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【読書感想】西加奈子『i』

2020/05/17 読了。

西加奈子『i』

たぶん、今から書く感想は自分から剥がれてきた汚い部分だと思うけど、垢だって自分の一部なので正直に記す。

読み終わって一言目に出たのは「働け」だった。 

「アイよ、社会の不幸を嘆きながら、働こうや」と吐き気がした。

赤子の時に裕福な夫婦の養子になったシリア出身の女の子、アイ。見目はシリア人だが、中身はズブズブの日本人。アイは、没個性を肯定される日本の学校が合うし、数字で判断する偏差値制度にも疑問を持たないし、自分の進路も人生も生活も人に決められたいという女の子。

自分のことを俯瞰から見られる冷静な目と、言葉を選ばすに言えば怠惰な部分がアイの魅力で、偽善者だと認識しながら世界の不幸に想いを馳せるアイも嫌いじゃない。

だけど、私はこの小説が根本から理解できないのは、富裕層のお話だからだ。労働が描かれていないこと。それが凄く不自然に映った。

アイが外部の力ではなく、自分の中だけで、自意識だけで変わるために、働かせる訳にはいかなかったのだろう。働くという活動は社会への一番の近道だから。でも、大学生でもバイトはしないし、大学院生になっても途中で休学して不妊治療に勤しむ姿は、不自然で現実感がなかった。これは、ありあまる富側の人間の話なのだ。富裕層でなければ、こんな生活はできないと妬んだ。

豊かであるから"考えすぎ"ができる。貧乏暇なしの私はこんな風に穿った読み方しかできなかった。コロナ流行期も必死で働いてきたし、少し収まった今も精神をすり減らしながら働いている。そんな時に読む本ではなかったのかもしれない。

アイは苦しんでいる。それはすごくよく分かる。 

「苦しんでいる人がいる世界で自分が苦しいと言ってよいのか。お金があって幸せであっても、自分の苦しさを人に言ってよいのか」

不幸に小さいも大きいもない。苦しいなら苦しいと言えばいい。逆に、どんなに社会が絶望に包まれても自分が幸せなら幸せと感じていい。苦しいと楽しいが一緒くたになる時だってそれでいい。アイの全部を肯定してやりたい。やりたいけど、自分の中の気持ちだけに固執して、周りが作ってくれた繭の中から外の世界を憂うだけのアイとそれを許す周りの人間を、私は私のクソまみれの人生を賭けて否定する。

アイよ、働け。
そして、苦しみながら、楽しんで。





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