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論文紹介 なぜ中国はパキスタンと連携してアフガニスタンに関与するのか?

2021年8月15日、アフガニスタンの首都であるカブールをタリバン(Taleban)が占領し、長年にわたって米国が支援してきたアフガニスタン政府は事実上崩壊しました。

アフガニスタンからの米軍の撤退を指揮しているジョー・バイデン米大統領は、17日に大統領官邸で演説を行い、自分が予測したよりも事態の進展が速かったことを認めました。それでも、アフガニスタン自身がタリバンと戦おうとしない中で米軍の兵士をタリバンと戦わせるべきではないと国民に理解も求めています。批判を受けることは承知の上での決断であったという発言もありました。

中国は、米国がアフガニスタンから撤退を進める様子をただ眺めているわけではありません。最近の中国はアフガニスタンのタリバン政権を支持する姿勢を見せているためです。この中国の動きを理解するためには、タリバンの後ろ盾になっているパキスタンと中国との間に緊密な協力関係があることを理解しなければなりません。

この記事では、アフガニスタン問題をめぐる中国とパキスタンの戦略的連携がどのようなものであったのかを解説するために、2020年にGhulam Ali氏が学術誌『パシフィック・レビュー』で発表した論文「アフガニスタンに関する中国・パキスタンの協力(China–Pakistan cooperation on Afghanistan)」の内容を紹介したいと思います。著者の職位は不明でしたが、中国の四川軽化工大学マルクス主義学院に籍を置く研究者で、2017年以降にインドとパキスタンの関係に関する研究業績を継続的に出していることが確認できました。

Ghulam Ali (2020) China–Pakistan cooperation on Afghanistan: assessing key interests and implementing strategies, The Pacific Review, DOI: 10.1080/09512748.2020.1845228

2010年代に中国の対アフガニスタン政策は変化した

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中国はアフガニスタンと76キロメートルの国境で隣接しています。しかし、歴史的に見れば、中国の外交政策におけるアフガニスタンの重要性はそれほど大きなものではありませんでした。

2001年9月11日に国際テロリスト集団のアルカイダ(Al-Qaeda)が米国で同時多発テロ事件を引き起こし、同年10月に米軍がアルカイダを援助したと見られたアフガニスタンのタリバン政権に武力攻撃(2001年のアフガニスタン侵攻)を開始した時も、中国は紛争に巻き込まれることを慎重に避けました。

しかし、2010年前後から中国の対アフガニスタン政策は変化し始め、次第にアフガニスタン情勢に関与を深めるようになっています。2012年に中国共産党の政治局常務委員を務めていた周永康がアフガニスタンの首都カブールに派遣されたことは、その端緒となる出来事でした。

中国はアフガニスタン政府とタリバンの和平を仲介することを推進し、2014年10月に北京でアフガニスタンの和平会議を主催しました。この会議の後で中国はタリバンの代表団を中国に招待しており、その後も数度にわたってタリバンの代表団の訪問を受けました。

2010年代にこれほどの政策転換があった理由について、著者はいくつかの理由を上げています。

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