【RANGE(レンジ) 知識の「幅」が最強の武器になる】焦らずゆっくり、いろいろ学ぼう
オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆
〜意地悪な世界を生きる〜
タイトルから想像出来る様に、本書の内容を大まかに書くと「一つのことを極めるよりも、広くいろんな事を知ることの方が、現代を生きるには有用である」といったものである。
スポーツや将棋などの世界でよく聞く話では、若くして成果を出す選手は、幼い頃からその競技に関するあらゆる英才教育を受けてきた。
そして、世の中の親たちも我が子が同じように活躍できるよう、早くから道を決めてその道を極めようとする。
スポーツやゲームのような決められたルールの中の限られた領域においては、一つの道を繰り返し練習・学習することでパターン化し、正確なフィードバックが得られ、大きな成果を出す可能性は高い。
しかし、多くの領域ではそうはいかない。
現代は「意地悪な世界」なのである。過去の経験をそのままパターンに当てはめて解決出来る問題などほぼ無いに等しい。
生きている上で未経験のことに出くわす事はよくある。そんな時に、ひとつの専門の事しか知らなければ考えられる解決策は限られてしまう。
問題解決の場面ではしばしば、いろんな分野の知識や経験を活用して突破口を開くケースがあるものだ(本書に書かれている、カール・ドゥンカー氏による問題解決の授業で出された問題が非常に興味深い)。
早期に自分の道を決めてしまい、限られた世界で生きてしまう事は、この「意地悪な世界」では生きづらい。少なく浅くとも、いろんな事を幅広く知ることが「意地悪な世界」を生き抜くためには有用なのだ。
〜遅めの専門特化〜
「いやいや、スポーツやゲームの世界に限らずとも、早くに専門を決めてそれを極めれば、その分野で大きな成果を出すことが出来るはずだ」と思う人も多いだろう。
もちろん、広くいろんな事を知ったからといって、全知全能の神になれるわけではない。いつかは僕らは何か自分の専門を見つけ、それを生涯の仕事とする必要が出てくる。
しかし、自分の専門が何かを考える時にこそ、「いろんな事をやってみる」というのが重要だ。そして、「いろんな事をやる」には時間がかかる。
本書では、労働市場における自らの「相性の良さ」とか「適性」(これらを本書では「マッチ・クオリティ」と呼んでいる)を向上させる事を推奨する。
いろんな経験や知識を時間をかけて得る事で、言い換えれば「寄り道」「まわり道」「試行錯誤」をする事で、自分のマッチ・クオリティを高めるのだ。
「いやいや、自分の適性を見つけるのに時間をかけてしまったら、その専門分野を極める時間が少なくなってしまうじゃないか!?」
と思う人いるだろう。その反応はごもっともである。
しかし、本書で書かれているオファー・マラマッド氏のマッチ・クオリティに関する論文では「マッチ・クオリティ向上による効果は、スキル取得の遅れによるマイナス分を上回る」とまとめられている。時間をかけてでも自分の適性を見極めだ方が急いで(焦って)専門化するよりも良い、という事だ。こちらの話も非常に興味深いので読んでいただきたい。
〜分野横断によるイノベーション〜
さて、「知識の幅」が個人にとって有用なのはわかったが、さらに本書では「知識の幅」が社会全体におけるイノベーションを起こすためにも有用だと書いている。
「みんなの意見は、案外正しい」に書かれていた「みんなの意見」に秘められた個人では到達できない秘められたイノベーションの力とは、まさにここにあるのではと思うのだ。
ある分野の専門家だけが集まり専門的な問題を解決するするのではどうしても行き詰まる。領域横断的な異種分野交配によるクリエイティブな力こそが「みんなの意見は、〜」に書かれていた集合知の力なのだと思う(「2030年」に書かれている「コンバージェンス(融合)」の"知識"版、とも言えるだろう)。
いろんな分野の知識を組み合わせた方が、問題解決やイノベーションに活かせる、というのは、なんとなく理解は出来るものの実際に行動するのは難しい。
人はどうしても自分の専門を中心に考えてしまうからだ。
しかし、本書を読めば分野横断の重要性がよくわかるはずだ。意識して自分の専門外の知識や意見を取り入れる人間になれると思う。
と、「RANGE(幅)」がどれだけ有用で重要か、という事を書いてきたが、何よりも本書を読む事で「焦らずゆっくりといろんな事を知ればいいんだ」と考えられるようになった。現代はとにかく成果を急いで出さなければいけない、という圧力に晒され、余裕がなくなってしまう世界である。僕自身も、今の専門業務をとにかく極めなければと視野が狭くなっていた。
そんな時にひとつのブレーキとなった本書。
心の余裕を保つ意味でも、ぜひ読んでいただきたい一冊である。
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