないけれど、なんでそう思えるんだい」

僕は一瞬戸惑ったが、すぐに和也の方向を捉えてみせた

「そうだなー、確かにあれになってみたいけど、なりたく ないんだよ」

「なんだよ、それ」

和也は間髪入れずにたたきこんできた

「あれにはあれの良さがあって、僕には僕にしかない
 よさがあって、僕にしか見えない世界があるんだよ。そ して、そこで見えたものをただ大事にしたいんだいよ」

「ますます分からねぇぞー。
 こーくん、俺にも分かるように聞かせてよー」

僕は、まだ温まっていない喉を温めるかのように深く息を吸い、少しこわばりながら続けた

「そうだなー、たとえだか、数字の『1+1=○』に
 何を当てはめるかい」

「そりゃーもちろん、2だろ。『1+1=2』は小学生でも
 分かるし、あまりみくびるなよー」

と、和也は鼻を鳴らしてみせた。
そして、僕は、またもや顔色を変えずにこう問いたのだ。

「正解。じゃ次は漢数字の一+一=二となると思うけど
 数字の1と漢数字の一を足してみて」

和也は、めいいっぱい脳に酸素を送り、なぞなぞを解くか
のごとく答えをはじき出そうとしていた。

僕は、その光景を楽しそうに眺めていた。

「かっちゃん、もうあれから20分たったけど、どうする」

和也は憎たらしそうに、僕をその透き通った瞳で再び捉え不服そうにこう言ったのだ。

「完敗、完敗。答えが出てこない―」

それを聞いてから僕は、荒ぶった呼吸を整え少し間を空けてからこう言った。

「答えなんてはじめからないよ」

そう、バッサリきったのである。

もちろん、和也はあまりの衝撃に、今度はみぞおちを打たれたように声も立てられない。

それをみた僕は、ポッケからひとかけらのチョコレートを
和也に差し出した。

そのチョコレートを生唾を飲み込むのと同じくらいのスピードで平らげてしまい、息を吹き返したかゾンビのごとく復活したのだった。

そして、何事もなかったかのように 
「それで、さっきの続きは…」

僕は、笑いが込み上げるのを奥歯でグッとかみしめ

「そうだったね。さっきの続きをまた何かに当てはめる  と、かちゃんのかあーちゃんととうちゃんの言い争いが それとにているかな」

「ほうほう、こー博士よ。
 それはどういったことことなんだい」

僕は、口車を上手くのりこなし、なお流暢に
心に閉ざしておいた思いをふんだんに語ってみた 

「前の話になぞるけれど、『1と一』は同じ意味であって も、交わないものでもあるけど、ただ唯一共通点がある とするならばはじめの0であろう。人も同じさ、かあー ちゃんとおとちゃんの言い争いもはじめは『より、よく したいという思い』からだろう。」

「そして、もうひとつ皆、おかーちゃんのお腹の中で胎児 から大き育っていくからなにも変わらないのさ。ただ、 赤ちゃんになった時、またそれからはどっちを選んだか だけの違いだけなのさ。
 だから、大事なのは答えではなくてそこにたどり着くま での道なんだよ。そして、その道のレールには自分一人 しかいないようだか、同じような道のレールの人は案外
 近くにいるもんなんだよ。そして、成長すると前のレー ルにいた者とはお別れし、新たなレールを敷いて前に
 進むんだよ。」

「ほほう。何かつかめたそうでつかめてないような感覚
 なんかすごく不思議な感覚だよー」

「それでいいんだよ。それもそこで固定させるとそれ以上 先の最高な景色を見えなくなると思うんだ。
 僕はね、その感覚を忘れたくないいから、このままがい いんだよ」

僕は瞳の奥に必ず虹色の世界が写っているのをわかっているんだ。そして、これを感じるためにうまれてきたんだと思うんだ。

僕と和也を優しい春風がそっと包み込み、
生き生きと目映いお日様に照らされるだろう🌸


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