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10年に1本でもいいから最高傑作を見たい

上映終了までに、どうしても「さらば、わが愛 覇王別姫」をもう一回スクリーンで観たくて再び映画館へと足を運び、パンフレットも買ってしまった。感想文でも書いたけど、本当にスクリーンで観るべき映画ってあるんだなあ、とつくづく思った。
 



わたしは映画オタクではないけれど、平均よりは映画好き。”好き度”でいうと中の上か上の下か。なじみのない人に対してなら多少語れるかもしれないけど、レビューを書くほどでもない。

こないだ映画レビューをしてるYouTuberさんが「感想とレビューは別物である」と言っていて初めて知った。もちろん感想がダメというわけではなく、「批評するならレビューを書け」という趣旨だったと思う。評論なんて到底できないので、わたしは今後も甘んじて感想文を書かせていただきます。


覇王別姫に惚れた


これまでの人生で好きな映画はたくさんあるし、スクリーンでこそ見た方がいい! というのももちろんある。特にアクション系。


本作のテイストだと、今までのわたしの価値観だとテレビサイズでもいいと思えるはずだったのがあっという間に覆された。2回目だろうとスクリーンで観たいと思える何かが確かにあった。過去にも2回観に行った作品は単純に気に入ったから。でも、本作はそれだけじゃなかった。


ひとつは京劇の美しさ。舞台として動きが派手とはいえ、ハリウッドの超大作に比べるとささやかなものだ。しかしあのCGナシ(だよね?)の豪華絢爛な衣装や小道具、そして優雅な動きは大画面で見る価値がある。


それだけじゃない。わたしはド素人なので何がそんなにいいのか気づかなかったのだけれど、YouTubeのレビューを見たところ、些細なシーンでもセットを手抜きしてないらしい。たしかに、すべてにおいてぬかりがなかった。細部にわたってリアリティがあり、現実に引き戻される瞬間は皆無。しかも3時間という長丁場でよ。こういうのが製作費をかけるということなのだ。ド素人が気づかずに「なんかよくわからんけどすごかったな」とぼんやり思えるのが、その証拠ともいえる。


そして、またも某YouTubeの受け売りなんだけども、アート作品と思いきやそうじゃない、っていうのもよかった。明らかなアート作でなくても、それっぽい映画も多く、けっこう好んでみたりする。でもアートって一歩間違えると制作側のエゴになる。アート系じゃなくてもそういうのは多い。展開上不要でしょ、という冗長なシーンが続いても「こういうものか」と自分に言い聞かせてる気がする。


一方で、本作は京劇という中国の古典芸能でありアートとして扱ってもよさそうなものなのに、必要以上に「魅せよう」としていない。もちろんその美しさや迫力など、京劇の魅力を余すところなく見せてはいるけれど、それはストーリー上必要だったから。これも予算が潤沢にあったからなんだろう。映画レビューで「色んな意味でこんな作品は二度と作れない」と言っていて、理由の一つが莫大な予算とのことだった。


演出に関しても大げさなところがひとつもない。見る側の心理を揺さぶるシーンで「ここ、注目するところだよ!」という、これ見よがしな演出はなんか拒否したくなる(先日、堺雅人のインタビューで「小説は読まない。犯されている気分になるから」というようなことを言っていて、激しく同意。共感できない独りよがりな世界観は苦痛)。


サラっとしているのにしっかり伝わる。これはひとえに俳優の演技力と演出のたまものなんだろう。これまた素人なもので、何がこんなにいいのか明言化できないのだけど、そのくらいナチュラルに見せてくれるということで。


最近の映画も好きだけど


最近はテレビでも十分じゃないかという作品や、若手俳優やアイドルのプロモーション用だよね、という作品が増えている。

昔とは映画の位置づけもずいぶん変わって、作る側・見る側も多様なスタンスがあるので別に文句いうわけじゃない。わたし自身、ライトな作品も好きだし、特定の俳優や監督目的で行くこともある。ライトに見えて本質を突いた作品があったり、俳優がめちゃくちゃ魅力的だったり、逆に深いように見せた駄作もあったりで、一概にいえなかったりする。


オタクじゃなくても”いい”ものは”いい”



でも本作に出会って、「これが映画か!」という衝撃を受けると、たまには重厚感のある、映画でしかできない最高峰の表現っていうのを見てみたいと思った。


わたしは中国の歴史も知らないし、出ている俳優も知らなかった。映画オタクというほどでもない。それでも衝撃を受けた。たぶん、数十年たった後でも見たい。というか、初見の段階ですでに30年経っているのだ。感想は人それぞれ違うにしても、何年たっても色あせない映画はきっとほんの一握りに違いない。


オタクとかマニアしか理解できない映画は、いくら評価が高くても別枠に入る。その界隈で愛されるのは構わないけど、いいものは問答無用でいいんだ。これは映画に限らず芸術全般に対して思う。勉強しなきゃ理解できない芸術、「わかる人にはわかる」芸術は、前頭葉が肥大化した、つまり頭でっかちの人間のための芸術だ。そうではなく、前知識も何もナシで、教養があろうがなかろうが「いいね!」といえるものが本物。本作は後者だ。


あらゆる条件がそろってできた本作は、もう二度と作ることができない──ということはこれに匹敵する新作映画はもう見ることができないということ? 技術が進歩したところで、芸術も進歩するわけじゃないんだな。むしろ普遍的なものが芸術か。


もちろん、必ず潤沢な資金で作られた超大作が良いとは言わない。素晴らしい監督やプロデューサー、それに共鳴した人々が集まればいい作品は生み出されるハズ。

ただ、細部にわたって妥協しないセットに小道具、CGではない群衆の動きというのは、見る側の没入感にまあまあ影響するんじゃないだろうか。CGで100%リアルを再現できるというのなら、全然歓迎するけども……今のところ信じていない。


映画ファンとしてのささやかな決意


子どものころからそれなりに好きで、いまだに新しい発見をさせてくれる映画。そこで十年に1本でもいいから傑作が生まれてほしい。

だから、わたしはできるだけ映画館には割り引きナシで行くことにする(笑)。 最近、2館ほどメンバーズカードに加入したけど、このくらいは許してね。ちなみに先日、劇場が暗くなると同時にお菓子が入った小さいタッパーを取り出した人や、売店にはないはずの缶のプシュっという音が聞こえたりして、複雑な思いをした。そういう人もいるのはわかるよ。でも近くの席で2組もいたので「多いな!」と思ったわけ。覇王別姫を見るような人がセコいことするなよ! という超個人的な感情も含めてね。


そういう自分も、若かりし頃に心当たりがあるのでエラそうなことは言えないんだけど。でも今は違う。わたしはしっかり売店で買うことで、わずかながらでも映画業界に貢献しようと改めて思った。そういう気持ちの余裕が持てるようになったっていうのは、成長したってことね。と自分で自分をほめたとさ。




わたしが見た本作のレビュー動画。両方ともおもしろかった。






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