New Yorkの食とウェルネス(2022年、私的なレポート)
2022年9月、New Yorkに1週間いってきた。
旅のテーマは「New Yorkの食とウェルネス」。このnoteはテーマにそって僕なりにNew Yorkをふりかえる私的なレポートだ(旅のプロローグ的なnoteは以下からどうぞ)。
時間がない人のためのサマリーは、こちら。
※このレポートは、一般的な日本人の所感がおおいにふくまれたものです。筆者は食・ウェルネスのプロではないことをご承知おきください。
Made in Japanの食(というかラーメンの話)
Made in Japanの食として、ここ10年でラーメンの存在感がましたことはまちがないだろう。
たしか10年前、はじめてのNew YorkでIPPUDOに行った記憶がある。かっこいいバーカウンターと奥に広がるクールなレストランエリアを見て、これは「日本のラーメン屋さん」とはまったく別物なのだと驚いた。
予約が必要だなんて思わなかったから、「2時間待ち」と言われて、しばらく英語が理解できなかった。
それから10年。パンデミックを乗り越えて、どうやらラーメンの認知度はますます上がったようだ。ニューヨーカーは予約したり、何時間も並んだりして、おいしそうにラーメンを食べる。いや、正確に言うとラーメンに行き着く前に、枝豆やら餃子やら、数品サイドメニューを頼んでお酒をたのしみ、しめにラーメンを食べる。
New Yorkのラーメンは、日本とはスタイルがちがうのだ。
さて、今回の旅では、TONCHIN NYCと、TONCHIN BROOKLYNへ。
TONCHIN NYCは創意工夫をこらしたドリンクの数々、カクテル・ノンアルコールカクテルや、充実したサイドメニューが、ラーメンにたどりつくまでに十二分に楽しませてくれる。空間もスタイリッシュだけど元気で明るい印象のカウンターエリアと、奥に広がる落ち着いた大人っぽいテーブルエリアのコントラストが印象的で素敵だった。
でも、それ以上に驚いたのはTONCHIN BROOKLYNかもしれない。
外観も中に広がる空間も、なにも知らなければクールなレストランにしか見えない。ちょうどよく暗くて、ムーディで、照明やカウンターの素材感があたたかく、最高に居心地のいい洞窟のような場所だった。
「Japanese food & Natural Wine」をおしだしたメニュー、そして店内にはソムリエがいる(The ソムリエという感じではなく、カジュアルで親しみやすいスタッフ。だから、気軽にワインの相談ができる)。
もちろんラーメンはあるけど、「ぜったいラーメン食べてね」というプレゼンテーションはない。いい空間と、いい感じのスタッフ、いいワイン、創意工夫の賜物のような一品一品を楽しみつつ、食事の最後によかったらラーメン食べてね、といった感じだ。
それが、空間のもつあたたかみとあいまってちょうどいい。
そして、けっきょく、ラーメンは食べる。SO GOOD。TONCHIN NYCとの良いコントラストがきいて、表現力や世界観が2倍以上に広がった感覚。ブルックリンに行った際は、ぜひおとずれてみてください。
食のシーンにおいて日本のプレゼンスは高かった。
もちろんラーメンだけじゃない。いくつかのレストランで日本食ライクなメニューに出会った。
印象的だったのは友人にすすめられた「Llama San」。Instagramには「Nikkei Restaurant」と書いてあるけど、聞いたところによると、ペルー料理と日本食のフュージョン(融合)らしい。日本食へのリスペクトを感じつつ、日本では見られない独創的なメニューがいくつも並んでいた。
単純におもしろいのと、意外な組み合わせに「おいしい!」とおどろく。最初から最後まで楽しい時間をすごせた。
メキシコ料理の「Cosme」もよかった。濃厚でセクシーな暗がりというか、ややずっしりした重力をかんじるダークな空間にあたたかい灯りがゆらめく。壁の重厚な棚にはアートや本がひかえめに置かれていて、どこに視線を向けてもおおいに楽しめる。
雰囲気がよすぎてお酒いじょうに空間に酔いそうだった(写真だと明るく見えるけど、実際もっともっと暗い)。
ここで僕は「KAMPACHI(カンパチ) PASTRAMI SOPE」と「TATAKI(タタキ) AL PASTOR」に出会う。自分が知っている“メキシコ料理”ではないことは最初の数品でわかったけど、メニューに日本語がでてくるとやはりすこし驚く。
もちろん日本食ではないし、なんなら「KAMPACHI PASTRAMI SOPE」は「A marriage of NY and Mexican culture.(NYとメキシカンカルチャーのマリアージュ)」らしいのだけど、エッセンスとして日本を感じる気がするし、それは日本人として誇らしい体験だった。
これはあくまで僕個人の感覚だけど、食における日本へのリスペクトを感じるシーンは多かった。それは他のレストランでもそうだし、ニューヨーカーとの会話の中でも、だ。僕が行った場所は、日本人にすすめられた場所だし、サンプル数がすくないのは百も承知だけど、こと食のシーンにおいてまだまだ日本のプレゼンスは高かった!といってこの章を終えたい。
※日本の食をグローバルな視点で見る上で、カフェ・カンパニー創業者 楠本さんの著書『おいしい経済』もおすすめです。
Good Bars in New York.
さて、バーにまったくふれないのはおかしい。
New Yorkといえばかっこいいバー、かっこいいバーといえばNew York。ここではすこしだけ、シンプルによかったバーの紹介もします。
最初に思い出すのは、「Dante NYC」。このバーはとくに好きになった。2019年の世界一のバーらしく、外のテーブル席のつくりや可愛らしいグリーンの配置、サインや看板、店内の照明などなど、いたるところで「いいね、ダンテ!」と心の中でつぶやいてしまう。
おなかを空かせて食べたパスタも、期待以上にファンシーだったジントニックも、Danteをとりまくすべての雰囲気が素敵だった。
あとは「MACE」もよかった。めずらしいスパイスをつかったカクテルがたくさんあって、メニューを見ているだけで楽しい時間をすごせた。
店内おくに進むと、NYのレストラン&バーの平均ルクスをおそらく下回る暗いバーエリアがある。カウンターの席に座ると、イルミネーションのようにきらきらとボトルが浮かびあがって、とてもわくわくした。
そして忘れてはならないのが、「KATANA KITTEN」。北米のトップバーテンダーに選ばれた漆戸 正浩 氏が共同経営者/ ヘッドバーテンダーをつとめる同店は、とにかく大人気だった。1時間半くらい待って、1階のバーカウンターまわりではなく、地下に案内された。店内は、とにかく赤い印象。
バーエリアを体験していないから多くは語らないけど、いたるところに日本のポスターが貼ってあったり、トイレの壁に日本漫画のワンシーンが並んでいたりと、日本の居酒屋がコラージュされたような真っ赤な空間は、とにかく鮮烈で印象に残っている(次回はバーエリアでカクテルをじっくり楽しみます)。
Hello, Cha Cha Matcha.
日本でウェルネスブランド(Auna)を展開する僕にとって、旅の目的のひとつはNew Yorkのウェルネスシーンにあった。
※ちなみにAunaは在庫がすべてなくなり、姉妹ブランドたちあげ中なのでお休みしています。see you soon!!
日本だと抹茶はより日常にちかいためか、ウェルネスと結びつかない人もいるかもしれない。でも、アメリカでは健康商材として抹茶が注目を集めて久しい(詳しくは岩本 涼さんのNewYork Matcha Reportを)。
Cha Cha Matchaは抹茶ブームの波にのって一躍ちょー人気店となった抹茶カフェ。京都は宇治の抹茶をつかい、シンプルな抹茶ラテから抹茶レモネードのようなユニークなメニューにいたるまで、Pink&Greenのファンシーなクリエイティブと、アメリカ人らしい合理的な発想にもとづくオペレーションで見事に抹茶カフェ in アメリカを体現している(電動の茶筅とか使っちゃう感じ合理的)。
そんなCha Cha Matchaでニューヨーカーたちは、ごくごく抹茶をのんでいた。おいしいと思っているのか、それとも苦いけど健康にいい、みたいな感覚なのか。正直、すこしおどろいた。
そして、ぼくは「Aunaのため」という名目でかわいいBOXに入った抹茶と、まピンクのパーカーをまんまと買ってしまった。つまりぼくは京都からNew Yorkに旅だった抹茶を東京に持ち帰ってきたのだ(旅先のテンションはおそろしい)。
さて、抹茶がはいったBOXには以下の通り書いてある。
これを見ると、Cha Cha Matchaがどのように抹茶をとらえ、ニューヨーカーにどう伝えたいのかがわかってくる。茶が本来もつであろう静的で「less is more」な魅力に対して、Pink&Greenのクリエイティブもあいまって動的でエネルギッシュ、そしてKawaii、ウェルネスをおしだした印象を受ける。
このような、とってもNew York的な抹茶カフェ(Cha Cha Matcha)もよかったけど、対照的でいいと感じたのはブルックリンの「Kettl」だ。
たまたま見つけて入ったのだけど、僕はオーナー=日本人だとかんちがいした。それほど、日本的な美のセンスや産地の情報にはじまる知識面のフォローアップ、カウンターエリアでおこなわれるリッチな「茶の体験」などなど、とても日本の「茶」を感じた。
Cha Cha Matchaがある意味で茶をreinvention(再発明)したのとは対照的に、より日本のケ的な茶の魅力をそのまま伝えようとする姿勢に感動すら覚えた。
素人がうるさくすみません。でもぼくはぼくなりに感動したのだ。
どちらがいい、みたいな話をしたいのではない。まちがいなくCha Cha Matchaが抹茶人口の裾野を広げているし、Kettlが日本的な「茶」を伝えている。双方があることで、世界が広がっているのだ、きっと。
※余談だし抹茶じゃないけど、ブルックリンの紅茶屋さんBELLOCQもよかった。プライベート感ただよう空間と、親切なコミュニケーション。体験が中心にある店舗の素晴らしさを改めてつよく感じた。
New Yorkの“ウェルネス”
さて、もうすこしウェルネスよりの話を。
New Yorkにいて感じたのは、ニューヨーカーの健康意識の高さ。たとえば土曜の朝、高層ビルのあいだを走りぬける人々や、ハイラインのちかくで20個ほどならんだ電動バイクをこぎまくる人々。働きまくって、遊びまくって、のんびり生きていない感じ。マンハッタンの中心部では、そういったエネルギーを感じた。※もちろん人によるし、あくまで個人の感想です!
リサーチのために回った店でも、とにかくウェルネス関連のプロダクト数がおおい。ドラッグストアでもサプリメントの数が豊富だし、セレクトショップでも興味深いプロダクトが感覚的に日本の2倍はある。
個人的に興味深かったのは、マッシュルーム(きのこ)。とあるセレクトショップには、聞いたことがない名前のマッシュルームパウダーがずらっと並んでいた。ちなみに他のトピックでいうと、とにかくCBD関連のプロダクトが山ほどあったり、「REIKI(霊気)」といった言葉をよく聞いたりと、日本ではできない体験をいろいろとすることができた。
「REIKI(霊気)」はtweetしたとおり、もとは日本語だけど海外で独自発展を遂げているみたいだ。帰国してからNetflixの「Youー君がすべてー」を観ていると、シーズン2のL.A編で「REIKI」がでてきた(関係ないけど、「You」おもしろいからぜひ観てほしい)。
THE WELL(レストラン・ドリンクスタンド・ショップ・ヨガスタジオ・瞑想スペース・サウナ/水風呂etc. )
ウェルネスをテーマにかかげる施設で印象的だったのは、THE WELLだ。
1つのビルに、レストラン・ドリンクスタンド・ショップ・ヨガスタジオ・瞑想スペース・サウナ/水風呂etc. があって、ここにくればワンストップでウェルネスを体験できる。
とにかく全空間おしゃれだったけど、印象的だったのは瞑想スペース。余計なものは置かずに必要なものをシンプルに配置した空間で、ふかふかの絨毯と座布団、壁の質感や雰囲気によって色や光の加減を変えられる天井のシーリングライトがいい感じだった。
日本にも瞑想スタジオがあるけど、THE WELLは瞑想にかぎらず、さまざまな方向から深掘りできる場所。ここにくれば、「朝からヨガで汗を流して、サウナ・水風呂にはいったあと瞑想。1Fの“サステナブル”なレストランでブランチする」みたいな休日を過ごせる。まあ、そんないそがしい休日はどうかと思うけど、とてもNew Yorkなウェルネス体験なのかもしれない。
日本発のブランドをもっと世界に届けないと
さて、つたないながらNew Yorkの食とウェルネスをふりかえった。
物価高にくわえて円安ないま、New Yorkで支払うすべての料金はかつての倍くらい高く感じたし、New Yorkからみる日本は「安くて、おいしい国」だと再認識した。
New Yorkから日本をふりかえって、つよい危機感をつのらせたのは言うまでもない。悲観的に聞こえるかもしれないけど、日本という国が安くなっているとつよく実感した。
ただ今回の旅で、「食とウェルネス」にはまだ大きな可能性があると感じたのも事実。日本がもつ食の可能性、そしてアジア最東端の国として東洋医学がもつパワーを正しく伝えることには未開拓の余地がある。あらためて、そう思った。
プロサーファーの五十嵐カノアさんは、こんなことを言う。
ぼくらはもっと世界を知り、ふりかえって日本を知り、そして世界を驚かせなくちゃならない。目の前の話で言うと、ぼくはAunaと姉妹ブランドをがんばらないと、と思うし、日本全体で言うと日本発のブランドをもっと世界に届けないと、とつよく思う。
「たかが1週間New Yorkに行ってきたやつが何を言う」。たしかに、それもそうかもしれない。でも、ぼくは自分がそう思われても、この声が届く人が必ずいると信じている。日本がもつもので、世界が驚くものはまだまだたくさんあるはずだ。それを届けないと。日本の存在感がなくなる前に。
ラーメンからはじまり、五十嵐カノアで終わる。これがぼくの私的なNew Yorkレポートだ。ここまで読んでくれてありがとうございます。
ありがとうございます!好きな本を買うか、旅に出ます。