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【読書感想】津村記久子『浮遊霊ブラジル』

2020/03/06 読了。

津村記久子『浮遊霊ブラジル』

7編の短編が収録されている一冊。

現実に即してはいるけど現実ではなかったり、現実と離れてはないんだけど現実でなかったり、でもファンタジーでは決してなくて、控えめに言っても最高に面白いお話集だった。

津村記久子さんの小説は掃除機で吸い込まれるように、ぎゅーんと引き込まれる瞬間がある。

3編目の「アイトール・ベラスコの新しい妻」でいうと、友人から頼まれたアイトール・ベラコスの再婚について書かれた記事をスペイン語から日本語に翻訳していたら、アイトール・ベラコスの再婚相手が小学校の同級生だった、と分かった時に、津村さんの掃除機にぎゅーんと吸い込まれた。

物語消費しすぎ地獄に落ちた女性作家の「地獄」というお話も面白い。地獄では最も業が深かった時の姿で過ごさなくてはならない(ここでぎゅーんと吸い込まれた)という設定はどうやったら思いつくのよ。1日に何回も人が殺され、それが解決される刑事ドラマを毎日毎日楽しんだから地獄へ落とされるって、訳分かんないようだけど言われてみれば確かに業が深い。

表題作である「浮遊霊ブラジル」は、生まれて初めての海外旅行を目前に72才で死んでしまった三田さんの話である。このお話が最後に収録されているのが読み終わりを清々しいものにしてくれている。

いま世の中が大変な事態になっているけど、私は自分の人生にある種の達成感を抱いているもんだから社会の切迫感についていけずにいる。そういう時に読んだからか、ふわふわとした浮遊感が居心地よかった。




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