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メモ 現代日本の政治における宗教票の重みを過大評価すべきではない

近年、自民党と宗教団体の関係に注目が集まっています。これは日本の政治史を理解する上で重要な視点ですが、日本の選挙制度を踏まえ、宗教団体の集票力が議員の当落にどの程度の重みがあるのかを相対化して把握することが重要です。宗教団体の動員力を過大評価すべきではありません。

日本では古くから政党が宗教票を動員することがありましたが、宗教票の動員を戦略的に活用し始めた政治家として歴史的に重要なのは自民党の玉置和郎(1923~1987)です。玉置は新宗教の生長の家が設立した生長の家政治連合を支持基盤としており、1965年の参議院議員通常選挙で当選を果たしてからは、参議院で強い影響力を持つようになりました。与野党の勢力が拮抗する中で宗教票が世間の注目を集めた1977年の参議院選挙では、神社本庁の政治団体である神道政治連盟の一部の票も動員しており、最終的に111万票を獲得しました。

同時期に玉置と同じように宗教団体を動員した自民党の政治家には内藤誉三郎(1912~1986)がいます。彼は仏教系の宗教団体である立正佼成会モラロジー研究所などから支持基盤を構築し、107万票を得て全国区から参議院の議席を確保しました(1977年参議院選挙)。当時の宗教団体の選挙活動に関しては、朝日新聞社調査研究室(1978)『宗教団体の選挙活動:その現状と今後』社内報告が詳しいので、興味がある方は大学図書館などで探してみるとよいでしょう。この資料では、この時期の選挙で宗教票が自民党の議席獲得に寄与したことが確認できますが、長期的傾向として日本では世代交代が進むほど宗教市場が縮小する傾向にあり、宗教団体は信者の減少や収入の落ち込みに対応することを余儀なくされています。先に述べた生長の家政治連合も1983年に政治活動を停止しましたが、これは宗教団体にとって目に見える成果が得られない政治活動に関与し続けることが財政的に難しくなったことを反映していると考えられます。

中北浩爾(2017)『自民党』中央公論新社では自民党本部の組織関係者の証言が多く引用されていますが、そこでは宗教団体の動向として、「多くの宗教団体は信者数の減少に見舞われ、会費や寄付が潤沢に集まらなくなった。資金的に苦しくなっていて、コスト・パフォーマンスが悪い政治から手を引いてきている」と苦しい状況にあることが述べられています(211-2頁)。神社本庁、霊友会仏所護念会教団のような宗教団体も長期的に集票力を落としており、これらが自民党の政策決定を左右できるほど強い影響力を持つようになっているという見方は妥当なものとはいえません。ただ、例外的な存在は公明党を支える創価学会です。やはり創価学会も集票力を低下させていますが、今でも単独で600万票から700万票ほどの動員が可能と見積られています。これだけの票があれば、選挙区によっては候補者の当落を左右することは不可能ではないため、依然として自民党の政策決定に対して実質的な影響を行使することも可能です。

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