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第10回 「初期研修」を効果的かつ持続させるための施策とは

1 「やりっぱなしの研修」はお金と時間のムダ

 前回は、社長の思いを社内で共有浸透していくための第1 ステップ「企業理念がなぜ必要かを知ってもらい、当社の企業理念の内容を理解してもらう」ための仕組み=「初期研修」の意義や事例についてご紹介しました。

 さて、今回も最初に質問させてください。
・質問1 :みなさんがこれまでに「よい内容で刺激になったな」と感じた研修の効果はどれくらい続きましたか?
・質問2 :それらの研修後、みなさんの行動は具体的に変わりましたか?

 「質問1 」についてはどうでしょう。「よい研修」から学んだ教えのいくつかがずっと心に残っているということはあるでしょう。素晴らしい研修だったのだと想像します。

 しかし、いくら「よい研修」を受けても、その高揚感は長続きしないものです。よくて1 カ月、いえ1 週間。ともすると週末の研修から月曜日を迎えた時点で、現実の仕事を前に冷めているかもしれません。

 研修の時はあんなに感動したはずなのに、一生懸命にメモを取ったはずなのに、「結局何を学んだのだっけ?」。学んだことは、研修終了直後から次第に記憶から薄れていくものです。

 「質問2 」についてはどうでしょう。研修プログラムの最後で「自分のアクションプラン」を宣言することがままあります。一人ひとりが「今日、研修で学んだことを生かして、月曜日から○○するようにします!」と高らかに宣言して終了。

 ところが月曜日を迎えて現実の仕事に直面すると照れくさくてすぐに行動に移せない、あるいは「今日は忙しいから行動するのは明日以降にしよう」となってしまう。いつになったら行動が変わるのでしょうか。

 私は、研修後の初日には行動に移さずに、その後に行動に移したという人の話をほとんど聞いたことがありません。また、たとえ初日に行動を変えられても、その後も継続して変え続けられたという事例を多くは知りません。

 会社に研修制度があることは多くの従業員にとって魅力でしょうし、お金と時間をかけてくれたことに感謝の気持ちは残るでしょう。けれども「やりっぱなしの研修」にそれ以上の効果はありません。

 研修後も従業員の行動がこれまでと何も変わらないのであれば、経営的に見れば、お金と時間のムダといえないでしょうか。


2 「研修の効果は長続きしない」という前提で考える

 研修に大きな効果が期待できないのであれば、最初から研修自体をお勧めはしません。でも私は「研修はやり方によっては大きな効果がある」と信じています。

 研修の効果を高めるためには、2 つの要素が必要と考えます。
1.研修の中身自体をよくすること
2.研修そのものの特徴を知り、他の施策と上手に組み合わせること

 1.については前回触れました。研修一般についていえる中身をよくするノウハウとしては「目的と目標」を適正かつ分かりやすく設定すること。

 実施形態を工夫し、5 、6 人のグループをつくって自主的に議論しながら、一人ひとりが気づける場を用意すること。プロローグとエピローグの工夫。実施しながら参加者の目標到達度をアンケートその他で確認し、チューニングして改善していくことなど。

 社長の思い、企業理念を社内で共有浸透させていくための「初期研修」のプログラム例も前回ご紹介しました。研修にかけられる時間(半日なのか、1 日~1 日半なのか)によりますが、ポイントをひとことで言えば「理念の中身を自部署や個人レベルのこととして理解し、日々の行動でイメージできるようにする」ことです。

 こうして研修の中身自体はよくなったとして、問題は研修をより効果的にするために2.の「他の施策と上手に組み合わせること」です。

 そのために重要な前提が「研修そのものの特徴を知る」ことです。
・研修の特徴1 :研修の効果は長続きしない
・研修の特徴2 :直後に行動を変えられなければ結局は行動は変わらない
・研修の特徴3 :一度行動しても継続の仕組みがなければ続かない

 みなさんにも思い当たる節がないでしょうか。これらの特徴を踏まえて施策を打たないことで、毎年どれだけの研修が浪費されていることでしょう。経営的に見てお金と時間のムダであるばかりか、本人にとってももったいない話です。効果の薄い研修を受けている時間があれば、プライベートを充実させた方が仕事の効率は上がるかもしれません。

 研修をやるからには、その特徴を知り、他の施策と上手に組み合わせることで効果を最大化しないと実にもったいないのです。


3 継続のための3 つの仕組み

 最初のきっかけである「初期研修」の効果を高め、持続させていくために、どのような施策を用意し組み合わせていけばいいでしょうか。

 私はこの施策を「継続のための3 つの仕組み」として整理し、頭文字を並べて「I D e A(イデア:理念)」と呼んでいます。
1.理解する(I d e n t i f y )仕組み:理念に関する研修「初期研修」「継続研修」
2.実践する(D o )仕組み:「日常トライ&エラー」「事例ノウハウ共有」
3 . 褒める(A d m i r e )仕組み:「表彰制度」「人事評価への反映」「褒める文化」

 3 つの仕組みの詳細は次回以降で順次ご紹介していきますので、ここでは簡単に説明し
ます。


1)理解する(I d e n t i f y)仕組み

 まずはその会社で働く一人ひとりが、理念経営の意義と自社理念について「理解する」ことなくして何も始まりません。「企業理念がなぜ必要かを知ってもらい、当社の企業理念の内容を理解してもらう」ための第1 ステップとして「初期研修」があります。

 「初期研修」の効果を高め、持続させていくには、この後お話しする「2 )実践する(D o )仕組み」と「3 )褒める(A d m i r e )仕組み」が大切なのですが、初期で一度理解できたからといって「理解する」仕組みが必要なくなるわけではありません。

 運転免許証を例に挙げましょう。時間の経過とともにだれしもが免許取得時に学んだことをある程度忘れてしまいます。また日々運転していると、慣れもあって安全や注意するべきことへの意識も弱くなっているものです。

 道路交通法などのルールも年々少しずつ変化していきます。そこで運転知識や安全意識の再確認、ルール変更の確認などが一定期間ごとに必要となります。

 社長の思いや理念についても同じです。「社長の思いを明確にした企業理念がなぜ必要か」「理念経営を行う意義は何か、それは従業員にとってはどんな意味やメリットがあるか」「当社の企業理念の内容、それぞれの言葉や文章が持つ意味は何だったのか」。

 これらについて記憶が薄れていく部分を改めて共有し直す。また根本的な理念は変わらないものの、時代とともに見直し修正を加える部分があれば全体で共有する。そのために「初期研修」とは別に、定期的な「継続研修」の実施が必要なのです。

 「継続研修」の大きな目標は理解について維持および更新することですが、「さらに理解を高める」という目標も設定したいところです。

 企業理念の内容は本来「してはいけない」ではなく、「もっとこうしよう」という内容のものです。すなわち“上には上がある”わけで、掲げる理想に限界はありません。もっと上を目指していくからこそ、会社は目指す理想により近づき、成長していくことができます。

 「継続研修」プログラムの後半は、もっと上を目指すために一人ひとりに何ができるかを考える場となることを期待しています。

 なお、「継続研修」の実施タイミングとしてお薦めしているのは毎年1 回程度ですが、人間は本来、時間とともに忘れてしまうもの。予算や時間がなければ2 年に1 回でもいいので継続的に実施するべきだと考えています。


2 )実践する(D o )仕組み

 「初期研修」を受けて現場に戻ったメンバーの中には、今日からより理念に沿った行動に変えようと意気込んでいる人もいるはずです。上司や仲間は彼(彼女)をどのように迎えているでしょうか。

 週末にお金と時間をかけて研修に参加してきたわけですから、最低限「研修はどうだった?」くらいの声はかけてあげてほしいところです。メンバーは言うでしょう。「いやあ、よかったですよ。大いに刺激になりました」と。

 肝心なのはこの後です。「そうか、それはよかったね」だけで終わっていないでしょうか。 残念ながら、これでは「初期研修」の効果は長続きしませんし、恐らく研修を受けてきたメンバーの行動も変わりません。一度行動を変えたとしても継続はしないはずです。

 上司と部署に「企業理念の実践は現場にある」という強い意識が欠けているのです。強い意識があれば、声のかけ方が違うはずです。「そうか、それはよかったな」ではなく、「そうか、それで今日からどのように行動を変えようと決めたんだい?」と。

 メンバーは研修の最後に宣言した「今日から変える行動」について報告し、部署のみんなに明言しなければなりません。「今日から変える行動」について、上司も同僚も冷やかしたりしてはいけません。まずは本人の気づきを尊重してやらせてみる。それでこそ「初期研修」の効果は生まれます。

 例えば、このように声をかけてあげてください。「なるほど、いいね! みんなで応援するよ。ぜひやり続けて、理念の実現に向けてもっと上を目指してください」と。

 彼(彼女)が今日から行動を変え、周りもそれを前向きに捉えて刺激を受ければ相乗効果が生まれます。「企業理念の実践は現場にある」は、こうして少しずつ形になっていくのです。

 例えば、「お客様に最大の満足を感じていただく」という理念を掲げている会社であれば、お客様の満足を最大化しようと考えて取った一人の行動の小さな変化が、積み重なって大きな変化となり、理想に近づいていくのです。


3)褒める(A d m i r e)仕組み

 理念の実現に向かう一人ひとりの行動を継続させる原動力には何があるでしょうか。

 顧客接点のある部署であれば、「おたくの商品いいね」「いい買い物ができた。ありがとう」といったお客様の声はこの上ない原動力となることでしょう。販売や接客業の人にインタビューすると、「お客様のありがとうの声さえあれば毎日元気に働けます」という人が少なくありません。

 いつもうまくはいかない、お叱りやクレームをいただくこともある。だからこそお客様が自分の仕事を「認めてくださる」「喜んでくださる」「感謝してくださる」ことに無上の喜びを感じるのかもしれませんが……。

 しかしながら、お客様が心の中で喜んでくださっていてもいつも感謝の言葉を期待できるわけではありません。まして顧客接点のない部署ではそもそも期待できません。

 自分の努力に対して相手からの前向きな反応がずっと得られないと、人は同じことを継続できなくなります。いわんやもっと上を目指そうとは思えません。

 日常的に一人の仕事を認めてあげられるのはそばにいる仲間です。上司や同僚が、努力やいい仕事に対して「褒める」ことができれば、それだけで本人の努力は報われ、継続したり、もっと上をも目指すこともできるのです。

 ところが日本人はこれまで、部下や仲間といった身近な人を褒めることが下手でした。「褒める」文化をもっている会社がいかに少ないことか。

 それだけに「褒める文化」がなかった社内にこれを定着させることは簡単ではありません。「褒める文化」を比較的早く構築するためのノウハウは改めてお話ししますが、なかなか定着しない「褒める文化」を補える仕組みがあります。「表彰制度」と「人事評価への反映」です。

 人事評価制度は会社からの正式な「褒める」仕組みですが、一度導入すると変更したり修正することは容易ではありません。しかも構築期間および試行を経て、この制度を本格導入するには1 年から2 年を要します。

 会社からの正式な「褒める」仕組みはうれしいのですが、個人の理念実現へのモチベーションはそんなに長い時間持ちません。そこで「表彰制度」をうまく組み合わせるのです。「表彰制度」は「人事評価への反映」に比べれば、早く手が打てますし、導入後の変更や修正も比較的自由です。

 「初期研修」の効果を高め、持続させていくために「継続のための3 つの仕組み」をうまく組み合わせられれば、理念経営においては理想に向かって一人ひとりの行動が変わり、継続するだけでなく、理想に向かって“もっと上へ”と高まっていくことでしょう。

 社長の目指す思い、理念の方向に向かっていれば、結果として目指す業績にもつながっていくはずです。

 今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。理念の「初期研修」はやりっぱなしでは意味がない、研修の持つ特徴を理解した上で、他の施策をいかに組み合わせて研修の効果を高めて持続させていくかの概要をお話ししました。

 次回からは個々の施策についてもっと掘り下げていきたいと思います。


※不定期ですがあまり間を空けずに更新していく予定です。よろしければフォローをお願いします。

(著作:ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田 斉紀)
※上記は、某金融機関の法人会員向けに執筆した内容をリライトしたものです。本文中に特別なことわりがない限り、2021年1月時点のものであり、将来変更される可能性があります。※転載される場合は著者名とコラムタイトルを必ず明記ください。

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