見出し画像

怪異の断片から巻き込まれる悪夢の数々―朱雀門出『第七脳釘怪談』著者コメント・試し読み・朗読動画

平穏な日常を嘲笑う超リアルな恐怖譚!

伝説の実話恐怖譚「脳釘怪談」シリーズ待望の新刊!

内容・あらすじ

プール一面に薄ピンクのものが…
「脳だ。これって人間の脳みそじゃんか――」 
「三十六 プールにいっぱい浮いていた」より

怪異の断片から巻き込まれる悪夢の数々――朱雀門出の人気シリーズ第七弾!
・幼い頃より鬼や霊を見る男が、それ以外に見えるという奇妙な物とは「車輪を回す
・居酒屋で耳鳴りと同時に見えたのは真っ黒な…「ブクブクブクブク
・子供の頃に遊んでいた神社には賽銭箱に座っているお爺さんがいた「死んだ神さま
・友達が死んだのは箱から飛び出た刃物で首を切ったからなのに…何が正しい記憶なのか「喉切り箱
・二階の部屋から見える学校のプール、ある冬の早朝の異変「プールにいっぱい浮いていた
――など44編を収録。

著者コメント

 脳釘怪談シリーズをご購読頂いている皆様のお蔭をもちまして、七巻目も上梓することができました。
 ご愛読頂き、本当にありがとうございます。
 また、今回初めてお目にとめて下さった方には、これから本書を楽しんで頂けたらと願っております。
 
 日々、様々な情報を目にし耳にする中で、実際に体験された奇怪な出来事を取り上げて、書き留めているのが当シリーズです。
 第七巻だから、七に因んだ話ばかりであるとか、七話だけ入っているというようなシバリはありません。
 採話した時期による時代性や、怪談提供者が属する社会による舞台の偏りなどはあるでしょうが、怪異についての話であること以外にテーマはありません。
 逆にテーマを決めないからこそ、どのグループにも入れようがないような、怪談らしい不可解な話をお届けできるかと考えております。
 既刊をお読み頂いていなくても、この第七巻から初めてお読み頂いても充分楽しんで頂ける作りになっております。
 また、このシリーズを気に入って下さっている方も、今回も奇怪な話をお楽しみ頂けるかと思っております。
 
 例として試し読みの一話を以下に公開いたします。
 本編ともども楽しんで頂けましたら幸いです。

試し読み1話 

〈儀式の話 2〉 瞑唱

 これは、ある呪文を唱えながら行う儀式についての話である。例えば、念仏であれば南無阿弥陀仏だし、お題目ならば南無妙法蓮華経であるが、そこまで書くと無関係なのに特定の宗教組織と関係していると勘ぐられてしまうようなリスクがあるので、ある呪文としておく。
 鬼頭きとうさんの実家には、目をつむってその呪文をずっと唱え続けるという祈祷きとう法というか、そんな儀式が伝わっている。唱えているときは、絶対に目を開けてはいけないというのだ。
 もし、禁を破るとどうなるのか。それは、目が潰れてしまうというのだ。実際に、鬼頭さんは、子供の頃に唱えているときに興味本位から目を開けてしまい、右目は光を失ってしまっている。それは外見からわかるほどである。
 そんな危険な行為なのに、子供にそんなことをさせたというのはよほどのことかと思われる。鬼頭さん本人はなぜそれをしたのか憶えていなかったが、両親に訊くと教えてもらえた。ただ、知ってどうするのだと最初は嫌そうに断られた。そしてそれは親類の間でのトラブルを解消するためであった。だから、私のような他人には詳細は言えないとのことである。そのようなトラブルの話はこの怪異の本質ではないし、これから書こうという怪異には関係ないので、ここまでとする。
 また、儀式についても手を合わせて、〝何か唱える〟くらいに、大雑把に言って欲しいとのことだった。呪文に該当するものには、お経というか、念仏とかお題目とか真言しんごんとか祝詞のりととか色々あるけれど、そういうのは秘密である。ただ、鬼頭さんが見たモノが興味深いので、そこを話したかったと言うし、私も書きたかった部分である。
 そう。鬼頭さんが呪文を唱えているときに、目を開けてしまったと書いたが、そのときに目にしたモノである。
 なぜか目の前に、それまでいなかった人が立っていたのだ。
 最初は一緒に祈っていた両親のどちらかが気配を消して前に来たのかと思った。が、二人は横で目を瞑って呪文を唱えている。だから、いつの間にかそこにいた第三者である。
 誰なのかと反射的に目を向け、そして、注視していた。それで、はっきりと見たのだ。
 その人物の風貌は異様であった。直感的にもおかしいが、異常に気付くと怖さを抑えられなくなって声をあげてしまったほどであった。
 儀式は中止になった。
 鬼頭さんは目に激しい痛みを覚えて、もがき苦しんでいた。
 その謎の人物を両親は目にしていない。二人が目を開けたときにはそんな人物は鬼頭さんの前どころか、部屋にすらいなかったのだ。鬼頭さんからすると消えてしまったということになる。少なくともドアから出ていったのではない。戸は閉まったままである。
 だから、幻覚の可能性も否定はできない。ただ、いわれ通り、目を開けてしまって目にさわりが出ているので、後で話を聞いた両親も、そういう禍々まがまがしい何か・・はいたに違いないと思った。
 幻ではないとして、その、そばに立っていたこの世ならざる人物が誰なのかわからない。両親も親戚も知らない。目を開けると目が潰れるということだけが伝わっていて、誰かがそばにいるということは聞いていないのだ。わかることは、一緒に祈っていた両親ではないということくらいだ。他に人はいなかったので勝手に入ってきて勝手に消えた謎の人物である。
 顔については、のっぺりとしていて目の部分に穴が開いている、そんな面をかぶっていたので、わからないというのもある。
 ただ、その面というのが奇妙なのだ。上下が逆なのである。
 上下逆とすると、おかしなところがある。顔は面で完全に覆われていて、口や鼻などは見えていなかった。それなのに、目の穴からギョロリと目が覗いていた。その目と鬼頭さんは目を合わしたのだ。
 通常、逆さにした面を目の位置で合わせると、ずれができてしまい、鼻や口元が見えてしまう。逆に面のは頭のずっと上になるはずである。そうではなく、ちゃんと顔全体を隠すように面を付けていたのだ。だから、面の裏に隠されている顔も上下逆になっていると思える。
 上下逆に顔がついた謎の者。それが願いを聞いてもらっている相手そのものなのか、そんな神のような存在にメッセージを伝える使者なのか。それとも儀式の決まりを破った者を罰する為だけに来ている存在なのか。それすらもわからないが、鬼頭さんには目にしてはならない者を見たという後悔が今もあるという。

ー了ー

朗読動画

6/28 12:00公開予定

著者紹介

朱雀門 出 (すざくもん・いづる)

大阪府生まれ。2009年、「今昔奇怪録」で第16回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。著書に受賞作を収録した『今昔奇怪録』『首ざぶとん』、実話怪談では「脳釘怪談」シリーズ。共著に「怪談五色」シリーズ、『京都怪談 神隠し』など。

シリーズ好評既刊

第五脳釘怪談
第六脳釘怪談
京都怪談 神隠し

▲▲▲
※【京都怪談】シリーズ第2弾
『京都怪談 猿の聲』が、
来月末に発刊予定!