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【読書感想】朝井リョウ『ままならないから私とあなた』

2019/05/02 読了。

朝井リョウ『ままならないから私とあなた』

雪子と薫、小学5年生から物語は始まる。後に薫は天才少女として有名になっていくが、選んだ訳でも選ばれた訳でもない、ただの小学校の同級生だった時から物語が始まっていくのが何とも恐ろしい。

仲は良いけれど、要所要所で感じる違和感。差違が続くと、離れた方がお互いのためだと感じ始める。でも、ズルズルと付き合いは続き、やがて取り返しのつかないぶつかり合いになる。これは女友達特有のものなのだろうか。私は女だから、薫と雪子のような親友関係からの絶交みたいなのは結構あるんだけど、男だとないんだろうか。もし、女特有のものだとするなら女はダメだなあ(苦笑)。 

これ別に若い人向けの小説じゃない。中年でも立派に滅多刺しにされました。自分の中に存在する、触れられただけで破れてしまいそうな薄い膜。膜の中には、他人への嫉妬や自己愛、承認欲求や功名心、敗北感などが詰まってる。膜が破れないように、人に見つからないように抱えて生きてきたのに、朝井リョウが言葉を与えやがった。言葉として向き合うと、大切に抱えてきたコレは醜くて放り投げたいものだった。読み終えた直後は、自己嫌悪で壊れそうだったけど、1日経って、醜くて放り投げたいものも自分の一部で、自分と切り離せないものだと感じられるようになってきた。 



【ここからは物語のラストに触れます】

ラストで、雪子と薫の、お互いの価値観を賭けた壮絶な演説の応酬がある。雪子の真っ直ぐな意見で終わるかと思いきや、ここで雪子は吐き気に襲われる。おそらくそれは妊娠の兆候。

妊娠をオチに持ってくることの賛否はあるだろうと思う。一見、安直な気もするし、ままならないことが妊娠だなんて子どもに失礼じゃないかと言う意見もありそうだ。でも、子どもは、枷だ。子どもを持つことで生活は制限される。労働も然りだ。妊娠をマイナスに捉えさせないような社会の風潮に波風立てる気満々のラストシーンが、私は好きです。

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