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【読書感想】津村記久子『君は永遠にそいつらより若い』

2019/01/27 読了。

津村記久子『君は永遠にそいつらより若い』

湧き出て止まらないこの感動を文章にできるだろうか。読み終わって数時間経つのに、感想を書ける気が全くしない。何なら書かずに自分の脳だけにしまって置きたい気さえする。こんな気持ちになる事は本当に珍しい。 

「また変わった女の子だと思われてしまった」

数ページ目に現れた主人公ホリガイの言葉でこの小説は自分にとって特別な一冊になる予感を持った。個性を積極的になくしてしまいたいのに、変なふうに思われてしまうような事を言ってしまう。分かるを通り越して、これ私の事書いてんじゃないの、とドキッとした。「処女」という単語がしっくりこず、「童貞の女」と表現するの、すんげえ分かる。

ホリガイは、同性愛者かというとそうでもなくて、自分の性に違和感があるかというとそうでもない。男性という種別に憧れている感はあるが、男性を装おうという気はない人。このホリガイの淡々かつ軽妙な語りが実に面白い。下品なのも実に好ましい。

このホリガイが見初めた人間というのが何人かいて、その人達から語られるエピソードはとても社会問題的。不登校、リストカット、共依存、巨根すぎて入らない、親の離婚、レイプ。

地の文がホリガイの喋りというのもあるが、熱量がどれも一定で、湿度も湿りすぎてないし、乾きすぎてもいない。ともするとこの手の話は食傷気味なのだが、ドラマチックに書かれていないので、読んでる私が勝手に想像して勝手に動揺して勝手に落ち込んだ。こんな読書体験は今までに経験した事がない。

ホリガイは児童福祉司の資格をとり公務員試験に合格している。なぜ児童福祉を仕事にしようとしたかの動機は、解説にもあったが、実に美しい理由。美しいといっても、感動的なものじゃなくて、もっと地べた這いずり回るような美しさ。

ホリガイの性格とか離人感があるとことか、自分にとても近くて共感しながら読んでいたんだけど、ラストの、ラストのホリガイが、個性を消そうとしてるホリガイが、自分の信念で突き動くところが、まんま自分で、私はそこで狂ったみたいに泣いた。私を知っている人は、「こりゃ竹竿だわ」と言うだろうなと思いながら泣いた。

津村さんの小説は二冊目で、読みはじめは一体どこに連れて行くの、と混乱するけれど、すごいところに連れて行かれました。しばらくこの感動は温泉掘り当てたみたいに続くと思う。これ書いてても多幸感が溢れてくるなぁ。幸せだ。

そして、ホリガイとホミネの精神を自分も持っていたいと思う。変なことでも。人から奇異な目で見られようとも。虐げられてる子供は絶対に無視しない。これは言うほど簡単ではないと分かってる。怖いしね。それでもまあそういう時は勝手に身体が動くくらいには、私も変です。

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