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ビジョンを浸透「させる」だけでは辿り着けない「自分ごと化」の世界【少し未来の、組織と個人の健康的関係】

最近、「自分ごと化」をテーマにした取り組みに携わることが増えてきました。ビジョンやミッションやパーパスや、語られ方は違いますが「自分ごと化」に皆さん四苦八苦しておられる印象です。

一朝一夕では進まないコトです。ゆっくりと、ジワジワと進んでいくコトです。だからこそ経営層のコミットが大切だと語られることが多いです。常日頃から語って聞かせる意味、自分の言葉でアウトプットする意味、経営者自身がビジョンを体現する意味、この辺りは十二分に語り尽くされていると思います。

ここについてはまったく異論はなく、僕も実際その通りだと思います。経営者がビジョンに対してコミットしない行動を取ると、組織には強烈な「シラけ」が起こると感じています。あとはビジョンの実現に沿った評価制度をしっかり作るとかね。まぁでも、これはよく語られる文脈です。

なので、今日はちょっと異なる視点からこのテーマについて考えてみたいと思います。そもそも「自分ごと」って何なんでしょうね?ってコトから掘り下げてみましょう。



▶︎01.自分ごと化の「そもそも論」


「自分ごと化」のそもそも論なのですが、「自分」が分かっていないと「自分ごと」には永遠に到達しないと強く感じています。

名著「学習する組織」ではビジョンに対する姿勢の七段階として①コミットメント、②参画、③心からの追従、④形だけの追従、⑤嫌々ながらの追従、⑥不追従、⑦無関心を挙げています。

僕の解釈では②参画と③心からの追従の間には大きな壁があり、その壁を越えられない原因は「自分ごと」になっていないからです。

「参画」と「心からの追従」の間には壁がある

そして、いつまでも「自分ごと」にならないのは、そもそも「自分」が分かっていないことに大きな要因があります。

逆に言えば「自分」が分からずとも③「心からの追従」までの状態は作ることができてしまいます。この状態に至るまでは経営層のコミットなど「落とし込む」プロセスによって近い状態まで持っていくことができるでしょう

ですが、もし②「参画」の状態に至りたいのであれば「自分」が絶対的に必要なのです。



▶︎02.「自分ごと化」の前に「自分」にフォーカスする


では「自分」とは何か。「自分ごと」とは何か。
それは「個人が大切にしているモノ」と深い関係があります。

色んな言葉で表現できますよ。組織と同じようにビジョン、ミッション、バリュー、パーパスといった言葉かもしれません。あるいは意志、価値観、熱源、情熱、パッション、原体験、文脈、美学、好き、フィロソフィー、こんな言葉で表現できるモノかもしれません。

個人が大切にしているモノはそれぞれに違います。どれを考えるのが正解かは個人によって異なります。一つのテーマで考えれば誰でも同じように大切なモノが見つかるかと言えば、まったくそんなことはありません。超がつくほど千差万別。

ですが、どんな言葉で表されるモノだったとしても、それを個人が「認識する」ことができていないと「自分ごと化」は進まないと感じています。自分の大切なモノが分からずに、組織の大切なモノが自分ごとになるはずはありません。

そして実は、「自分の大切なモノ」を認識できていない人は思った以上に多いのです。

何が自分にとって大切か、自分の内側から溢れ出る「想い」を言葉にできますか?



▶︎03.ビジョンへの共感は、果たしてゴールなのか


ビジョンに共感する。よく出てくる表現です。
しかし、「共感」すれば「自分ごと」になっているワケでもないと思うのです。

僕の解釈ですが、共感には「受動的な共感」と「能動的な共感」があると感じています。

そして実は「自分の大切なモノ」が分からない状態でも受動的な共感はできてしまうのです。コレがなかなか手ごわい課題です。

例えば、組織のリーダーが語るビジョンをステキだと思い共感する。しかし実はまだ自分と結びついたビジョンとはなっていない、なんて状況がフツーに起こります。だから「ビジョンに共感しているのに自分ごとにならない」という、「えっ!?、何それ?」な現象もよく起こるのです。

対して能動的な共感は「自分の大切なモノ」と「組織の大切なモノ」に共通項を見出したときに起こります。

すべてが一致している必要はない、でもどこかに一致するモノがあるから「組織の大切なモノ」と自分がつながる。このとき「共感」は「共鳴」になります。

さらに「自分の大切なモノ」によって「組織の大切なモノ」の達成により貢献できる。あるいは「組織の大切なモノ」によって「自分の大切なモノ」がさらに強化されていく。そんな相互作用を認識できると「共鳴」は「共振」になります。これが僕の目指す状態です。

だから、細かいことですがビジョンを浸透「させたい」といった要望を受けたときには、そもそも論のアプローチが違うことを丁寧に説明します。「させたい」をスタンスとして取り組んでも辿り着けるのは③心からの追従です。もちろん、それでも目指すものが「させる」のであればそれでも結構なのですが、僕が関わる必然性は無くなります。というより僕は何の役にも立てなくなります。

おさらいすると、「共感」→「共鳴」→「共振」のプロセスですね。

共感→共鳴→共振

もちろん物理学的な意味合いとは違う言葉の使い方(物理では共鳴と共振は同じ意味)なので、単なる言葉遊びの一種ではあるのですが、イメージは掴みやすいのではないでしょうか。


▶︎04.いっそ、組織が「個人のビジョン確立」もサポートする!?


つまり実は、組織活動においても「自分」にフォーカスしていくプロセスを敢えて取り入れることが、組織のビジョンに共鳴・共振していくためには近道だったりするのかもしれません。

「自分の大切なモノ」を言語化するようなプロセスを組織がサポートするなんて、普通に聞くとちょっと変だなぁと思うかもしれません。もちろん「そんなコトは個人がやるべきだ」も正しいですし「そこまで個人に立ち入るのはおかしい」も正しいです。

ただ、構図として考えれば「自分の大切なモノ」を言語化するサポートは組織にとっても理に適っているはずなのです。何せ、組織と個人の大切なモノが相互作用を生み出してこその「自分ごと」ですから。感じる課題は「やり方」の工夫で何とかなるケースも多いですしね。


▶︎05.「自分」に意識を向けることが苦手な日本人


そもそも、日本人は「自分」について語ることが非常に苦手な人種だと感じています。「個人」よりも「集団」にフォーカスがあたった思考をしがちですよね。自分も同じです。

例えば自分がどんな「属性」に位置しているのかを気にしてしまいます。住んでるエリア、立場、はたまた血液型まで。どの国にも多かれ少なかれ「属性」からモノを考える傾向はあるでしょうが、特に日本は顕著ではないでしょうか。

他者との相対性を気にする状態では、なかなか自分の内側に意識が向かわないことも頷けます。

また、普段のコミュニケーションを思い返していただくとよく分かるのですが、僕たちは「主語」を頻繁に省いて会話しています。

しかも、会話の中で「主語」が頻繁に入れ替わります。だから、気づいたら「何の話をしているのか」を見失うことがメチャクチャ多い。

そんな「文化」と「言語」の特性を持っている僕たちは「自分」について考えるのが苦手です。だからいつまで経っても「自分ごと」にはならない。

余談ですが、そんな僕たち日本人の思考回路を逆手に取って「英語の文法で自分について深堀りをする」ジブンの『あり方』Englishというワークショップを実施しています。日本語で思考していたのでは見つからなかった「思いもしなかった自分の姿」が英語を使うと途端にクリアに見えてくるのは、とても面白い体験ですよ。


▶︎06.トーチングからはじまる伝播のジワリ旅


もしこの投稿を読んで「いやいや、自分は自信を持って自分のことを分かっているよ!」という方、それはとても素晴らしいことです。ぜひその姿勢を隠さずに、周りに伝え続けてほしいです。あなたの姿勢はきっと周りに伝播するから。

誰かの「あり方」が、また誰かの「あり方」へ影響を及ぼしていく。これをトーチングと言います。ティーチングとコーチングはよく語られる手法ですが、実践している人の存在によって他の人が影響を受ける「トーチング」の力はなかなか目を見張るモノがありますよ。

誰かの姿勢によって、また誰かが影響を受ける



▶︎07.まとめ


と、そんなこんな。

「自分ごと化」に取り組むのであれば、まず「自分」に向き合うことが大切なプロセスですよと、普段から感じ活動しています。

「自分」に向き合う方法はメチャクチャたくさんあります。ただ、その方法のどれを使っても僕たちの持つ「言語」と「文化」の特性によって、思考が自分からズレることがあります。ただ、そんな課題を知りながら「自分」に向き合い続ければ、きっと大切なモノも見つかるはずです。

「自分の大切なモノ」が見つかれば、「組織の大切なモノ」との共鳴・共振も見出せることでしょう。個人が先に取り組むのか、組織が先に取り組むのかは分りません。ご自身のいまいる環境で出来ることを実践していけばよいと思うのです。おわり。

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