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■第8回 経営理念はあるけれど浸透も継続もできていません (2)

1 あなたには長年「継続」できていることがありますか?

 さて、今回は前回の続きです。まず第7回をおさらいしておきましょう。「経営理念はあるけれど浸透も継続もできていません」という現状をよく耳にします。

 ホームページに経営理念、社是、社訓などを掲載しているものの、他社もやっているからと形ばかりまねしただけで実態がない。従業員がよく知らないばかりか、社長さえもそらんじることができず、“絵に描いた餅”になっていると。

 しかし最近は理念経営が注目され、ホームページに掲げた理念を社長以下、従業員全員で日々追求している会社も増えています。すると先に紹介した“絵に描いた餅”派は、顧客や社会からすればお題目を掲げているだけの信用できない会社となってしまうのです。

 目指す理念が本物で、本当に浸透させたいのであれば、1.全従業員を集めた社員総会などで社長自ら理念実現への本気を宣言し、詳しく説明する。「なぜ理念が必要で、その内容はどういう意味か」。

 2.間を空けずに、従業員全員を対象とした初期研修を実施し、「経営理念や行動規準の各項目を、一人ひとりが自分の部署、自分の担当する仕事で語れるようになる」。

 3.従業員一人ひとりが理念の実現に向けた「明日の行動宣言」をし、4.ミーティングで、一人ひとりの行動した結果や感想を交換。5.それを次の行動宣言へとつなげ、試行錯誤を重ねていく。これらが今回ご紹介する「継続」のためにもとても重要と申し上げました。

 読者のみなさんが日常生活で「継続」できていることを思い出してみてください。私は講演の際に会場のみなさんにも質問するのですが、趣味のゴルフだったり、いずれは海外に関わる仕事をしたいので英語の勉強だったり。

 どうやら個人が「継続」できていることは大きく2つに分類されるようです。

 1つは趣味などの“楽しいこと”。もう1つはいつかこうなりたいなどの“明確な目標があること”。しかし私が質問して返って来た答えで最も多かったのは、残念ながら“「継続」できていることは1つもない”でした。


 それだけ人にとって「継続」することはかなり難しいことなのでしょう。

 ちなみに私自身も、小さい頃から「継続」することは苦手でした。学校でこれだけはやりなさいと言われた生活日記帳も続いたためしがありません。

 けれど現在、ランニングなどの運動や向学で「継続」できていることがいくつかあります。「継続」するのがつらい日がないとは言いませんが、おのおの何年も続いている割にはそれほど努力しているわけでもありません。

 半ば習慣、生活の一部になっています。習慣化してしまうというのは、「継続」のコツのようです。

 しかし仕事となるとどうでしょう。また個人ではなく組織で「継続」することはさらに困難に思えます。

 はた目には楽しい趣味でも個人的な目標でもない仕事上の活動です。面倒だからと誰もやらなくなったり、繰り返すことに飽きたり、工夫の種が尽きて尻すぼみになるのが当然と考えます。

 私もコンサルティングのかたわら、多くの企業で社内提案活動の実態を見てきましたが、そのほとんどが飽きられたり、モチベーションが維持できなくなって頓挫していました。

 片や、みなさんも一度は耳にしたことのあるトヨタ自動車のカイゼン活動が、何十年と続いているのはなぜなのでしょう。同社に採用される人材は特別にモチベーションが高く、続けることに適性のある人たちなのでしょうか。


2 会社組織における「継続」成功の秘訣とは?

●個人にとっての「継続」成功の秘訣は、

 1.楽しいことを選ぶ。
 2.ある程度明確な目標を持つ(いつか~、何年後には~)。
 3.最初から無理をしない(小さいことから始める)。
 4.小さな達成、大きな達成ごとにご褒美を用意する。
 5.徐々に目標を上げていく  といったところでしょう。

 1.と2.はうまく組み合わせたいところです。1.が本当に楽しいことなら放っておいても「継続」するかもしれませんが、そうでなければ2.を強く持ち、3.~5.のアプローチを取り入れます。

 英語の勉強自体が好きではないけれどいずれ海外に出たいという場合、日々の勉強は必ずしも楽しいとはいえません。そこで2.を強くイメージしつつ、中間目標として「1年後に海外旅行した際に不自由なく話せるようになる」といったことを設定するのです。

 人間は知能が発達したがために飽きっぽい動物です。同じことだけを続けていると、次第につまらなくなってやめてしまう。

 そこに2.のような上向きな力と3.~5.のような工夫が機能すれば、結果として「継続」していけるのです。

 これらは個人が「継続」を成功させるための秘訣ですが、本来楽しいこととイメージしにくい会社組織における仕事で「継続」を考える上でも参考になります。

 私はトヨタのカイゼン活動をはじめ、「継続」が企業文化にまでなっているいくつかの会社の事例も研究する中で、会社組織として長く「継続」するためにはしっかりとした方針や仕組みが必要なのだと分かりました。

 それらをまとめたものが「継続のための3つのマスト」とその中の1つである「継続のための3つの仕組み=IDeA(イデア)」です。

 すでに私のコラムなどでご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、改めてご説明させていただきます。


3 「継続のための3つの仕組み=IDeA(イデア)」

 個人の「継続」成功で見てきた1.~5.の秘訣を会社における仕事で実行していくとなると、組織ならではの仕組みが必要になります。

 まずは、「継続のための3つのマスト」の3番目に当たる、「継続のための3つの仕組み」から振り返りましょう。

■継続のための3つの仕組み=IDeA(イデア)

1)理解する(Identify)仕組み:理念に関する研修「初期研修」「継続研修」
2)実践する(Do)仕組み:「日常トライ&エラー」「事例ノウハウ共有」
3)褒める(Admire)仕組み:「表彰制度」「人事評価への反映」「褒める文化」


1)理解する(Identify)仕組み
 従業員に何かの活動を「継続」してもらいたいのであれば、まず「なぜ継続が必要なのか」そして「継続の先にはどんな世界が待っているのか」を理解し、イメージしてもらうことです。

 後者は会社として目指す目的実現により近づいている世界であり、それは一朝一夕で実現するものではないから、日々努力を重ねて高めていくという「継続」が必須なのだと。

 そもそもの最初に「なぜ理念が必要で、その内容はどういう意味か」を理解してもらうのはいうまでもありません。前回、初期研修の形で実施する方法をお話ししました。

 一度理解してもらったとしても、従業員によって理解度はさまざまでしょうし、時間もたてば忘れてしまいます。できれば年に一度くらいは研修やミーティングなどを通して継続的な「理解する仕組み」を用意することも重要です。

 これらの場は、互いの実施状況や事例の共有、ミニアイデア大会など、先ほど個人の「継続」で述べた上向きな力や工夫を取り入れる場としても活用できます。


2)実践する(Do)仕組み
 実践こそが「継続」そのものといってもいいでしょう。

 前回の「浸透」でご紹介したPDS(あるいはPDCA)、すなわち「理解する」プロセスと「実行する(実践する)」プロセスを交互に繰り返すことが基本です。

 理解した上で自分なりにPLAN(P)してDO(D)してみると、何らかの結果が得られます。その結果をSEE(S)して、良い結果なら振り返って何が良かったのかを考え、次回もっと良くなるPLANを考える。

 良くない結果なら振り返って何が原因かを考え、次回は良い結果となるようにPLAN(P)を変えてみる。この繰り返しです。

 両者は理念を共有浸透させ、「継続」していくためのエンジンであり“車の両輪”といえます。

 とはいえ個人の秘訣1.の楽しいことならいざ知らず、所詮は仕事です。2.についても、個人のモチベーションならまだしも、会社の目指す目的に対して個人に明確な目標を意識させ続けるのは難しいのではないか。

 つまり「理解する仕組み」と「実践する仕組み」だけがあっても「継続」などしないのではないかという疑問が消えません。


3)褒める(Admire)仕組み
 会社の掲げる理念への強い共感があり、自分の目指す目的として捉えられる従業員で、かつ顧客接点のある部署であれば、「理解する仕組み」と「実践する仕組み」だけでも「継続」するケースはあります。

 なぜなら自分のやりたいことに取り組むことで、お客様からの反応があって楽しいと思えるからです。

 けれども全員がこの条件に当てはまるわけではありませんし、当てはまる人でさえいつも楽しいこと(お客様からの良い反応)ばかりではないでしょう。

 そこで必要となるのが3つ目の仕組みである「褒める仕組み」です。

 自分の努力に対して相手からの前向きな反応がずっと得られないと、人は同じことを継続できなくなります。ましてもっと上を目指そうとは思えません。それは仕事に限らず、個人の趣味でも同じでしょう。

 毎日好きだからゴルフの練習を続けているけれど、ちっともうまくなっている手応えがなければつまらなくなってやめてしまう。続けるのがつらくなってくるものです。

 職場において日常的に個人の仕事を認めてあげられるのは誰でしょう。そう、そばにいる仲間や上司です。

 上司や同僚が、一人ひとりの努力や良い取り組み、成果に対して「褒める」ことができれば、それだけで本人の努力は報われ、自然と継続しようという気持ちになり、もっと上も目指したくなるものです。

 当初は理念への共感度が十分ではなかった人の中には、職場の仲間や上司とのやり取りを通してその意味をより深く理解し、強く共感していくこともあるでしょう。

 何より「褒める仕組み」は“所詮は仕事であり業務”と思っていたことを、「継続」したくなる、もっとやりたくなる“楽しいこと”に変えてくれるのです。

 “車の両輪”である「理解する仕組み」と「実践する仕組み」に対して、「褒める仕組み」は車をスタートさせ、次第に加速していくための“アクセル”といえるでしょう。

 「褒める」の第一歩は相手を「認める」ことから始まると私は考えます。

 「褒める」のがどうしても苦手という人は、「がんばったね」「大変だったね」の一言だけでもいい。あるいは「いいね!」のジェスチャーだけでも相手はうれしいもの。

 指摘すべきところは互いにしっかりやり取りしながらも、相手を「認める」「褒める」ことで人は続けたい、もっとやりたいと思えるのです。

 「認める」ことから始めて、上司はもちろん、全員が褒め上手になれた頃には、社内に「褒める文化」がしっかりと根付いていることでしょう。

 「褒める」には具体的な評価をする方法もあります。みんなの前でがんばった個人やチームを表彰する表彰制度は、組織ならではの良さです。

 単位はチームでも部課でも、全社でも構いません。どんどんやればいいと思います。その際、なぜどんなことで評価されたのかという「理解する」もセットで発表すること。

 共有したメンバーは、「それなら自分にもできそうだからやってみよう」「自分はもっとこうしてみて次回は表彰されたい」と「実践する」気持ちが高まります。

 同時にまねされたほうもうれしいですし、「では次はもっと上を目指そう」となるものです。

 そして会社である以上、最終的な評価は個人の昇給や賞与、昇進・昇格などの人事評価につなげていくことです。会社から“正式な”評価をもらうことで、さらに“アクセル”が利いてきます。


4 「継続のための3つのマスト」

 ご紹介してきた「継続のための3つの仕組み」は、「継続のための3つのマスト」の3つ目に当たります。

 継続の仕組みさえあれば、従業員と組織が理念実現に向かって勝手に「継続」し発展していくわけではありません。

 仕組みとしての“両輪”と“アクセル”以外に、例えていえば“ナビゲーション”となり得る2つのマストが欠かせないのです。

 マストの1つ目は「トップと上司が社員に語り続ける」こと。

 前回の共有浸透のプロセスでは、その第一歩として全従業員を集めた社員総会などで社長自ら理念実現への本気を宣言し、詳しく説明することだと言いました。が、ここで会社のトップである社長の仕事が終わったわけではありません。

 社長が掲げた理念を本当に浸透させ、「継続」し発展させたいのであれば、先頭に立ってずっと旗を振り続けなければならないのです。

 従業員は社長が今日も明日も、その先も本気なのかどうか、常にその背中を見ているのですから。

 旗を振り続けるのは社長だけではありません。上司が「社長は理念実現が大事と言っているが、それよりまずは数字を上げろ」と部下に命令していたら全ては台無しです。

 理念実現を本気で目指すという社長を信じようと思っていた従業員は、戸惑い、やりきれなさでいっぱいになります。

 上司は理念の主旨を理解して、部下に次のように宣言すべきなのです。「われわれが掲げる理念はお客様に当社の商品やサービスを使っていただかない限り実現しません。だからもっともっと買っていただこう」。

 2つ目のマストは「理念一貫、個人目標化」です。

 経営理念を、→ビジョン(中長期目標)→事業戦略→経営方針(1~数年単位)→実行計画(クオーター、月単位)と具体的な直近目標に落とし込み、さらにその先の部課単位の目標、チーム目標、最後に個人目標にブレークダウン(分解)するまで、一貫して反映させるという意味です。

 反対側から説明したほうが分かりやすいかもしれません。一人ひとりが自分の目標から経営理念を見上げたとき、「自分の目標を達成すれば、課の目標に、部の目標に、全社の目標に貢献できて、経営理念の実現に一歩近づける」という実感が持てる目標設定にすることです。

 一人ひとりの従業員が日々見ているのは、自分の目の前にある業務です。

 今やるべきこと、この1時間で、午前(午後)のうちに、今日1日でやるべきことを見て、それを達成しようとする。そこに集中して一つひとつ達成してくれるだけでも優秀で褒めるべき存在です。

 ですが、それらを単に業務の寄せ集め、“こなす”対象と考えるか、一つひとつの業務の達成が会社の目指す、そして自身も共感している理念実現に近づくことと考えられるかでずいぶん違ってきます。

 前者には目標はあっても、明確な目的がありません。あるとしたら給料をもらえるだけは働こうといった個人的なこと。給料に影響がなければ多少のミスには目をつぶる、業務改善などは余計なことだから考えもしない。

 一方後者の場合、見上げた先に自分も共感している経営理念が見えます。

 「またお客様から“ありがとう”と言ってもらえたらうれしい」とイメージできればミスを減らすでしょうし、もっと良い製品を作ろうという意欲や業務改善につながるでしょう。

 さらには全員が目標を達成することで、より理念実現に近づけるのだから、お互いに励まし合い助け合おう、そして共に実現を喜び合おうというチームや組織としての一体感やパワーも生まれるのです。

 掲げた経営理念の実現に向けて「トップと上司が社員に語り続ける」。経営理念実現のためのビジョン(中長期目標)を一人ひとりにまでブレークダウンして、「理念一貫、個人目標化」する。

 その上で小さなことから始めて、少しずつ「継続のための3つの仕組み」を回していくことで、経営理念実現に向けた取り組みを「継続」させ、さらに発展させていくことができるのです。

■継続のための3つのマスト

1 トップと上司が社員に語り続ける
2 理念一貫、個人目標化
3 継続のための3つの仕組み=IDeA(イデア)


5 理念の日常版=「行動規準」作成のすすめ

 経営理念実現に向けた取り組みをより「継続」させるためにもう1つ。このシリーズの「第6回 理念や行動規準を従業員にまとめさせたいのですが」でもご紹介した行動規準の作成をおすすめします。

 いわゆる“理念の日常版”で、理念をより現場で日常的に運用しやすくするために具体的な行動ベースで解説したものです。

 経営理念に「お客様の満足を実現する」とあっても、これだけでは現場の従業員はどう行動すればよいかをイメージできません。そこで行動規準の1つとして、例えば「まずお客様には私から最高のあいさつをします」と用意します。

 これなら「お客様の満足を実現する」ためにまず何をすればよいかが分かります。「まず」することは「あいさつ」で、それも「私から」する。

 「最高の」は抽象的ですが、解説文を付けて例示した上で、実際にやってみて一人ひとりが体験したケースを持ち寄り、「より良いあいさつ、最高といえるあいさつとは何か」をみんなで話し合って追求していけばよいのです。

 行動規準は今日入社した新人でもすぐに適切な行動ができるように、なるべく具体的で分かりやすいことが理想です。

 流れでイメージしてみましょう。一人ひとりが行動規準を理解して(Identify)、まずあいさつから始めてみる(Do)。お客様の反応も含めて、そばで見ていた上司や仲間が良かったところを褒める(Admire)、

 次に向けて改善できる点を理解して(Identify)、次のあいさつ(Do)につなげる。体験したことを一人ひとりが持ち寄り、チームで共有してもっと上の理念の実現を目指す。

 理念実現に向けて共有浸透、継続、発展していくイメージを、より具体的につかんでいただけたでしょうか。理念の実現に終わりがないように、行動規準にも上には上があって終わりはありません。

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 前回から2回にわたってお話ししてきたホンネの疑問「経営理念はあるけれど浸透も継続もできていません」への私なりの回答、いかがだったでしょうか。

 経営理念をホームページに掲げている全ての会社に、ぜひその意味を全社で「共有浸透」させ、従業員一人ひとりの行動を変え、全社で取り組みを「継続」させ、発展させることで理念実現に向かっていってほしいものです。

 実現に向かっている会社が増えている現在、“ホームページに描いただけの餅”では、お客様や取引先、社会、株主、あらゆるステークホルダーからの信頼を失うことになりかねません。

 私自身も今後、経営理念の作成や見直しのご相談をいただいた際には、経営理念や行動規準の言葉が出来上がって終わりではないこと。そこはスタート地点なのだということをこれまで以上にお伝えしていきたいと思います。

 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回は「理念の共有浸透のさせ方は会社ごとに違いますか」というホンネの疑問にお答えしたいと思います。


(著作:ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田 斉紀)
※上記は、某金融機関の法人会員向けに執筆した内容を一部改編したものです。本文中に特別なことわりがない限り、2020年6月時点のものであり、将来変更される可能性があります。※転載される場合は著者名とコラムタイトルを必ず明記ください。

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